研究課題/領域番号 |
19K00194
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
松島 朝秀 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (60533594)
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研究分担者 |
野角 孝一 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (50611084)
荒井 経 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (60361739)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70443900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 芝居絵屏風 / 加賀見山旧錦絵 / 絵金 / 蛍光X線分析 / 絵金派 / 顔料 / 染料 / 科学調査 / 西洋顔料 / 近代日本画 / 彩色表現 / 祭礼 / 高知 / 高知県 / 近世日本画 / 科学的調査 / 岩絵具 / 外的要因 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近代日本画の彩色表現における西洋顔料と岩絵具の使い分けの根拠が、作家・制作者以外の外的要因によって決定されるのか否か検証するものである。 狩野派に学び幕末明治期に活躍した絵金(弘瀬洞意)の芝居絵屏風が制作され初めた江戸後期は、舶来の顔料(西洋顔料)が日本画に使用され初めた時期であり、これまで調査した全ての芝居絵屏風にも、同一画面上に西洋顔料と岩絵具の使用を確認した。しかし、調査した全ての芝居絵屏風は、西洋顔料と岩絵具の発色特性を生かして描かれておらず、絵金自身の美意識によって彩色されたとは到底思えなかった。本研究は、この彩色の理由を科学的調査と民俗学的調査によって探るものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、同じ人形浄瑠璃の演目を複製のように描いた1組の芝居絵屏風「加賀見山旧錦絵」を同地・同時において、目視による筆致の検証及び科学分析機器で調査して比較した。この1組の芝居絵屏風は、絵金又は絵金派が制作した作品とされており、確かな制作者はそれぞれ特定されていない。 「加賀見山旧錦絵」とは人形浄瑠璃の演目で、江戸時代(1782年 天明2年)に上演された、加賀藩の加賀騒動を題材とした全9段で構成する演目である。絵金や絵金派らは、この演目の6段目の「鶴岡八幡の段」を極彩色表現と異時同図法で制作した。芝居絵屏風は、これまでの日本画・大和絵の表現には見られなかった極彩色表現が美術史研究者らから注目されており、作品の特異性だと認識されている。 今回のように同じ人形浄瑠璃の演目で制作された2つの作品を比較調査することは、芝居絵屏風の調査では初の試みである。これまでの日本画作品の研究でも、同じテーマで複製のように描かれた作品を同時・同地で比較調査したことは前例がない。本研究は、2作品を比較し優劣を検証することではなく、2作品の彩色材料の違いや制作方法の違いの有無を確かめ、神社祭礼に用いられてきた芝居絵屏風の、一見普遍的に伝承されてきた極彩色表現の理由と彩色材料の詳細を、科学的知見から読み解くことを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
著者は、これまで「絵金」作と伝えられてきた芝居絵屏風16点の科学調査を行った。16点の作品の彩色材料はすべて共通したものであり、絵金作と伝わってきた作品の来歴に技法的・材料的な疑義が生じることはなかった。しかし、両作品の彩色材料には黄色に違いがみられた。朝倉本には石黄や黄土が使用され、県美本には黄土やクロム酸塩顔料の使用が確認された。両作品における黄色着彩の違いは、巻物の柄の着彩にみられた。この巻物は演目の内容から「密書」と思われ、物語上重要な役割をもっているので、より目立つように県美本では石黄よりも発色の高いクロム酸塩顔料を用いたとも考えられるが、使用量は他の彩色材料と比較して非常に少なく効果は低い。よって、芝居絵屏風全体の彩色材料の使用状況から鑑みると両作品の決定的な相違とは言えないと考える。しかし、県美本では検出されなかった石黄は、朝倉本には検出された。石黄が県美本に検出されなかった理由は不明であるが、石黄の主成分であるヒ素の毒性は、水溶性が非常に高いため制作に用いなかったと考えられる。一方、両作品に用いたヒ素を含んだ花緑青は石黄と比較して毒性は低く、比較的に取り扱いし易いことから両作品に用いられた。毒性の非常に高い彩色材料を用いる際の安全性への意識の違いが、作品の制作された時代性を反映したと考えるのであれば、制作年の特定に繋がる可能性も考えられる。この石黄を用いた着彩は、2012年に調査した高知県立美術館が所蔵する芝居絵屏風の太平記忠臣講釈と東山桜荘子の2作品にも確認できた。 本調査で判明した朝倉本と県美本の石黄の使用有無と、目視観察による筆致の違いを鑑みると、朝倉本と県美が所蔵する太平記忠臣講釈と東山桜荘子の3作品は絵金自身が制作し、県美本は絵金派の制作だと仮定することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究テーマの検証には、2020年の調査研究によって確認されたもう一双の同じ人形浄瑠璃の演目で制作された作品を比較調査する必要性がある。本研究と同じ手法で、作品を同時・同地で比較調査する機会を得ることが、今後の研究推進には必要である。2作品を比較し彩色材料の違いや制作方法の違いの有無を確かめ、神社祭礼に用いられてきた芝居絵屏風の、一見普遍的に伝承されてきた極彩色表現の理由と彩色材料の詳細を、科学的知見から読み解くことを目的とし、最終年度の本研究テーマを収めたい。
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