研究課題/領域番号 |
19K01257
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05010:基礎法学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
徐 行 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (30580005)
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研究分担者 |
戸谷 義治 琉球大学, 人文社会学部, 教授 (10643281)
児玉 弘 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (30758058)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 比較法 / 台湾法 / 司法院大法官解釈 / 憲法法廷 / 憲法訴訟 / 憲法解釈 / 司法解釈 / 判例 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は台湾の司法院大法官会議が主体となって行使している憲法の解釈および法律・法令の統一解釈権の運用実態を検討し、日本および中国における類似制度との比較を通じて、その特徴を析出し、法秩序の形成ないし台湾政治の民主化に伴う「法の支配」と人権保障の確立・深化における大法官解釈の役割を解明することを目的とする。 台湾でしか入手できない文献資料を収集・検証し、現役ないし退任した司法院大法官に対する聞き取り調査を実施することで、①制度の歴史と現状を明らかにする。その上で、民主化前後の台湾と政治体制の面でそれぞれ共通性を有する中国および日本と比較し、②司法による法形成・憲法解釈のあり方の異同を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は台湾司法院大法官会議が行使している憲法の解釈および法律・法令の統一解釈権の運用実態を解明し、日本・中国との比較を通じて、法秩序の形成ないし台湾政治の民主化に伴う法の支配と人権保障の確立・深化におけるその役割を明らかにすることである。 2022年度は引き続き新型コロナウイルス感染症による影響で、台湾への調査訪問が実現しなかったが、文献調査とオンライン調査の併用により、2022年からの憲法法廷(憲法裁判所)の運用実態を確認することができた。約1年の間に下された計24件の判決(従来の大法官解釈相当)の内、違憲または一部違憲の判決は計11件で、既存の大法官解釈を変更した1件の判決、及び法律の解釈を統一するための判決3件も計算に入れると、既存のルールに対する修正が全15件にも及び、全体の6割を超えている。判決は多岐の分野に及んでいるものの、特に刑事手続法上の被疑者・被告人の権利保障、男女平等、原住民の権利保障といった人権擁護に関わる事件において、多くの違憲判決が出されており、憲法法廷が人権擁護に一層積極的に寄与しようとする姿勢がうかがえる。 人権擁護に対する憲法法廷の姿勢は台湾の民進党政権の姿勢と同調する側面もあるのではないかと考えられる。蔡英文政権は民主主義と自由を重視する価値観外交を展開しており、中国からの圧力に対抗するために、普遍的価値(人権擁護も含めて)へのコミットメントをアピールしている。憲法法廷がその影響を受けている可能性は否定できない。実際のところ、食肉や食肉製品の輸入基準について、現政権寄りと考えられる合憲判決も出されており、台湾の司法と政治との近い関係を示唆している。 また、同性間に婚姻を認めない民法を違憲とした大法官解釈が同性婚に関する特別法の制定に繋がったほか、外国人との同性婚を認める内政部通達の制定にも寄与しており、大法官解釈の強い影響力を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスによるパンデミックは収束しつつあったが、中国籍の研究者による台湾訪問は依然として高いハードルによって阻まれているため、実態調査・資料収集のための台湾調査は実現しなかった。しかし、台湾の研究者による日本訪問は比較的に手軽にできるようになったため、日本における台湾人に対する聞き取り調査は限定的ながら可能となった。これによる情報のアップデートは本研究の今までの遅れを取り戻すのに大いに役に立った。また、台湾の憲法法廷は新たな試みとして、従来認められていなかった口頭弁論と判決言い渡しのネット中継を導入し、判決後の記者会見の中継と合わせて、映像による情報収集と実態確認が可能となり、台湾に行かなくても、憲法法廷の制度運用の状況をある程度分析できるようになった。憲法法廷の判決等に関する各種資料の公開も進んでおり、判決の全文、両当事者の主張、及び各大法官の意見はいずれも司法院の公式ホームページから確認できるため、少なくとも憲法法廷が下した判決に関する事例分析は可能である(学界の反応や当事者に対する聞き取りなど、実態調査が制限される部分もあるが)。これらの状況の変化にともなって、本研究は一定の進展が見られた。 ただし、研究期間の延長により、当初予定していなかった憲法法廷に関す研究は資料収集の利便性を考慮して実質的に本研究の中心的な研究対象として位置づけなければならず、成果としてまとめるのになお一定の時間を要すると思われる。また、台湾訪問のハードルが下がったわけではないため、通常現地訪問でしか収集できない資料と情報の入手にも多くの時間を割く必要がある。パンデミックによる影響を可能な限り抑えて、遅れを取り戻すよう努力しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は台湾出張が可能となった時点に現地を訪問して補充的な調査を行う。憲法法廷に関する多くの資料はオンラインで収集可能なため、現地での実態調査・資料収集は必要最小限のものに限定する。中国籍の研究者による台湾訪問のハードルは短期間で変わらないが、現地での保証人など、ビザ申請に必要な協力体制を構築できる見通しが立ったため(また、日本国籍の分担者にはそのような負担が生じないため)、現地調査は実施可能だと判断している。 本研究の取りまとめと成果発表の場として、対面とオンライン併用でハイフレックス形式のシンポジウムを開催する。代表者と分担者は大法官解釈と制度変更後の憲法法廷の判決による台湾法形成の実態を事例分析を通じて行い、台湾における司法と政治との関係を分析し、その特徴を析出するとともに、東アジアという地域の中での位置づけを明らかにする。また、議論を通じて、特に中国・日本との類似点や相違点、及びその背後の影響要因について、より深く検討したい。 最終成果としての論文執筆は上記活動を踏まえて進め、最終年度の翌年には公表できるように準備する。また、台湾学者の先行研究の翻訳を通して、現地における大法官解釈・憲法法廷判決に関する認識の現在地を日本に紹介する。
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