研究課題/領域番号 |
19K00186
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
今井 澄子 大阪大谷大学, 文学部, 教授 (20636302)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ブルゴーニュ / ネーデルラント / フランドル / フィリップ善良公 / ロヒール・ファン・デル・ウェイデン / 肖像画 / ジャン無畏公 / 貨幣 / ニコラ・ロラン / マーガレット・オブ・ヨーク / シャルル突進公 / ブランド / 肖像 / 祈祷者像 / フィリップ豪胆公 / 宮廷美術 / パトロネージ |
研究開始時の研究の概要 |
まず①分析の基盤として、板絵・彫刻・写本などの媒体に描かれたフィリップ善良公の肖像の基本情報の整理を行い、表現の次元を肖像・祈祷者像・広義における公の表象(扮装肖像)に分類する。②肖像表現を分析し、写実性と装飾性、および象徴性を合わせ持つ表現コードを「ブルゴーニュ・ブランド」として規定する。つぎに③肖像の機能の比較を通して、フィリップ善良公が意識的に媒体を使い分けていたことを示す。そして④公の肖像(コピーも含む)とその表現コードが、公の後継者や他の宮廷に受容され、普及する様子をたどる。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、①肖像が普及した15世紀ヨーロッパにおいて、北方のブルゴーニュ公国が営んだ宮廷美術が担った重要性を「ブルゴーニュ・ブランド」として示すこと、②三代目ブルゴーニュ公として多くの肖像を残したフィリップ善良公(ル・ボン)が、ブルゴーニュ公国の豊かなコレクションの伝統を背景に、美術作品を使い分けていた様子を明らかにすること、③「ブルゴーニュ・ブランド」の分析を通して、「ブルゴーニュ公国像」を問い直すという今日の学術的課題に、美術史研究の立場から貢献することである。 本年度は、主に以下の三点の研究を進めた。第一に、二代目ブルゴーニュ公ジャン無畏公の肖像の分析である。その結果、ジャン無畏公の肖像表現は息子フィリップ善良公の肖像と比べると多様であること、その背景にはフランス宮廷の伝統から脱却し、独自のイメージを模索しようとするジャンの意図があることを読み解いた。第二に、フィリップ善良公の肖像について、特に画家ロヒール・ファン・デル・ウェイデンが制作した作品と、そこから派生した複製・ヴァージョン群に注目し、各々の型式・図像・役割を検討した。それにより、フィリップ善良公の肖像においては、ブルゴーニュ公としての権威が統一的な表現コードによって保たれていることが確認された。第三に、フィリップ善良公治世下に鋳造された貨幣の図像、および、四代目ブルゴーニュ公シャルル突進公や、ブルゴーニュ公の系譜にあるスペイン・ハプスブルク家が所蔵した美術作品の分析を行った。その結果、「ブルゴーニュ・ブランド」が板絵の肖像以外の様々な主題・媒体においても波及・継承されていった様子を明らかにした。これらの研究成果は、学会発表および論文掲載の形で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度に研究会等で発表した研究成果と、その際に得られたフィードバックをもとに論文の執筆を進め、雑誌論文等の媒体で公表することを目指した。同時に、個別の事例研究も進め、その成果を学会や刊行物等において発表し、本研究課題のまとめとする計画であった。 昨年度に研究発表した内容については、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンによるフィリップ善良公の肖像画とその複製・ヴァージョンをめぐる検討を進め、各々の図像の特徴、肖像の服飾とそこに託された公的性格、そして「ブルゴーニュ・ブランド」の継承のあり方について論じた研究論文を公表した。また、フィリップ善良公治世下の貨幣の表象についての研究も進め、英語論文を投稿した(受理済、次年度に刊行予定)。 また、フィリップ善良公の肖像の比較対象として、二代目ブルゴーニュ公ジャン無畏公の肖像の分析を行い、英語論文として公表した。そして、学会の研究発表として、四代目ブルゴーニュ公シャルル突進公やスペイン・ハプスブルク家のコレクションについて検討し、フィリップ善良公の後の世代における継承・受容の様子を論じた。特に、タピスリーについては、「ブルゴーニュ・ブランド」の重要な一角を担っていたことの証左となる事例を示し議論することができた。 他方で、今年度もCOVID-19の影響が残り、予定していた作品調査や資料調査を十分に行うことができなかった。この点については、次年度に改めて遂行する予定である。以上のように、本研究は、全体としてはおおむね順調に進展しているが、部分的にやや遅れが生じているという状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を進めるにあたっては、長らくCOVID-19の影響を受けてきた。幸い、研究実施期間中に新たに公開されたデジタル・データ等を利用して、当初の計画以上に分析を進めることができたトピックもあったものの、他方で、未だに十分な検討ができていない課題も残った。そのため、研究期間をさらに1年間延長することとした。次年度は残された諸課題に取り組みつつ、本研究課題の最終年度として、研究の総括を行っていきたい。 まず、2024年7月には、国内外のネーデルラント美術史研究者が集う国際学会(Historians of Netherlandish Art、ロンドンとケンブリッジで開催)において、青野純子氏(明治学院大学)とともに「1400~1800年のネーデルラント美術のコピーと複製」をテーマとするセッションを主催する予定である。この機会に、海外の研究者とブルゴーニュ公の肖像の複製についての意見交換を行い、今後の研究の展開の可能性を探りたい。また、学会への出席とあわせて、現地での作品・資料調査も実施する。 次に、これまで分析してきた事例について、発表の際に得られたフィードバックやその後の調査成果をもとに論文執筆を進め、雑誌論文等に公表することを目指す。さらに、本研究の核となる「ブルゴーニュ・ブランド」を包括的に論じた書籍の出版に向けて、集積された研究成果を整理し、執筆を進めていく。以上により、フィリップ善良公の治世を中心とした15世紀ブルゴーニュ宮廷美術における「ブルゴーニュ・ブランド」の特性と「ブルゴーニュ公国像」についての研究を総括したい。
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