研究課題/領域番号 |
19K00690
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02080:英語学関連
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
小林 茂之 聖学院大学, 人文学部, 教授 (00364836)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 古英語語順 / 空主語 / 行間訳付き詩編 / 時制辞句 / 文法化 / 古英語 / V2 / 統語変化 / TP構造 / 方言 / 古英語統語論 / V2 語順 / 言語接触 / 言語獲得 / V3 語順 / V-final 語順 / 初期古英語 / 文法タグ付きコーパス / 古ノルド語 / 動詞語末 / 通時統語論 / 歴史社会言語学 / 語順 / 情報構造 / 韻律構造 |
研究開始時の研究の概要 |
【2019年度】ラテン語から古英語に翻訳された初期古英語散文である『オロシウス異教徒に反論する歴史』の語順を調査・分析し,ラテン語との対応を検討するとともに,非 V2 語順の V1 や主節の動詞文末語順という初期古英語散文に特徴的な語順の多様性を,ラテン語 Psalm につけられた古英語グロスを調査し,形態論的変化と統語変化の関係について分析する. 【2020年度】初期古英語散文の特徴である語順の多様性が残存している程度を明らかにすると同時に,V2 の優勢化の進行過程について明らかにする. 【2021年度】語彙・形態的変化が後期古英語における V2 語順優勢化に先行しているのかどうかを検証する.
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研究実績の概要 |
2023年度における当研究実績は,古英語の語順の要因を分析するために,語順に関連する古英語における特徴的な統語現象として空主語に関する近年の研究をレヴューし,節構造の観点から古英語の語順を分析する方向性が有望であることを明らかにしたことである。 『聖学院大学総合研究所紀要』2023 No.70(pp.23-45)に論文Null Subjects in Old English Interlinear Glossed Psalms (『古英語行間訳語付き詩編』における空主語)を出版した。 当論文は,P&P理論における空主語パラメータの生得性を廃棄し,極小主義における第三要因を採用するための大きな変化を伴ったパラメータ概念の維持に関するBiberauer (2018) が提案した諸概念を概観する。しかしながら,古英語における空主語を十分に説明するためのデータは必要となる。Walkden (2016) はまた古英語における方言的変異説を提案している。古英語における空主語へのこれらのような注目にもかかわらず,Rusten (2019) は広範囲の統計的なデータに基づいて古英語における空主語の位置づけを否定的に論じている。当論文は,『古英語詩編』における1, 2人称代名詞と3人称代名詞の間の空主語の違いを指摘し,それは,Gelderen (2011) の理論における代名詞の統語的素性によって説明できるものである。これは統計学が空主語の要因を特定する有用なツールであるが,空主語現象の理由を説明できるものではなく,なおも言語理論によって探索されるべきであると結論する。 2023年度日本歴史言語学会全国大会で「時制辞句文法化仮説と日英比較通時統語論における射程」を口頭発表(2023年12月17日(日)、南山大学)を行った。古英語の語順と節構造の関係について取り上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
古英語における空主語が通時統語論で研究対象になってきたが,Rusten(2019) Referential Null Subjects in Early English (OUP) では,言語現象として確立されたことが統計的にはできないと結論されているが,統計学そのものは空主語現象を説明するものではないことを論じ,空主語現象は時制辞句の発達との関係で理論的に考察されるべきであることを口頭発表で示唆した。 つまり,非空主語言語においては主語DPは統語的必要性からTP指定部に位置しなければならないことから,Gelderen(2022) The Third Factors in Language Variation and Change (Cambridg University Press)の分析に従い,空主語はTPが発達していない古英語では理論的に生起することができることを問題として取り上げ,言語変化の観点から分析されるべきであることを明らかにした。 この研究結果は,古英語の語順を分析する本研究課題が節構造の観点から探求することが有望であることを明らかにしたことで,本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
古英語において,空主語は節構造の観点から分析によって説明できる。古英語全体としては,ジャンルとしては韻文,地域的には北部ノーサンブリア方言などの文献に用例が偏っていることが,Rusten(2019)によって示されているので,古英語の中ではジャンル的,地域的なレジストリーが認められる。 したがって,空主語の用例をコーパスから採取することはすでに限界があることが明らかにされているので,空主語が許容される統語構造の分析から,関連する構文について,空主語とともに統一的に説明できる現象について分析を進める必要がある。 現在のところ,Gelderen(2022)はそのような構文としてV2語順をあげている。これらが節構造から分析されているので,接続詞についてさらに分析を進めることで,古英語の統語的特性を明らかにする中で,さまざまな現象を関連付けたい。 that痕跡効果が見られないことがAllenが発見した用例によって,古英語の接続詞の統語的研究の手掛かりとなることが期待される。Wh移動など,関連する用例の採取,分析を進めていく予定である。 こうした諸観点から,本研究の今後の研究の推進方策は,古英語の語順が近代英語期以降とは異なる要因が古英語の節構造に起因するという仮説を立てて,この仮説に対して検証を進めていく研究を行うことである。
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