研究課題/領域番号 |
19K01247
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05010:基礎法学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
牧野 絵美 名古屋大学, 法政国際教育協力研究センター, 講師 (00538225)
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研究分担者 |
Ismatov Aziz 名古屋大学, 法学研究科, 特任講師 (90751206)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ミャンマー / ウズベキスタン / 憲法裁判所 / 権力分立 / 人権保障 |
研究開始時の研究の概要 |
ミャンマー憲法裁判所は、2011年の設置以来、年間数件の事件しか扱っておらず、人権保障という観点から、西欧立憲主義が意図する目的を果たせておらず、機能不全に陥っている。東欧・旧ソ連の社会主義国も、体制転換にともない、権力分立、人権保障といった西欧的な立憲主義理念のもと、多くの国が憲法裁判所設置した。本研究は、社会主義からの体制転換に着目し、ウズベキスタンを比較の対象とし、ミャンマーがなぜ憲法裁判所制度を導入し、社会主義・軍政時代の権力統合原理が違憲審査制度にどのような影響を与え、人権保障メカニズムの問題点を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、ミャンマー憲法裁判所が権力分立、人権保障に果たす役割に着目し研究を進めている。2021年2月1日に発生したクーデターにより、緊急事態宣言が発令され、現在全権を国軍最高司令官が掌握しており、立憲主義という観点から危機的状況である。国軍は、不正選挙に対する申立を拒否し、国会を招集することは、「不法かつ強制的な手段」により権力を掌握し、ミャンマーの主権および民族の団結の損失をもたらすとして、緊急事態を宣言した。しかし、緊急事態宣言の正当性は、実体的にも手続的にも疑義がある。憲法上、当初の緊急事態宣言は1年とされ、6ヶ月の延長が2回可能である。つまり、緊急事態宣言は、最大2年まで可能であり、2023年1月末に期限を迎える予定であった。しかし、実効支配する軍事政権は、3回目の緊急事態延長を宣言した。憲法裁判所は、2回までの延長は、「通常」の場合であり、現状は通常の状態ではないとして 、この延長を合憲と判断した。この「通常」ではないという解釈が可能であれば、緊急事態宣言の延長はいつまでも可能となることが危惧される。 緊急事態宣言解除後6ヶ月以内に総選挙を実施し、政権を移譲することとなるが、軍事政権は、緊急事態宣言延長直前の2023年1月下旬、新たな政党登録法を施行した。既成政党に対して、60日以内の再登録を義務づけ、再登録しない場合は政党登録は無効とするとした。政党登録後一定期間内に10万人以上の党員の動員が求められ、服役中の者を党員から排除する条項などが盛り込まれ、アウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領など、多数の幹部が服役中である民主化勢力の国民民主連盟(NLD)を排除するものとなった。これは、2011年の民政移管の際にも用いられた手段であり、再びNLD抜きで総選挙が実施される見込みとなり、ミャンマーの民主主義への復帰が一層遠のいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ミャンマーについては、新型コロナウィルス感染症拡大および2021年2月の軍事クーデターにより、現地調査が実施できず、うまく研究が進展していない。2023年1月に2年間の緊急事態宣言期間が終了すると考えられていたが、さらに延長され、いつ終了するか不透明である。本研究は、政治状況と密接に関わる内容であり、いつ現地調査が再開できるか見通しが立っていない。ミャンマー憲法裁判所判決英訳については、終盤まできているが、いくつかの確認事項が残っている。幸いにも、ミャンマー憲法裁判所に焦点をあてて研究を行っている大学院生(ミャンマー留学生)の協力を得られることとなり、2023年度中には完成予定である。また、同大学院生には、憲法起草過程に関する調査も依頼しており、情報収集が進むことが期待される。 比較対象であるウズベキスタンに関しては、順調に研究を進めている。ウズベキスタンでは、2022年以降、憲法改正プロセスが始まり、2023年4月に国民投票が行われ、同年5月、改正憲法が採択された。憲法改正案に、カラカルパクスタン自治共和国の権限を縮小する内容が盛り込まれ、同年7月に大きなデモが起き、死傷者も出た。独立後のウズベキスタン国内で、憲法改革に関わってデモが起きたのは初めてのことであった。その後、大統領は、該当箇所を改正しないこととし、同自治共和国の位置づけは変更されないこととなったが、すべての問題が解決されたわけではなく、その問題について、イスマトフは、研究報告を行った。他には、イスマトフほか編により、Dynamics of Contemporary Constitutionalism in Eurasia: Local Legacies and Global Trends (Berliner Wissenschafts-Verlag, 2022)などの研究成果もある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、ミャンマー憲法裁判所は、独立性が低い。その要因として、憲法裁判所裁判官の任期が大統領と議会と同じであり、政治的介入を受けやすい点があげられる。2012年、憲法裁判所の判決を不服とする議会が、憲法裁判所裁判官9名全員を弾劾し、その後裁判官全員辞任した。本研究で、ミャンマー憲法裁判所の判決を分析してきたが、2012年の弾劾事件以降、違憲判決は出ていない。現在、2008年憲法の起草過程に着目し、起草者は、権力分立をどう考え憲法を制定したかを検討している。2008年憲法は、国軍に強大な権限を付与し、いずれ誰が政権を握っても、国軍の意向が反映されるメカニズムがきめ細やかに入れ込まれている。しかし、憲法裁判所裁判官に関しては、時の政権と密接に関わる任命の仕組みとなっており、国軍を母体とする政党が野党となった場合、国軍には不利となる。このような仕組みのもと、憲法起草者が憲法裁判所に何を期待していたかを明らかにしたい。 また、クーデター以降、ミャンマー軍事政権とロシアの関係は緊密化しており、2023年3月、ミャンマー国軍最高司令官とロシアの検事総長は、法分野の協力関係を強化することで合意した。ミャンマー側は、ロシアの連邦制を参照するとともに、大統領に強大な権限を付与し、政権の安定化と長期化を狙っているのではと見ている専門家もいる。ロシアでは、連邦制の中で中央集権化を進め、2020年の憲法改正にもそのことが盛り込まれた。本研究の比較対象としているウズベキスタンの憲法改革は、ロシアをモデルとしていることが多い。ロシア語母語話者が研究分担者に加わっており、ロシア側の情報を分析することもできる。従来のミャンマー法研究は、東・東南アジアとの比較で行われることが多かったが、本研究は、旧ソ連をひとつの軸としており、ミャンマーとロシアが関係強化する中、本研究が果たす役割は大きい。
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