研究課題/領域番号 |
19K00891
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02100:外国語教育関連
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
三浦 愛香 立教大学, 外国語教育研究センター, 教授 (20642276)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 語用論的能力 / 社会語用論的能力 / 相互行為能力 / 応用会話分析 / 学習者コーパス / OPI / 第二言語語用論 / 発話行為 / 依頼 / アノテーション・スキーム / 要求の発話行為 / 日本人英語学習者コーパス / 語用言語学的能力 / 発話の修復 / 談話分析 / 中間言語語用論 / ポライトネス / 第二言語習得論 |
研究開始時の研究の概要 |
日本人英語学習者の話し言葉コーパスNICT JLE Corpusを用い、買い物のロールプレイにおける要求の発話行為の言語項目を状況別や習得段階別に抽出し(=語用言語学的能力)、発話行為を取り巻く発話の展開についても確認する。また、コーパスから得られた要求の様々な言語パターンについて、英語教員によるポライトネスの度合いを判断する調査を行い、社会語用論的能力についても検証する。学習者の発話の実態と社会的に期待される語用論的能力の乖離があるか、また頻度情報に基づいて社会語用論的能力を一般化することが可能かを探る。可能であれば対話者同士の社会的な関係別や対話の状況別にリスト化し、教育への応用をはかる。
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研究実績の概要 |
本研究は、外国語学習者の語用論的能力の習得や指導をテーマとしている。当初の研究計画では、学習者コーパスを用いて、インタビューテストに含まれる試験官と学習者の買い物のロールプレイを観察し、学習者による依頼の発話行為の語用言語項目を計量的に抽出し、対話の文脈に即しポライトネスの観点で社会語用論的能力を判断できるかの探求が目的であった。前述の手法は、かつて中間言語語用論と呼ばれた当分野では主流であった。しかし、現在は、対話の全体的な流れや対話者同士の相互関係を捉えた枠組みの中で学習者の発話や行動を分析する第二言語語用論が中間言語語用論に代わり、その多くが会話分析を応用した手法(応用会話分析)を用いている。特に、対話者とのやりとりを含めた学習者の相互行為能力に着目する重要性が高まっている。よって、本科研では、当初の計画にあった学習者の発話のみに着目した検証では、得られる教育的示唆が限定的になると判断し分析手法を修正した。令和4年度では、学習者コーパスより、返品返金交渉のロールプレイを与えられたCEFR B1レベル以上の学習者データを習得段階ごとに選出し、試験官と学習者の対話全体を、日本人英語学習者の教育者である研究協力者4名(Devon Arthurson氏、Timothy A Opitz氏、桐生直幸氏、並木一美氏)に分析・判断してもらい、指導の余地について提言をしてもらった。令和5年度は、並木一美氏に協力いただき、判断調査の結果を参考に、対話の連鎖組織(修復やトピックマネージメント)や依頼の発話行為とその外的調整(先行/後続拡張)、語用言語学的項目の選択のバラエティーにも着目し、マクロ的およびミクロ的な視点から、ロールプレイにおける学習者のパフォーマンスの質的な分析を行い、習得段階別に語用論的能力および相互行為能力の向上にはどのような指導が必要かを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、CEFR B1~B2相当レベル(Standard Speaking Testのレベル7, 8および9)の6名分の学習者と試験官の買い物の返品返金交渉のロールプレイの対話全体に着目し、応用会話分析を参照にした検証を行った。まず、いずれのロールプレイにおいても、対話の連鎖組織は、i)「試験官による挨拶」、ii)「学習者の依頼(選択的に先行/後続拡張を伴う)」、iii)「試験官による挿入拡張」、iv)「学習者による後続拡張や更なる交渉」から成ることが判明した。この構成は、本データがOPIと呼ばれるインタビューテストの一部であることから、制限時間内にタスクを終えることと評価対象となるパフォーマンスを引き出す目的のもと、試験官が対話を意図的に制御していると想定できる。さらに、母語および語用指導の精通度が異なる英語教育に携わる研究協力者4名に、各データを提供し、i)「学習者が社会語用論的に適切な発話や応答をしているかというポライトネスの度合い」、ii)「返品返金交渉の成功度」、iii)「対話から想定できる習熟度」、iv)「試験官の発話の適切性」の観点から分析や判断を行ってもらった。次の段階として、外国語学習者の相互行為能力の評価や語用論的能力の指導に関する先行研究(Nakatsuhara et al., 2021やRoever, 2022)や前述の協力者による判断調査をもとに、質的分析の枠組みを設けた。依頼においては、接続表現を効果的に活用して論理的に先行拡張と組み合わせていることや与えられた状況で対話の相手との社会的関係やフェイス侵害行為の認識に基づき語用言語的項目の選択ができているかが含まれる。また、返品返金交渉のタスクのゴールに至るまでに、相手の発話を承認しつつ対話を構築できているかなど間主観性の観点において社会語用論的かつ相互行為的な適切さも検証の対象としている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、本研究の最終目標として掲げる学習者コーパスから抽出したデータの分析をもとにした語用論的能力の評価と効果的な指導への発展の実現を目指す。返品返金交渉のロールプレイデータを習得段階別に質的に分析したところ、最上級であるレベル9の学習者は、依頼に対する相手の拒絶に対して効果的に譲歩し解決に導くことに成功しており、トピックマネージメントに長けたストーリー・テリング(Wong and Waring, 2010)ができ、スムーズなターンテイキングのもとに対話の共同構築がなされていることが判明した。レベル7や8の学習者が産出する語用言語項目の種別はレベル9と大きな違いがないが、レベル7では先行/後続拡張の不足、レベル8では不自然なターンテイキングやトピックマネージメントの不十分さが見られ、対話の共同構築に指導の余地があると考えられる。しかし、レベル9においても、依頼の語用言語的項目の選択が限定的であったり、フェイス侵害行為を引き起こす可能性が高いと思しき語彙選択が先行/後続拡張に観察されることから、CEFR C1レベルに達しているとは言えない。つまり、フェイス侵害行為を意識した依頼の発話行為にとどまらず、対話における間主観性(Seedhouse, 2004)やEnglish as a Lingua Francaの使用者として異文化間コミュニケーションに関わる学習者エージェンシーの育成(McConachy & Liddicoat, 2022)の重要性が示唆される。最終年度の令和6年度は、OPIから成る学習者コーパスが示す社会語用論的能力の検証の限界と可能性にも言及しつつ、過年度の検証から得られた学習者の語用論的能力、相互行為能力、そして異文化間コミュニケーション能力の実態とその教育的示唆を、本科研の集大成として論文に著わす。
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