研究課題/領域番号 |
19K01067
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
肥後本 芳男 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00247793)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | アボリショニズム / ウィリアム・L・ギャリソン / 暴力 / ポピュリズム / 英米の奴隷制廃止運動 / ラヴジョイ殺害事件 / コモンロー / 言論の自由 / キリスト教福音派 / アメリカ反奴隷制協会 / イギリスの奴隷制廃止 / 第二次大覚醒運動 / トマス・ジェファソン / 毛皮貿易 / 奴隷制 / 先住民 / 反奴隷制協会 / 言論統制 / ジェイコブ・アスター / クエーカー / 西部開拓 / 公共圏 / アメリカ独立革命 / 新西部史 / 黒人奴隷制 / アメリカ体制論 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでアメリカ独立革命の研究は、ヨーロッパからの入植者に関する社会・思想史が主流を占めていたため、東部沿岸部に発展した英領植民地と本国イギリスとの関係を考察する研究に偏重してきた。本研究は、そのような東部沿岸部とイギリスやアトランテック史に偏ったアメリカ史像の再検討を促す。具体的には、北米東海岸から海洋を見渡す眼差しのみならず、アパラチア山脈を超えた西部領域からの視座を取り込むことにより、白人開拓者および先住民部族間の西部をめぐる覇権争いのなかで大西洋世界のアボリショニズムの台頭が新共和国の言論空間に及ぼした影響を探り、1830年代までに顕在化した地域間の政治文化の分裂過程を解明する。
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研究実績の概要 |
本年度は、アメリカ合衆国で1830年代に頻発したアボリショニストに対する民衆暴力の歴史的意味について分析する研究を進めた。当時狂信的で過激な集団とみなされていた、ウィリアム・ギャリソンやアメリカ反奴隷制協会の巡回演説者などに向けられた激しい暴力は、アメリカ・ポピュリズムの発露の一形態としてもみなしうる。1830年代前半に吹き荒れたアボリショニストへの暴力は、1830年代末から1840年代にかけてしだいに鎮静化するものの、北部の世論は南部の奴隷主の寡頭支配への非難に向けられるようになった。こうしたアメリカにおけるアボリショニストに対する暴力や世論の変化を、本研究ではボストンやフィラデルフィアなどローカルな政治文化の中に位置づけて検証する作業をおこなった。まだ地元の新聞や文献の考察を通して仮説を補強する必要があるが、解釈の大きな道筋をつけることができた。成果の一部はすでに研究会や学会で報告した。 具体的には、2022年5月28日に北米ポピュリズム史研究会で「19世紀アンテベラム期のアボリショニズムと暴力-アメリカ史のポピュリズムの視点から考える」と題する研究報告をおこなった。加えて、7月26日には同志社大学のアメリカ研究所第1部門研究会でより論点を絞った報告を行い参加者からの有益なフィードバックを得た。11月13日には、関西アメリカ史研究会年次大会でも研究発表をおこなった。これらは、学術論文として取りまとめ刊行する予定である。 2022年度の具体的な研究成果の一部として、次の2点の学術書を刊行した。 単行本:中野博文、伊藤詔子、肥後本芳男編著『アメリカ研究の現在地-危機と再生』(彩流社、2023年2月)、単行本:田中きく代、遠藤泰生、金澤周作、中野博文、肥後本芳男編著『海のグローバル・サーキュレーション―海民がつなぐ近代世界』(関西学院大学出版会、2023年3月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、アメリカ建国期からジャクソン期にかけての奴隷制廃止運動の推移を、英米のアボリショニストの連携を中心に環大西洋史の視点から考察してきた。2021年度は、建国初期から1816年のアメリカ植民協会(ACS)の創立までの奴隷貿易・奴隷制反対運動の生成について有力な出版者マシュー・ケアリーや黒人海運業者ポール・カフィ、反奴隷制新聞の編集者ベンジャミン・ランディなどの思想や活動を軸に掘り下げた。さらに2022年度は、イギリスの奴隷制即時廃止運動の台頭、バプテスト戦争として知られる英領ジャマイカでの奴隷蜂起、1833年の議会における奴隷制廃止法案の通過といった主要な出来事に直面してジャクソン期のアメリカの港湾都市においてアボリショニストへの暴力が頻発した要因を歴史的に分析してきた。幸いコロナ禍でやや遅れた研究計画は、ほぼ解消されつつある。 本研究を通して、1840年までに奴隷制問題を軸に合衆国では大きな政治文化の変化が生じ、奴隷制反対論者のグループの分裂を招くとともに、議論棚上げ措置で硬直化した連邦議会の外で女性や黒人たちにけん引された奴隷制廃止運動が大きなうねりとなってアメリカの政治文化の変容を促したことが明らかになった。 また1830年代には、西部領土への奴隷制反対論が浸透に伴い、アボリショニストへの暴力が西部においても頻発した。1837年イリノイ州南部のオールトンで起きたアボリショニストの新聞編集者ラヴジョイ殺害事件は、全米でセンセーショナルに報じられ、社会に衝撃を与えたが、本事件が西部諸州でどのように受け取られ、反奴隷制の世論形成にいかなる貢献をしたのかは、これまで十分な研究がなされてきたとは言い難い。今後本研究では、1840年代に西部住民がいかに自らの「自由」と奴隷制廃止の思想を結びつけて考えるようになったのかをローカルな視点から検証していく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトは、環大西洋史と大陸史双方の視点から、主要なアボリショニストの活動が独立革命期からアンテベラム期までのアメリカ政治に及ぼした影響について事例研究を積み重ねてきた。 そうした研究の蓄積を踏まえて、今後は次の2点を掘り下げる予定である。1)ロンドンで刊行されたBritish and Foreign Anti-Slavery Reporter紙などアボリショニストの有力紙の中で繰り広げられた英米のアボリショニストの交流と摩擦に注目し、グローバルな奴隷制廃止運動の広がりとアメリカの政治文化の相互関連を探究する。2)膨張する西部領土において反奴隷制の主張がイリノイ州を含む西部諸州の政治文化にどのような影響を及ぼしたのかについて、イリノイ政界でのオーエン・ラブジョイやエイブラハム・リンカンの台頭と政治文化の変容過程をアボリショニストの活動の視点から検証を進めていく。 補足的な資料の閲覧・収集をおこなうために、校務関連の任務のスケジュールを勘案したうえで、今年度中にハンティントンライブラリー、ボストン公共図書館、ないしロンドンの大英図書館などで現地調査を敢行するつもりである。 今年度が本研究課題に関する総括の年ということもあり、研究計画の総点検を行いながら、学術書の刊行に向けて準備していきたい。最終成果として、アメリカ独立革命期に始まった英米での奴隷貿易・奴隷制反対運動が、19世紀初頭には環大西洋の奴隷制廃止運動へと広がり、アンテベラム期のアメリカの政治文化の醸成に少なからぬ影響を及ぼしたことを例示する統合的な解釈を提示したいと考えている。
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