研究課題
基盤研究(C)
オセアニア植民地時代について、ポストコロニアルの議論からともすれば排除されがちの年季契約労働者の歴史を描き、その現在を考察する。主たるフィールドとしては、申請者が既に研究を重ねているメラネシア系と中国系のいるサモア独立国であるが、参与観察や面接によるデータの収集よりも文献研究を基礎とした研究を目指しており、現地での情報収集は補足的に行う。一次資料はニュージーランド公文書館・同国立図書館およびハワイ大学図書館に赴いて集める。比較のためインド系の多いフィジーや日系人を集めた合衆国ハワイ州、ならびにバヌアツなどから労働者を集めたオーストラリア・クイーンズランド州に関しても文献研究を行う予定である。
前年度にはもっぱらサモアの年季契約労働について研究したのであるが、それを担ったのが主として中国人であり、またその政策と実施状況を比較するために、令和5年度は主にフィジーのインド人年季契約労働者について文献調査を行った。研究論文として「オセアニア植民地時代における非白人移住者(3)―フィジーのインド人年季契約労働者―」にまとめることができた。フィジーはサトウキビ栽培、サモアはカカオ栽培やココナツ栽培に重点が置かれた。サモアに導入された中国人は延べ4000人足らずであるのに対し、フィジーのインド人は6万人に上り、規模は全く違っていた。双方共に、働く者にとっては大変厳しいプランテーション労働であったが、それ以上に家族生活のあり方が双方でまったく違っていた。サモアでは中国人男性のみが導入された(これには文化的要因も大きい)のに対し、フィジーの場合、女性は比率が少ないものの存在したために、現地で家族が形成され、やがてエスニック・コミュニティが生じた。また植民地政府の政策により、年季明けの労働者がプランテーション外の経済活動を行うことができたことが大きい。サモアでは、サモア人女性との結婚が法律的に認められない状態が続き、生まれたハーフの子どもは母方に帰属し、明確なエスニック・コミュニティの生成には至らなかったのである。サモアでは、プランテーション外の経済活動も限られていた。この研究課題と関連する一般向け著書『オセアニアの今―伝統文化とグローバル化』を7月に出版した。また昨年度に引き続き、サモアの史料に当たるため、10月に2週間程度ニュージーランド・ウェリントンの公文書館にて追加調査を行い、さらにサモア独立国に足を延ばして調査を行った。
3: やや遅れている
コロナの時期を経て、フィールドワークで研究を進める計画を大きく文献調査に方向転換した。新しい計画では、やや遅れが出ているが、2年間の研究の延長があり、キャッチアップしつつある。
6月にハワイに1週間ほど滞在し、その際に文献調査を行うことを計画している。また、文献調査に軸足を置く結果となった。4・5年度にニュージーランド・ウェリントンで行った史料の収集を整理し、これを中心にまとめて書籍として出版する計画を立て、出版社とも交渉を行っている。これまで、出版した研究論文を軸に、さらに精査し書き加える計画である。
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経済志林
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