研究課題/領域番号 |
19K01202
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
伊藤 眞 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員教授 (60183175)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 文化人類学 / 社会人類学 / インドネシア / ジェンダー / セクシュアリティ / トランスジェンダー / ブギス / イスラーム主義 / LGBT |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、性現象という領域においてローカル(地域的伝統)とグローバルな力が同時にせめぎ合い作用するという視点を導入する。 近年のインドネシアでは、LGBT思想の流入に対してイスラーム原理主義諸団体からの反発が強まっており、その影響は地域社会にも及んでいる。そうした状況への伝統的トランスジェンダーの対応と適応を、ライフヒストリの収集、関連諸団体からの聞き取り調査などを通じて記述分析し、民主化以降のインドネシアにおける性現象の変容過程を多角的に明らかにする。
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研究実績の概要 |
1 前年度からの継続として、今日のインドネシアにおける①性観念、②LGBTの動向を把握すべく、論文・報告書および新聞・雑誌記事などの資料収集をおこなった。とくに社会的影響力の強い、政治家、学者、宗教的有識者のメディアへの発信に注目し、インターネットサイトで閲覧収集した。その結果、イスラーム主義団体、一部の政治家には、LGBTを欧米の自由主義思想と同一化し、排除しよう とする傾向が認められた。 2 インドネシアの代表的全国紙および南スラウェシの地方新聞について検索作業を行なった結果、LGBT、トランスジェンダーについての言及頻度が2019-20年の時点と比べて著しく減少していることがわかった。ただし、この現象をどう解釈するかについては、検討中である。 3 2022年、南スラウェシ・ボネ県で、伝統的神器儀礼の慣習的担い手であった伝統宗教の祭司ビッスが、儀礼への参加を県政府から認められないという事件が起こり、2023年にも同様の処置がとられた。一方、LGBTなどのイベントや集会が地方政府から禁じられる事件が増加している。これらは、宗教的マイノリティや性的マイノリティというイスラーム主義的な立場と相容れない存在が、公共的な場から排除されつつあることを示している。言い換えると、インドネシア、とくに南スラウェシにおいて宗教的非寛容さが増大傾向にあることを示している。 4 前年度の調査において、新たなる性自認として「ノン・バイナリー」を主張する若者に注目した。こうした若者に見られる新たな性意識の動向については、23年度調査では、新たな進展を見出すことはできなかった。 3 継続的調査として、YouTubeなどに公開された映像データやDVD資料を収集し、カタログ作成作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1 計画に遅れが生じた最大の理由は、前年度前半期までのcovid-19の影響である。2020-2022年のおよそ2年半にわたり、インドネシアにおける現地調査実施が困難になったこと、コロナの世界的蔓延のため、マレーシアなど他の代替地における調査の実施をも困難になり、調査計画を前年度および今年度に延長する結果になっている。 2 ただし、現地調査が困難になったために、補助的調査として進めた映像・メディアの資料収集、映像表現(とくに大衆映画)における同性愛、トランスジェンダーに着目する作業を進めた結果、民主化以降のインドネシアにおける性表現という元来のテーマを、単に同時代的な流行・変化の範囲のみならず、伝統的な文学や舞踊表現など、より長期的な視点から捉え直す機会を与えることになった。その作業の延長上に、今年度は、現地において、伝統文学の研究者との意見交換を予定している。 3 上述した意味においては、当初計画の遅れは、新たな視点の拡大を伴っており、全体的には若干の遅れはあるものの、大幅な遅滞をもたらすものではないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1 ブギス民族の伝統文学、文書の読解を通して、ブギスの伝統的「性観念」についての理解を深める。具体的には、南スラウェシのハサヌッディン大学文化科学部において、性に関わるブギスの古文書資料の研究を行っているムフリス・ハドラウィ教授、イ・ラガリゴ叙事詩の研究を通して文学に見られる「愛情表現」に注目するヌルハヤティ・ラフマン教授らと面会し、主としてブギス社会における性観念について意見交換を行う。また、昨今の「ノン・バイナリー」観念との関連性においても注目されている、伝統祭司に認められる宗教的両性具有の観念については、伝統祭司の研究者はリリンタール氏らと意見交換する。後者は、ポジティブな意味における「ノン・バイナリー」として、特徴づけられる。 2 若者向けの雑誌メディア、サブカルチャー雑誌などの媒体を収集し、大学生の協力を元に、多様な性表現をピックアップする。 3 大学キャンパスを中心に、若い世代における性観念、性理解について、最近の映像表現を素材に聞き取り調査を行う。 4 調査収集したデータをもとにまとめた発表原稿を叩き台として、本計画当初の研究協力者、上記の海外研究協力者らとともに、Zoomにより、ワークショップを開催する。発表原稿は、インドネシアの学術雑誌Masyarakat Indonesiaに発表する予定である。
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