研究課題/領域番号 |
19K00578
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
荒木 典子 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (40596988)
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研究分担者 |
大野 広之 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員研究員 (20837257)
小松原 ゆり 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (40782793)
鋤田 智彦 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (60816031)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 満漢言語接触 / 飲食文化 / 満文金瓶梅 / 御製増訂清文鑑 / 薩満 / 犠牲 / チベット仏教 / 雍和宮 / 満文水滸伝 / 喫茶 / 満洲薩満 / 朝鮮巫俗 / マンジャ / 満洲語力の低下 / 西廂記 / 漢字音 / 周辺域外言語接触 / 暦術思考 / 乾隆帝 / 満漢西廂記 / 漢字音表記 / 大遼国史 / 清文鑑 / 中国伝統思想の継承 / ガワン・ツルティム / 乾隆後期の対チベット政策 / 中国語 / 言語学 / 中国文学 / 東洋史 |
研究開始時の研究の概要 |
清朝を建てた満洲民族は漢、蒙、蔵、ウイグルなどの民族を統治したが早い段階から被支配層の文化に価値を認め、傾倒して行った。例えば、漢民族の文芸作品を満洲語に翻訳して読み、陰陽五行説を取り入れ、チベット仏教とその文化を受容していた。本研究の目的は、満洲語の読解が可能な関連分野の専門家が集結し、17世紀~19世紀の中国を統治していた清朝を中心とする東アジアの言語、文化、思想を、満洲語の文献から立体的に検証することである。特に、翻訳した文芸作品の分析から満洲民族の漢文化に対する認識を、政治や生活の記録に見える五行思想を手がかりとして満漢精神世界の接触を、満洲語の公文書からチベット仏教の受容を解明する。
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研究実績の概要 |
前年度に引き続き、飲食文化を中心に、満漢の文化接触の様相を調査した。荒木は、『金瓶梅』に見られる茶の淹れ方に関する動詞を『満文金瓶梅』ではどのように訳出しているかを調査した。『金瓶梅』では“点”が最も用例が多い上、茶の抽出以外の動作、例えば淹れた茶を運んできて提供する動作、日本語の「お茶くみ」のような概念的な動作を表す場合もあるが、『満文金瓶梅』ではそれぞれの動作を具体的に訳出していること、“頓、煮、烹”は茶以外のものを目的語に取ることもあるが、茶の場合には訳語がほぼfeifu-/fuifu-に落ち着くことを明らかにした。鋤田は1771年の辞書『御製増訂清文鑑』の食文化関連の語彙項目を調査し、食べ物や飲み物の種類、加工法、調理法、関連する表現を考察した。例えば「酒」を表す語彙が実はそれほど多くないこと、かつては餡が入っていたものを指していた「饅頭」が、この時代には既に餡なしになっていたこと、食べ物の硬軟に関する表現では硬い様子を表す語の方が多いこと、などを実例を挙げて示した。大野は、祭祀祈祷における「犠牲」について調査した。満洲族は、漢族に対しては儒教を、モンゴル、チベットに対してはチベット仏教を、巧みに利用して統治している一方、自身のアイデンティティを保つためにシャーマンによる伝統的な祈祷とその形式を守っていたこと、そこには「犠牲」=豚が欠かせなかったことが明らかになった。小松原は、第一に、清代中期の旗人官僚の満州語力と乾隆帝の指導を通じて、「ことば」というアイデンティティの維持における理想と現実について、考察を行った。第二に、北京のチベット仏教寺院・雍和宮において毎年旧暦12月8日清の宮廷主催で行われた粥炊きについて、档案史料を用いながら日程、材料の手配など実務的な内容を中心に分析し、この行事は満漢の文化が融合した風習であるという、従来の研究にない新たな視点を明示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度も海外での資料調査や学会参加はかなわなかったが、満漢における言語と文化の接触の中でも飲食文化にテーマを統一し、手元にある文献に基づいて研究を進めたところ、各自の領域での進展のほか、研究結果の有機的な関連性が発見できた。例えば、シャーマン祈祷に関する調査結果と、雍和宮の粥炊きに関する調査結果を照らし合わせると、清朝の多民族統治のための工夫と、民族アイデンティティの保持という両面性が明らかに見られる。 また、研究会を例年通り二回開催することができ、雑誌を創刊することができた。同時に、外部の研究会、学会でも関連分野の研究成果を発表する機会が得られた。研究成果は、第9回および第10回の清代言語接触研究会で報告された。報告内容を論文にまとめ、雑誌『清代言語接触研究』を創刊した。今後も年に一回の刊行を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業期間の再延長が認められたため、2023年度が最終年度となる。満漢言語文化接触を、より広い範囲でとらえ、言語、思想、宗教の各分野からアプローチして総まとめの研究を行う。 荒木(研究代表者)は、『金瓶梅』に見られる明代の語彙・語法が清代康熙年間にどのように理解されていたのか、翻訳作業現場で何が起こっていたのか、という観点で取り組む。例えば、現代語からみて「破格」とされる文法現象の訳出状況を調べると、意味が取れるように正確に訳していることが明らかになりつつある。鋤田(研究分担者)は、17世紀に編纂された満洲語辞典『大清全書』について、漢語由来の語彙がどのように満洲語において受容されていたか分析を進める。実際に当時、あるいはそれ以前から満洲語では漢語由来語彙が多く用いられているが、それによりその具体的な状況を示す一つの標準を示すことが期待される。大野(研究分担者)は、薩満祈祷に際して、「犠牲」が存在する背景にはマイノリティーたる満洲族自身が漢民族の文化に完全同化する側面と矛盾を孕むことなく、儒教・チベット仏教と共に薩満による祈祷も併存した実相を明らかにした。そして朝鮮に残存する言語資料においても祭祀祈祷に関する満漢朝三体の言語接触の実相について考察を深める。小松原(研究分担者)は、引き続き雍和宮における年中行事と清朝宮廷の関係に注目し、チベット仏教文化と漢文化の融合について、主に満文档案史料を用いながら具体的な考察を行う。
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