研究課題/領域番号 |
19K01023
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
谷口 満 東北学院大学, アジア流域文化研究所, 客員研究員 (10113672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 井塩地区塩神廟 / 西南少数民族地区塩神廟 / 海塩地区塩神廟 / 道士塩神 / 仏僧塩神 / 塩神神格の変遷 / 塩神管仲 / 塩商と塩神廟 / 池塩地区塩神廟 / 西南少数民族女性塩神 / 天津地区女性塩神 / 山東地区塩神信仰 / 塩神孫子 / 西南少数民族塩女神 / 天津地区塩女神 / 四川塩源県塩神廟 / 雲南剣川県塩神廟 / 牧牛女塩神伝説 / 女性塩神 / 男性塩神 / 揚州塩宗廟 / 泰州管王廟 / 塩政神管仲 / 中国塩神廟 / 中国塩業伝説 / 井塩地区塩神信仰 / 海塩地区塩神信仰 / 少数民族塩神信仰 |
研究開始時の研究の概要 |
中国各地に残存している塩神廟について、その神格の由来と変容・祠廟の設置情況と祠廟組織の変遷などを現地調査し、その調査内容に神像と祠廟建築の写真を加えて、中国塩神廟資料データベース『中国塩神廟総覧』を作成するとともに、その資料データベースを研究資料として、塩神と他の宗教神、塩神廟の組織と運営、移民の発生や全国的塩流通網の形成と塩神信仰、少数民族の塩神信仰、中国の塩神と日本の塩神といった中国塩神信仰史の諸問題を考察する。
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研究実績の概要 |
中国各地に残存する塩神廟について、所在地・設置時期・設置事情・神格・運営組織・祭祀活動などの基本情報を収集するとともに、神像・祠廟などの写真を付して、中国塩神廟研究のデータベースを作成し、それらのデータを駆使して、塩神信仰と他神信仰との習合、在地信仰の様相に見られる行政と一般庶民社会の関係、塩神信仰をめぐる漢族と少数民族の相克などを歴史的に考察することが本研究課題の主旨であるが、昨年度までの成果を継承して、本年度はとくに四川省井塩地区を対象として研究を実施した。その結果、現地住民が当初設定した祭神が他の祭神に代えられていく場合がしばしば見受けられるが、それは国家・地方政府が現地住民から塩業利益を簒奪していく過程で生じた現象であること、またその現象は漢族政権による少数民族支配の厳重化にも対応していること、塩神信仰がのちに道教神などの他神信仰と習合していくことはごく一般的に見られる現象であるが、四川省井塩地区のある場所では、そもそも当初から道士や仏僧が塩神そのものとして設定されているという例が見られ、それはいうまでもなく道教崇拝・仏教崇拝の浸透に対応していることなど、貴重な新知見を獲得することができた。 3年来問題にしてきている塩神神格の地域差については、管仲を塩神として祭祀するのはほとんど江蘇・山東の商業都市に限られ、それは塩神廟の創設を主導した塩商財閥と関係官僚の意図によるものであるという、新しい知見を追加することができた。 日中塩神信仰比較研究のため継続してきている日本各地塩釜神社の現地調査については、四国各県において十数か所の塩釜神社を調査し、塩神である塩土老翁神を当初から祭祀せず、塩神ではない古事記・日本書記系の天孫系諸神を祭祀しているという、つまり塩神を祭祀しない塩釜神社が存在するというきわめてまれな事例を確認することができたのは、貴重な発見であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の方法は、採択以前のおよそ十年にわたる中国塩神廟現地調査の成果をうけて、その現地調査を発展的に継承することを主旨としているが、初年度こそ8月に江蘇省で現地調査を実施しえたものの、以降3年間は新型コロナウイルス感染症の蔓延によって中国渡航がまったく不可能となり、予定していた井塩地区・海塩地区・池塩地区での現地調査をすべて中止せざるをえなくなってしまった。神像・祠廟の撮影、現地での文献資料・口承資料の収集などができなくなってしまったのであるから、中国塩神廟研究データベースの作成に大きな空白が生じてしまったことになる。この空白を埋めるべく、塩法志・地方志・地理書・民族志及び塩文化史研究書を精査するとともに、中国軽化工大学中国塩文化研究センター・中国海塩博物館などの研究活動成果を収集することにつとめたけれども、残念ながら集積した資料は所期の分量の半分ほどにすぎない。進捗状況を「おおむね順調に進捗している」とは判定できないゆえんである。 ただ文献資料の精査・関連研究機関研究成果の収集・関連研究者からの聞き取りが、予期せぬ成果をもたらしたことも確かである。文献記録では塩神と他神が習合したと記されているものの、実際のところ在地住民はそれを塩神一神として祭祀している事例があること、道教や仏教の流伝・盛行にともない、道士・仏僧自身が塩源の発見者とされる伝承が生じたこと、国家・地方政府の管理強化にもかかわらず、在地住民の自主的な塩神信仰が強固に存続する例が数多くみられること、こういった新知見の獲得がそれであり、これらの新知見が本研究課題の研究進展に寄与するものであることはまちがいない。進捗状況を最下位の「遅れている」には判定しなかったゆえんである。 以上を総合的に判断して、進捗状況を「やや遅れている」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
延長期間1年を含む4年間の研究期間が終了したわけであるが、新型コロナウイルス感染症の蔓延により所期の目的を達成できなかったことは明らかであり、認可された再延長の1年間を最大限に活用して、所期の目的の達成をはかりたい。 1.中国塩神廟所在地一覧・中国塩神廟神格一覧・神像祠廟写真・設置時期・信仰管理組織・祭祀活動などを内容とする中国塩神廟研究データベースの作成を継続する。2.四川省・雲南省・江蘇省・山西省などで現地調査を実施する。3.データベースに基づき、塩神信仰と他神信仰の習合、運営における行政と在地住民の関係、女性塩神と男性塩神の関係、少数民族の塩神信仰と漢族支配の関係、祭祀活動の変容など、中国塩神信仰史の諸問題を考察する。4.現地調査報告と紙上調査の結果を集録した『中国塩神廟訪問記』の編集を開始する。 なお現地調査は、当初の計画では計3回の中国渡航でもって実施する予定であったが、残余の研究期間(再延長1年間)内に3回渡航することは、コロナ感染症にかかわる日中両国の渡航管理状況からしてきわめて困難であり、そこで調査内容を集約し、渡航期間を最大限にとって1回で実施したいと考えている。具体的には、四川省自貢市中国軽化工大学中国塩文化研究センター及び中国塩業歴史博物館、江蘇省塩城市海塩博物館、四川省南部塩神廟、雲南省北部塩神廟、山西省解県塩神廟などを2週間ほどで巡回調査する行程を予定している。次年度にもちこした経費の8割がその渡航費用にあてられる。また日中塩神信仰比較研究にかかる日本各地の塩釜神社調査についても、有数の産塩地である瀬戸内海北岸に残存する数基の塩釜神社を現地調査する予定であり、次年度にもちこした経費の約2割がその国内調査旅費にあてられる。
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