研究課題/領域番号 |
19K00169
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
石澤 靖典 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (20333768)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | ルネサンス美術 / 地獄の空間化 / ダンテ評価 / ボッティチェッリ / アントニオ・マネッティ / 人文主義 / ダンテ / 死生観 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では15~16世紀のイタリア人文主義におけるダンテ評価とカンパニリズモ(自国中心主義)にもとづく「イタリア美術史」観の形成を多角的に検証する。とりわけ人文主義者たちの多くが携わった地獄や煉獄などの地理学的、測量学的研究が、同時代の美術家の活動と、どのような協同関係を有していたのか、あるいはそうした知的関心が、この詩人の故郷であるフィレンツェにとっていかなる文化的・政治的意味を担っていたのかについて、多数の『神曲』挿絵やダンテの肖像画を題材として分析する。これらにより、ダンテ再評価の潮流が、文学研究のみならず、美術、自然科学、政治にまで及ぶ大きな文化運動となった過程とメカニズムを解明する。
|
研究実績の概要 |
(1)本研究では、15-16世紀イタリアの人文主義者たちがダンテ『神曲』に示した関心のうち、自然科学的観点にもとづく地獄の地理学的研究に焦点を合わせ、そうした文化潮流が有していた同時代美術との関連性を調査する。今年度はとりわけ、1481年のクリストフォロ・ランディーノ版『神曲』註解の序文で紹介された数学者兼建築家のアントニオ・マネッティによる「地獄の測量研究」と、その後継ともいうべき1506年のジロラモ・ベニヴィエニ『アントニオ・マネッティの対話』のテキストを比較し、両者の間に見られる連続性と差異を検証した。加えて時代的にこれら二つのテキストの中間に成立したと考えられる美術上の地獄イメージ、すなわちサンドロ・ボッティチェッリの『神曲』挿絵(ヴァチカン図書館)とジュリアーノ・ダ・サンガッロによる「地獄の断面図」素描(ローマ、ヴァリチェッリアーナ図書館、Ms.Z.79.A)の相関関係を考察した。現在、ベニヴィエニの論考がランディーノの時代以上により鮮明な地獄の視覚イメージを提示していることに着目し、その要因として、同時代に視覚化された上述のさまざまな地獄イメージのあったことを検証中である。 (2)こうしたトスカーナ地方におけるダンテ受容に対し、ヴェネツィアを中心とする北イタリアの動向についても調査をおこなっている。とりわけ1544年のヴェルテッロ版『神曲』においては、マネッティの地獄研究に対する否定的立場が強く主張されることから、北イタリア独自の『神曲』解釈が依って立つ前提が見いだされるであろうこと、しかし一方で、1568年にヴェネツィアで出版されたベルナルディーノ・ダニエッロ註解版には、ヴェルテッロ版で抑制されていたフィレンツェ絵画との親和性がより鮮明に窺われることから、両都市間の文化的立場の流動性について具体的に検証中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由 (1)アントニオ・マネッティの研究にもとづくフィレンツェ人文主義のダンテ解釈史について概ね予定通りに調査を進めているが、『神曲』註解版の異本や挿絵入り版本のフィレツェおよびローマにおける実見調査が、新型コロナウイルスの流行にともなう海外渡航情勢の不安定さから、次年度に持ち越しとなった。今後は、同時代の地獄の断面を描いた素描との比較において大きな重要性をもつ、ジュリアーノ・ダ・サンガッロによる「地獄の断面図」素描(ローマ、ヴァリチェッリアーナ図書館、Ms.Z.79.A)の現地調査を進めたい。 (2)16世紀ヴェネツィアにおいてフィレンツェのダンテ受容に対する反目と接近の双方の動きが見られることに着目し、その要因として『神曲』の人文主義的解釈と美術史的観点の双方に見られるカンパニリズモ(自国中心主義)の意義を想定している。とくに次年度は、美術史的観点を示す動向としてヴァザーリ『芸術家列伝』におけるトスカーナ中心主義の成立を同時代のダンテ受容との関連性から検証する予定である。 (3)15-16世紀のダンテ研究の推移が、同時代の芸術論に及ぼした影響を調査中である。とりわけ、ドナート・ジャンノッティがその対話篇(1546年)において、地獄と煉獄の空間性を検証する際にミケランジェロを話者に登場させた点に、ミケランジェロとダンテを中心に据えた「フィレンツェ文化」の再編を目指す国家意識が見てとることができるが、今後はそうした運動の背景となる文化状況について具体的に調査する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)ジロラモ・ベニヴィエニ『アントニオ・マネッティの対話』に見られるランディーノ版『神曲』との差異を明らかにするとともに、両者の間に介在する美術史的要素(ボッティチェッリやジュリアーノ・ダ・サンガッロによる地獄の視覚化など)とサヴォナローラ統治時代を経たフィレンツェ人文主義社会の思想的変化を調査する。とりわけ、ベニヴィエニのサヴォナローラ信奉者としての側面に着目し、彼岸イメージの変容を時代に即してさらに検証する。 (2)北イタリアのダンテ受容に見られる対トスカーナの意識の変化を、ヴェルテッロ版『神曲』からベルナルディーノ・ダニエッロ註解版への展開として検証する。とりわけ、フィレンツェの人文主義者ルカ・マルティーニとベネデット・ヴァルキを中心とする『神曲』のトポグラフィカルな研究が、北イタリアに与えたインパクトを比定し、同時にヴァザーリ周辺のフィレンツェ画家による地獄・煉獄表象の影響についても検討を進める。 (3)以上の考察内容を、15~16世紀におけるイタリア諸地域における新たな文化的アイデンティティの確立の場と措定し、その展開を成果報告書として発表する。
|