研究課題/領域番号 |
19K01241
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05010:基礎法学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水野 浩二 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (80399782)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ヨーロッパ / 中世 / 近世 / 法学 / 実務 / 予防法学 / 紛争 / 契約 / 手引書 / 民事訴訟 / 日本 / 学識法 / 法 / 歴史 / 私法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は13~18世紀ヨーロッパの私法を、近代法理論を過去に投影するのでなく当時の利用者目線に立って描き出すことを目指す。実務向け手引書や書式集、その内容たる実務テクニック(書面作成の技法や戦術的アドバイス)を分析し、当事者のコストの最小化が目指され、実務の積み重ねが近代に向けた法の発展に大きく寄与したことに光を当てる。 実用的な法知識が早くから広く社会に浸透したことが、ヨーロッパの法文化を今日に至るまで他地域と大きく異なるものにしたことを示し、法実務と法理論の関係、そして「法を市民に近づける」ことを考えるために有益な知見を導き出してみたい。
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研究実績の概要 |
前年度に引き続き、15・16世紀ヨーロッパの予防法学に特化した文献類型についての検討を行った。ブレーデローデ(Brederode)の『注意集』(1590年)は、先行する諸著作の内容を契約、遺言・相続、訴訟の三部に再構成し、詳細な項目・語句索引を作成して注意(cautela)の体系化に意を用いていた。当時からあった「注意=非道徳的戦術の指南」という否定的評価に対しては、悪を回避するための賢慮として多数の古典を引用しつつ強く反論しており、中世学識法学と人文主義の融合を明確に読み取ることができる。 注意の具体例の検討を進めた結果、実務における運用や論点について学説が割れていることに着眼しつつ、一般性を認められた規範(法源や学説)が求めるのと異なる効果を自分に有利に発生させる解釈論が広く見られたことや、「弱者の救済」や「富裕層の知恵袋」といった特定のスタンスではなく多様な立場の読者を想定していたことなどが明らかになった。 注意の多くは元々は中世学識法学のビッグネームの手になるものと推定され、かつ注意で用いられた定型的なテクニック(書面の記載の工夫、宣誓、職権の関与など)は、中近世の法学で広範に用いられていたものである。「一般性を認められた規範にそぐわない手段が、多様な局面で広範に用いられていたこと。それらを一書に纏めた予防法学文献が、一定以上に広まっていたこと」は、ヨーロッパ中近世の法学の一側面であるだけでなく、西洋法文化そのものや西洋社会の「法化」のありようを理解するためにも見過ごせない要素を含んでいると考えられる。以上の内容について学会報告を行い、成果のとりまとめとして論文の執筆を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス禍が今年度もなお終息に至らなかったこともあり、ブレーデローデ『注意集』や『注意集』に合本・整理されていった先行著作のうち、デジタル化されていない版の現地図書館での調査・確認、関連する史資料の調査・収集を行うための海外出張を行うことができなかった。とはいえ、手元に揃えた史資料の検討の進捗によって、来年度の渡欧の際に調査すべき点は明確になりつつあり、来年度に一定の研究成果をとりまとめることは十分可能と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
一年間の研究期間再延長を認められたので、来年度にはすでに定まった方針に従い、研究成果の最終とりまとめに向けた論文の執筆作業を継続して完成させ、学会報告や査読付き雑誌への投稿を行う。来年度には関連史料の現地での調査・確認作業を速やかに実施し、論文執筆にできる限り反映させる。
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