研究課題/領域番号 |
19K00318
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
渡辺 秀夫 信州大学, 人文学部, 名誉教授 (90123083)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 平安朝漢文学 / 和漢比較文学 / 唐文化の受容 / 国風化 / 賦学 / 平安朝文学 / 賦譜研究 / 句題詩の生成 / 国風文化 / 平安文学 / 和漢比較 |
研究開始時の研究の概要 |
平安中期(10世紀後半)に成立した、独自に「国風化」された《句題詩》が、唐代の詩賦の創作指南書類の受容のもとに生成されたことを、和漢比較文学的手法を用いて明らかにする。具体的には、《句題詩》の表現技法が、『賦譜』(遣唐使として派遣された円仁が輸入し、我が国にのみ伝存する唐代の科挙の試験のための作賦の指南書)や「詩格」類の「題詠論」(「破題論」)中にほぼそのままみられることから、《句題詩》が、唐文化との密接な接触のうちに生成されたことを実証し、平安朝文学における『賦譜』や「詩賦格」類など科挙対応の指南書の受容実態を浮き彫りにするとともに、和歌文学など、広く国文学への影響をも明らかにする。
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研究実績の概要 |
〔国内における活動〕 ①渡辺秀夫「平安朝における漢籍受容に関する私的メモ-『見在書目録』からみた唐代漢籍移入を指標に-」(国風文化研究会2023.10.15・オンライン)。遣唐使が移入した「唐文化」の実態について、対外交流史研究の一説を検証・批判する立場から再確認の作業をおこなった。②渡辺秀夫「《国風文化》の形成と“ジェンダー”の生成(和歌/願文)―」(国風文化研究会2024.3.26 於:学習院大学)。儒教を基本理念とする律令制度の進展と並行し、仏教(浄土教・法華経典)の浸透とともに、9世紀後半から顕在化する「三従」や「女人五障」に連動したジェンダー劣位の女性像の変容を和歌・女人追善願文を分析対象にして、その特質を明らかにしつつ、従来の国風文化論にからめたジェンダー論を再検討した。また、併せて、「中国文化受容の位相モデル」の図式を更新するとともに、1990年代以来主流を占めてきた対外交流史研究における「国風文化論」について、近来の新たな研究成果をもとに再検証を加えた。 〔海外における活動〕 ①上海・華東師範大学の招聘により、渡辺秀夫「研中日(和漢)比較文学的方法論」(特別講座・2023年10月27日)と題して、修士・博士課程の院生及び上海・浙江省等周辺地域の日本古典文学研究者を対象に「和漢比較文学研究に関する方法論」に関する講演を行い、併せて外語学院の日本古典文学及び翻訳論研究者との学術交流を進めた(2023年10月19日~2023年10月26日)。②ワルシャワ大学東洋学部の招聘により、同大学を拠点とする日本学研究者との科研課題に関わる学術交流、及び『源氏物語』のポーランド語全訳出版に関わるプロジェクトの分担研究(『源氏物語』における中国唐文化の受容)及び編集会議に参加した(令和5年11月20日~令和5年12月3日・ワルシャワ大学東洋学部日本学科)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度報告に記したように、進捗状況の遅れが生じた事由のひとつは、コロナ禍における海外調査の困難に起因するが、と同時に、『賦譜』本文の注釈作業についての検討能力・技量の認識の甘さにあった。当該課題の解決には、特に中国における賦学(及び詩学)研究の成果をより広くかつ着実にふまえる必要があり、その遂行のためには、別途、あらたな計画の策定が求められるとの認識に至った。 他方、9世紀後半頃から兆し、10世紀後半期に完成する、唐代律詩(七言律詩)の国風化現象の顕著な例としての平安朝漢詩《句題詩》の生成過程に関しては、円仁将来の『賦譜』の受容という観点からの考察は、一定程度の成果を生むことができた。 そこで今年度は、広く「唐文化の受容と国風文化の創出」に関する、より広い視野からの知見を固めることを期し、①遣唐使が将来した「唐文化」の実態を再検証したうえで、②遣唐使停止後~平安後期に至る文物交流の実態及び「国風文化」の形成に関する基礎的な研究情報の整理に努めた。具体例のひとつをあげれば、平安びとの漢詩文創作の基本的条件についてみれば、承和の(最後の)遣唐使の活動実績までで、必要な理論書はすべて入手し終っていたことがわかる。いいかえれば、実質的に、必要不可欠な重要資源(アプリ)のほぼ全円を移入できていたことになる。従って、直近の唐滅亡に伴っての遣唐使の停止案件は、いわば平安朝における詩文創作の実用面からいえば、図らずも必然のように終結したといえる。平安文化の基盤を形成し国風文化を熟成させる知的体系(operating system)は唐文化であり、遣唐使停止後の民間商船の往来による北宋代の唐物移入等に比して、格段にレベルの異なる重要性が再認識された。
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今後の研究の推進方策 |
『賦譜』本文の注釈作業については、特に関連語彙・術語の特殊性もあり、一朝一夕に結果の出にくいことも否定できない。また、何よりも、平安末期の転写による省略・魯魚の誤り等もあり、かつ天下の孤本ゆえに、校訂者の的確な判断基準を確立することが不可欠となる。次善の方策としては、当面既存の中国賦学研究における註釈書の成果を吟味・統合整理することを通じて、注解草稿の準備作業を継続することで、将来の研究資源となる基盤を固めたい。なお、長らく研究史の空白となっていた『賦譜』についての関心もようやく兆しつつあり、稀覯本となっていた複製本の不便を補うべく、平安写本の影印写真版の公刊もあり(堀川貴司「五島美術館蔵 重要文化財『賦譜・文筆要决』影印と解題」大東急記念文庫『かがみ』54・2014年3月)、後続の研究者によるあらたな研究の進展も期待される。当面、その発展にいささかでも関われるよう不断の努力を継続したい。 また、2024年度が最終年度となるので、「唐文化の受容と国風文化の創成」に関するこれまでの成果をまとめつつ、平安文学における「国風文化論」をテーマとする論著の公刊をめざすこととする。
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