研究課題/領域番号 |
19K01003
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高木 徳郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00318734)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 荘園制 / 荘官 / 荘園経営 / 年貢収納 / 室町期荘園制 / 地下文書 / 公文 / 紀伊国和太荘 / 林家文書 / 中世荘園 / 収納 / 帳簿 / 環境 |
研究開始時の研究の概要 |
12世紀に本格的に成立した荘園制は、従来、室町時代を経る中で次第に変質・解体に向かうとされてきた。しかし近年、この室町期の荘園制を、独自の展開を遂げた荘園制の一段階として捉え直す研究が活発化している。但し、それらの研究は、室町幕府・荘園領主と守護などの地域権力との関係を軸に進められているのが現状で、室町期荘園の現地の実態などの解明は遅れている。 そうした中で本研究は、紀伊国和太荘において公文として荘園領主の年貢徴収の実務などに携わってきた林家に残された膨大な中世文書の翻刻・検討により、室町期荘園の在地の実態とそれを支えた荘官の実務能力、および環境変動に対応した荘官の動向を明らかにする。
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研究実績の概要 |
平安時代後期に成立した荘園制は、京都・奈良などの中央都市に所在する王家・貴族・大寺社等の荘園領主が、地方に立地する荘園を遠隔支配することで成り立っている経済・社会システムである。荘園領主が地方都市に所在する場合でも、荘園との距離は一定程度離れており、荘園現地には所在していないことには変わりはない。このような中にあって荘園領主が荘園の支配を円滑に行うためには、荘園の現地に下司・公文などと呼ばれる代官(荘官)を設置することが不可欠であるが、これまでのところ、そうした荘官の実務能力の実態については未解明な部分が多い。 本研究では、紀伊国和太荘において公文を務めた林氏、大和国柳生郷・小柳生郷の荘官を務めた山村氏・柳生氏などを主な対象に、前者については同家に伝来した600点に及ぶ中世文書の翻刻と校訂を軸に、後者については荘園(国衙領)現地における現地調査を軸に研究を進めた。とりわけ、前者の林家文書はこれまでごく一部を除いてほぼ未刊であり、これを翻刻し広く学界の共有財産とすること自体が急務である。また、公文という荘官の家に伝わった文書ということから、年貢・公事等の収納や荘園支配にかかる様々な経費の割り付けなどの実務に際して作成された文書であり、林氏が公文としていかなる実務を行えば効率的に荘園現地の支配が実現できるかということに腐心していた様子がよくうかがえ、その正確な校訂を進めつつ内容の分析を進めた。 一方、大和国柳生・小柳生郷は、室町時代の正長年間に、土一揆に参加したした住民が、郷内において在地徳政を行ったことを示す碑文があることで著名であるが、碑文は磨崖仏を刻んだ自然石に刻まれており、現地調査の結果、郷内にはこうした磨崖仏が郷域の入口の街道沿いなどに多く点在していることが分かった。荘官による荘園経営と交通路支配の問題を考える上で興味深い事例であり、今後の検討を待ちたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度から開始した本研究は、研究期間の途中でコロナ禍に突入したことにより、研究計画の大幅な変更を余儀なくされた。林家文書の翻刻と校訂については、幸い最初の一年で翻刻の下原稿の作成が順調に進展した関係で、翻刻作業そのものは終盤に差しかかりつつあるが、断簡となった文書同士の接合や、写真等では判読困難な文字の解読など、対面での原本調査が難しかった時期が長く続いたことにより、途中から計画を修正しつつ研究を進めていった。 一方、研究期間の延長が認められたことにより、当初は計画になかった紀伊国和太荘以外での現地調査へと研究の対象を広げていくことができたため、当初の計画よりより幅広い視野から本研究の課題を検討することができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
林家文書の翻刻と校訂を進め、荘官の中でもとくに公文が荘園現地の支配に果たした役割とその実務能力の実態についての究明を進める他、大和国柳生郷・小柳生郷および畿内の別の荘園の事例を収集し、荘官の家に伝来した文書からのアプローチと現地調査からのアプローチにより、荘官の実務能力の実態を立体的かつ複合的に解明する。とくに後者については、荘官の実務能力が年貢・公事の収納や、荘園経営にかかる経費の割り付けといった計数能力や事務能力のみではなく、交通路・祭祀・金融・警察など、荘園現地の様々な問題に即応できる総合的な能力であるという視点から、荘官の活動の多様な実態に迫り得る事例収集を進めていきたい。
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