研究課題/領域番号 |
19K00272
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01080:科学社会学および科学技術史関連
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
森口 眞衣 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (80528240)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 病跡学 / スピリチュアリティ / 医療 / 近代医学 / 伝統医学 / 宗教的瞑想 / 医療的瞑想 / ヨーガ / マインドフルネス / 精神療法 / 宗教的実践 / 補完代替療法 / 催眠術 / 霊術 / 森田療法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は20世紀初頭の日本で創案された森田療法(Morita Therapy)を主対象とした成立史研究である。森田療法は明治近代化期のドイツ医学導入により精神医療が神社仏閣や民間施設などでの対処から精神病院での医療へと変化する時期に成立しており、その過程では仏教との関連がしばしば指摘された。 しかし森田療法の成立には仏教だけではなく当時の社会的動態としての宗教との関連が想定されるものの、未整理の部分が残存する。そこで本研究は主に仏教史研究との連関を視野に入れつつ、精神療法と宗教の影響関係について、成立背景という側面から分析を試みる。
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研究実績の概要 |
本年度において得られた研究成果は以下のとおりである。 (1)「精神的傑出人」と「宗教的突出人」の分界:精神医学の一分野である病跡学では精神的に傑出した歴史的人物を「傑出人」と位置づけ、その個性・創造性・病理性を研究対象とする。しかし精神医学が成立する19世紀以前の世界で多くの傑出的人物を輩出した「宗教」領域には実在性や実像性の問題があり、精神医学的な研究に際し困難が想定されている。そこで宗教史上の傑出人物を「宗教的突出人」と位置づけ、精神療法の成立・発展との関連を視野に入れた分類作業に着手した。 (2)「スピリチュアリティ(spirituality)」概念の定義整理:現代の精神療法のうち宗教と関連性が高いものにはしばしばスピリチュアリティ概念が付随する。同概念には宗教学分野で宗教の要素概念として定義されたのち宗教社会学分野で非宗教を宗教から除外する認定基準として使用された経緯があり、その過程で宗教概念そのものが曖昧化し医療にも接触した。そこで20世紀後半~21世紀初頭の宗教的精神療法におけるスピリチュアリティ概念が伝統医学や近代医学と関係しながら成立発展する過程において、非医療を医療から除外する認定基準として使用された可能性を調査したところ、その経緯で医療概念そのものの曖昧化現象が発生した可能性も浮上した。 (3)「仏教の心理学化」現象:マインドフルネスが登場した20世紀後半では宗教的精神療法の隆盛と「仏教の精神医学化現象」が表裏一体の関係をなす。歴史的背景を遡及すると森田療法が登場した19世紀後半~20世紀前半の日本社会で「仏教の心理学化現象」の発生が確認でき、現代のヘルスケア潮流と対をなす「健康法潮流」的動態の形成に関与した可能性が想定された。 上記成果はいずれも宗教(宗教的実践)と医療(精神療法)の接点を顕在化し、その影響関係を説明するうえで重要な論点と判断する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染状況の影響で前年度に修正・再構築した研究計画により、当初の中核的対象であった森田療法とマインドフルネスの影響関係につながる関連事項の調査から、それらを包含する全体像として19世紀後半~20世紀前半における世界的な「宗教的医療」ないし「医療的宗教」の個別現象を抽出・分析する調査に主軸を切り替えて作業を進めてきた。現在は以下3点を主な着目点として個別的現象の調査を進めている。 ①社会的動態から出現した非医学的な「医療実践」と「宗教的実践」との類似性 ②19世紀以降に整理された「宗教」関連の説明概念による「スピリチュアリティ」の変遷 ③仏教の心理学化現象と精神医学化現象の比較 上記のうち①②に関する成果を今年度の関連学会シンポジウム2件および論文2件で公開し、③については学会発表を終え論文執筆の準備中である。①~③いずれも個別的現象を包含するかたちで19世紀~21世紀前半の歴史的状況と関連するいくつかの作業仮説を浮上させることができており、最終年度での研究計画にも反映させる予定であることから「おおむね順調」とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究実施により、仏教瞑想という個別の宗教的精神療法の技法のみならず、その包括概念としての「宗教」と「医療」自体の接点および影響関係を説明する必要性が浮上している。その背景に関するこれまでの調査・考察から、現在は本課題との関連が想定できる以下の歴史的展開に注目している。 ①19世紀に「科学」という学問体系が急速に発達し、医学が科学的手法の導入により「科学的医学」へ変化した結果、「非医学」が分離される現象が発生した ②宗教学においても科学的手法の導入により「宗教社会学」が成立し、その結果として宗教と「非宗教」の分岐を検討する必要性が高まった 上記①②を作業仮説とし、最終年度では宗教的精神療法の成立と発展が「医学と非医学」「宗教と非宗教」の架橋と何らかの関係をもつ形で展開した可能性を想定して最終的な動態全体の分析を進める。また上記仮説およびその検証による成果は本課題実施終了後の展開に関わる仮説も含まれることから、本研究計画最終年度への反映のほか、新規研究計画の立案にも適用する。
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