研究課題/領域番号 |
19K00159
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022-2023) 大阪市立大学 (2019-2021) |
研究代表者 |
江村 公 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 特任准教授 (50534062)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ロシア・アヴァンギャルド / 近代芸術 / ミュゼオロジー / 芸術論 / 現代アート / 記憶文化 |
研究開始時の研究の概要 |
「アヴァンギャルド・ミュゼオロジー」とは、20世紀初頭のロシアの芸術文化制度をめぐる多様な想像力の総称である。本研究はこの言葉をキーワードに、ロシアの歴史的アヴァンギャルドを美術館とコレクション、作品展示等の芸術文化教育の普及活動の観点から再考し、その意義や「現代性」を明らかにする。 まず、十月革命後の前衛芸術作品コレクションの成立過程を考察する。さらに、1927年日本で開催された展覧会を国際的なキュレーションの例として検討し、展覧会を通じた日本との文化交流の調査や米露の比較研究も行なう。最終的に、これら事例研究を積み重ね、「アヴァンギャルド・ミュゼオロジー」の基盤的理論の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
2023年については、前年度から引き続き、1920年代末から30年初頭にかけての展覧会を通じた日露の文化交流、および、十月革命をはさんだ文化組織の再編と記憶の場としての美術館というテーマで研究をすすめた。 まず、秋にフィンランドで開催されたヘルシンキ・ビエンナーレを視察した。本展のテーマは、近年注目を集めている気候変動や先住民政策に表れるコロニアリズムの問題に焦点が当てられていたが、その会場にひとつにヴァリサーリ島があった。この島は対ロシアおよびスウェーデンとの軍事関係において歴史的に重要な役割を果たしており、21世紀になっても軍関連施設として使用されていた経緯がある。武器庫や要塞が残り、また豊かな自然が残る島の地形を生かした作品展示が印象的だっただけでなく、現在のフィンランドとロシアとの緊張関係を踏まえると、歴史的記憶の再考にとって今回の視察は貴重な経験だった。この成果は、作品展示と文化的記憶の考察に生かしていく。 くわえて、1927年の「新ロシア展」の際に来日したロシア人キュレーターであるニコライ・プーニンの活動を中心に、当時の芸術家たちとの交流やこの展覧会の背景となった政治的状況に関する研究も続けている。2023年度はこの調査の内容を現代美術館の設立という切り口からひとつの論文にまとめ、十月革命直後に始まった文化制度の再編にともなう、ソ連における現代美術館設立の運動の過程に光をあてた。現代的な作品にふさわしい展示の方法やコレクション・ポリシーに関する、芸術家・批評家といった当事者たちの議論の一端を提示し、そのような活動には過去の伝統と現代性の調停の試みが見られることを指摘した。なお、ミュゼオロジーの観点からロシア・アヴァンギャルドを見直した研究は日本ではほとんど前例がないと思われるため、近代美術と美術館の関係を再評価する上でも意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
体調不良で学務全般を含めて業務量の調整をしており、研究へのエフォートも予定より下がってしまっているため。
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今後の研究の推進方策 |
本年は研究の最終年にあたるため、今までの成果をまとめる作業に入るが、大きく次の二つの項目から取り掛かる予定である。第一には、近年海外で進んだロシア・アヴァンギャルドにおける美術館設立と運営の先行研究をまとめ、紹介する作業である。これについては、近年、ロシア語や英語による資料や研究が相次いで発表されたが、日本ではあまり言及されていないため、政府からの圧力への対抗及び弾圧の問題も含めて検討する作業を行いたい。 次に、1920年台の展覧会を介したロシアから日本への様式的影響の考察である。日本の新興美術における立体作品、あるいはインスタレーションの起源を考えた場合に、ドイツからの影響がまず考えられるが、当時ソ連からの作品の影響も従来の先行研究ではあまり言及されないものの、本研究の過程からかなり重要だったと推察できる。とりわけ、リシツキーの作品を日本の芸術家が知った経緯について、2023年度の調査でわかったことを成果としてまとめ、発表の機会を探っている。 このように、ロシア・アヴァンギャルドが文化的記憶の装置として、どのように美術館をとらえていたのか、また、展覧会の実施が様式の伝播にどのような役割を果たしたのか、ソ連と日本のケーススタディとしてまとめ、公表する準備を2024年度中に確実に行いたいと考えている。日本におけるロシア・アヴァンギャルド研究においてはいわゆる組織論批評はほとんど前例がないため、この成果を公表できるよう全力を尽くしたい。
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