研究課題/領域番号 |
19K00796
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02100:外国語教育関連
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
山川 智子 文教大学, 文学部, 教授 (80712174)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 欧州評議会 / 複言語・複文化主義 / CEFR / 多文化共生 / ヨーロッパ学校(Schola Europaea) / 死生学 / 医療現象学 / 人生会議(ACP) / ポートフォリオ / ランデスクンデ / リスペクト / 言語文化教育 / SDGs / ヨーロッパ学校 / 国際文化交流 / 市民性教育 / 複眼的思考 / 歴史教科書 / 欧州言語ポートフォリオ |
研究開始時の研究の概要 |
欧州評議会の言語教育政策に関する活動を、「複言語・複文化主義」概念、およびその概念を具現化する「欧州言語ポートフォリオ」に焦点をあて考察する。日本への効果的適用に向け、その可能性と課題を明らかにする。 研究遂行にあたり、「複言語・複文化主義」概念の思想史的意義を考察した上で、「欧州言語ポートフォリオ」の活用実態を調査する。調査場所は、主としてEU諸機関に勤務する職員の子どもたちが学ぶ「ヨーロッパ学校(Schola Europaea)」である。中でも特に、歴史や地理といった社会科学系科目の授業を第2言語で行うことで、複眼的思考力育成を目指そうとする教育に焦点をあて、「複言語・複文化主義」の本質的理解を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヨーロッパ学校の実践に「複言語・複文化主義」がどのように取り入れられているか、その実態が学習者の「ポートフォリオ」にどのように記録・管理され得るかを検討し、日本への応用可能性を探ることにある。ヨーロッパ学校の理念は、多文化共生を目指す日本の言語教育を考える指針ともなる。言語教育はあらゆる教育の基本となるので、ヨーロッパ学校の教育実践を検討し、現代の日本の教育への示唆を導きたい。この目的のもと、以下のように研究を進めた。 ①ヨーロッパ学校設立史の振り返りと「複言語・複文化主義」の日本での受容の在り方に関する考察。②「複言語・複文化主義」と死生学・医療現象学との連環の模索。③「多文化共生」の理念と現実とのギャップを埋める考え方としての「複言語・複文化主義」の提案。 ①に関しては、ヨーロッパ学校設立史をヨーロッパ統合史に位置づけた。また「複言語・複文化主義」の日本における受容の問題点を指摘した。この概念が時代や地域をこえ、異文化間の折衝でも活用しうる概念であることを指摘した。②に関しては、死生学の領域で議論されている「人生会議(ACP)」において、「複言語・複文化」的な考え方が必要であることを示した。相手の尊厳を守る姿勢を貫くことが相互理解の基本となるという「複言語・複文化主義」の理念が「人生会議(ACP)」における対話にも通底することを示した。③に関しては、「多文化共生」の理念と現実とのギャップを埋める考え方として「複言語・複文化主義」を提案し、論考を発表した。相互理解を深めるには「言語」以外の要素である「言語外的条件」(オストハイダ テーヤの研究より)が重要な役割を果たすことを「複言語・複文化」の視点から議論した。 2023年度の研究成果は、講演2件、ワークショップ講師1件、国際学会発表2件、国内学会発表2件、図書(共著)1件で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度、2020年度はコロナ禍で研究計画を大幅に変更し、研究資料の収集に注力した。2021年度、2022年度は収集した資料を領域ごとに分類・体系化するとともに、現象学の視点を加えた研究を行った。「対話」における他者との向き合い方に関して、現象学の「本質観取」の考え方を取り入れ、理論的に検討した。2023年度は、前年度までに収集した資料を活用し、これまでの「複言語・複文化主義」研究を総括する講演や学会発表を行った。さらに、「多文化共生」の理念と現実とのギャップを考える論考をまとめることができた。その一方で、ヨーロッパ学校そのものに焦点をあてた論文を執筆することができなかった。その主な理由として、①勤務校の学内業務が急増し、研究時間を十分に確保できなかったこと。②家族の介護が本格化し、本人も体調を崩してしまったこと。③「複言語・複文化主義」研究を総括する講演や発表の準備が重なり、論文執筆に時間を割けなかったことなどがあげられる。このような状況であったが、「学内業務」や「介護」という営みの中に「複言語・複文化」的コミュニケーションを考える要素があるという「気づき」を得ることができた。また、周囲の人々の支えがあり、結果として他領域にまたがる研究のネットワークを構築することができたのは幸いであった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに収集した資料の体系化、研究成果の公表に注力する。具体的には以下のように進める。 ①「複言語・複文化主義」という概念が現象学や死生学とも連環していることを示す。これらを包括して議論することで新しい領域が開拓できるかを検証する。他者へのリスペクトを意識した言語文化教育が平和構築に繋がることはこれまでにも指摘されてきたが、ウクライナや中東情勢などを考える上で、こうした言語文化教育がさらに必要とされている。現代社会が直面する様々な課題に取り組むにあたり「複言語・複文化主義」が重要な示唆を与えてくれることを具体的に論じていく。②ヨーロッパ学校の理念を日本で考えるため、国内の言語文化教育の調査を行う体制を整える。状況把握能力を育むための対話を取り入れる授業が増えているので、事例を集める。③コロナ禍でのオンライン対応から浮上した課題、刻々と変化する世界情勢を「自分ごと」として考えるための言語文化教育の在り方を検討する。他者の立場に立ってことばを使うことを実感するための対話の場を設けるとともに、「複言語・複文化主義」が持つ現代史的意義に関する様々な論考の共有と理論化、それを実践に結び付けるためのデータベース化を目指す。 引き続き、「複言語・複文化主義」を現象学や死生学等の学問領域と関連させていく。社会科学的な分野で行われることの多い「ヨーロッパ研究」を、「複言語・複文化主義」を鍵概念とした人文科学の視点からアプローチし、新たな領域を開拓していく。
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