研究課題/領域番号 |
19K00551
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸田 泰浩 大阪大学, 日本語日本文化教育センター, 教授 (40273742)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | evidentiality / 証拠性 / 類型論 / アルメニア語 / コーカサス / 統語論 / 形態論 |
研究開始時の研究の概要 |
発話内容の情報源を表す文法カテゴリーevidentiality(証拠性)は、比較的新しい言語学テーマである。本研究では、evidentialityの形態構成においてどのような通言語的類型が認められるかを既存の文献や言語コンサルトからの情報を利用しながら精査し、形態構成の背後にある類型論的動機を探る。さらに、形態と統語の間にどのような相関性があるかについても考察する。研究成果は、様々な言語でevidentialityの文法カテゴリーの有無を調査する際の形態論的指針となるだけでなく、普遍的な統語的機能範疇としてどのような可能性を秘めているかを検討することによって統語論研究への貢献も期待できる。
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研究実績の概要 |
Evidentiality(以下、Evidと略す)の研究においては、その意味論的側面が主流となっているが、本研究課題では、形態的側面と統語的側面に焦点を当て、それらの類型論的特徴を明らかにするのが目的である。その目的を達成させるために、まずはEvidの「候補形式」と呼ぶ形態的な表現類を中心に収集したデータをまとめ、それらと文献に見られる従来の見解を突き合わせながら、Evidの形態的側面について通言語的・類型論的特徴の抽出および整理を行ってきた。前年度(2021年度)からは、本研究課題のもう一つの柱であるEvidの統語構造の分析を開始した。統語論の研究においては、多種多様な文の適否や意味合いを判断するために複数の言語コンサルタントへの直接的な対面での調査が不可欠であるが、前年度同様、本年度(2022年度)も、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の影響でそのような調査活動だけでなく、海外でのフィールド調査も困難であった。そのため、2021年度に引き続き、本研究代表者がかねてより中心的に調査し、信頼できる言語コンサルトを得ることができるアルメニア語に焦点を当て、特に完了に由来するEvid形式についてどのような統語構造を有しているかを検証することにした。前年度は東アルメニア語を主な対象言語としたが、本年度は西アルメニア語の分析に注力した。Evid形式の古典アルメニア語からの通時的な変遷も手掛かりにしながら、東西二つのアルメニア語間の差異に着目し、Evidの位置づけや形態的および統語的構造について分析した。その成果は、研究分担者となっている科研費課題(19H01257)の研究会において「アルメニア語の動詞活用の統語構造」として、また、2022年度ユーラシア言語研究コンソーシアム年次総会において「アルメニア語の動詞活用とEvidentiality」として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Evidの統語構造を分析するためには、文法的に正しい文のみならず、どのような場合に正しくない文、いわゆる、非文になるかも知る必要がある。文法書などの文献に常に非文が記されているというわけではなく、Evidを扱った論文でさえも、本研究に有益となる非文が提示されているとは限らない。それゆえ、言語コンサルタントの協力によって、当該言語の母語話者が有する「直感」(言語感覚)を調査することが不可欠である。しかしながら、COVID-19の広がりによる行動制限等で言語コンサルタントへの聞き取り調査や海外でのフィールド調査に困難が生じた。本研究課題の当初計画では2021年度が最終年度であったが、そのような状況ゆえに研究が滞り、代替の調査を模索しながらも研究課題の期間を延長することとなった。2022年度になってもCOVID-19の影響が続いたため、研究が計画通りとは行かず、得られた成果も限定的なものとなり、進捗状況は遅れていると言わざるを得ない。そのため、主に調査のために計上した補助金を繰り越し、2023年度への研究期間の再延長を申請して承認された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(2023年度)も事業期間の再延長が承認されたため、研究課題を継続する。早期に海外へ出向いて調査を実施したいところであるが、所属機関でも停滞していた海外出張を伴う業務が再開するため、本研究課題の海外調査についてはその時間が十分に確保できるかどうかは不透明である。それゆえ、文献資料の考察と分析を継続しつつ、時機を選んで現地調査の機会を探りたい。同時に、海外との往来に原則、制限がなくなるため、言語コンサルタントへの対面調査も進めていきたい。研究課題の期間がCOVID-19の蔓延時期と重なり、研究に多くの支障が生じたため、最終年度となる次年度に当初の計画通りの成果を得るのは容易ではないが、研究代表者が従来、研究対象としてきたアルメニア語やグルジア語を軸にして研究を進める。Evid ベルトに含まれるコーカスや他の地域の言語を扱った先行研究の知見も活用しながら、Evidを統語的機能範疇としてどのように位置づけるべきかを考察し、可能な範囲で類型論的特性の提案に結びつけられるように努める。完了形・Evid以外の動詞活用も視野に入れながら、cartographyの枠組みを援用した分析を進めていくとともに、形態構成と統語構造との相関性について、分散形態論(Distributed Morphology)のアプローチによる考察も試みる。最終的には、国内外の学会、CSEL (Consortium for the Studies of Eurasian Languages)が発行する刊行物等のほか、CSELウェブサイト、Academia.eduやResearchGate等の研究者向けSNSサービスも活用して研究成果を公表する。
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