研究課題/領域番号 |
19K01295
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05020:公法学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
内野 広大 三重大学, 人文学部, 准教授 (90612292)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2019年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 信教の自由 / 信仰表明の自由 / イギリス憲法 / 合憲性判断構造 / 法の支配 / 適用審査 / 比例原則 |
研究開始時の研究の概要 |
「宗教的要求は我々の已まんと欲して已む能わざる大なる生命の要求である」。ある著名な哲学者のことばです。宗教が個人の生きがいと密に関わるならば、信教の自由は手厚く守られなければならないということになるでしょう。実際、最高裁判決の中にも手厚く保障しているものがあります。 しかしながら、現実の訴訟の場で、信教の自由の中身をどのように認定し評価すべきか、それをどう考慮して判断すべきかという肝心の問題については議論の蓄積が不十分であり、このままでは権利が十分に保障されなくなってしまう恐れがあります。本研究は、イギリス憲法における信教の自由論を手がかりにして、従来の議論の不足部分を補うものです。
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研究実績の概要 |
2022年度は、2021年度に引き続いて、イギリスの信教の自由に関する重要判決の一つであるWilliamson事件諸判決及びそれらに関する諸文献を読み込み、イギリスにおける信教の自由考察の出発点構築を目標とした。 第一に、Williamson貴族院判決における各個別意見を要約するとともに、同事件における貴族院の立場を解明するために、各個別意見間の共通点と相違点を一部析出することができた。第二に、同事件における控訴院の立場を明らかにするべく、同控訴院判決における各個別意見の共通点及び相違点を一部析出することができた。また、同控訴院判決の抱える諸問題を特定するために、同控訴院判決の評釈を読み込み要約することができた。第三に、非典型的宗教的実践の自由に対する規制の合憲性を判断する複数のアプローチを抽出するべく、本件における控訴院、貴族院及び控訴院評釈の立場を部分的に比較検討することができた。第四に、上記の第一点を反映させた論文(「信仰表明の自由規制の合憲性判断構造に関する覚書〔二〕」)を公表することができた。同論文においては、同貴族院判決が、非典型的宗教的実践の自由に対する規制を端的に信仰表明の自由に対する規制として捉えるものであるとともに、信条の真正性が問題となるとき裁判所はそれを客観的基準に照らして吟味できないとする点において控訴院判決と同様であるけれども、ストラスブール先例にいうCampbell基準を信仰表明が問題となる時点において適用するのみならず、制約該当性ではストラスブール先例を厳格に適用するものではない点において控訴院判決と異なることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、2020年度に定めた研究の方向性を踏まえ、イギリスにおける信教の自由考察の出発点を築くことを目標とした。すでに記したように、Williamson貴族院判決の各個別意見を要約し共通点と相違点を明らかにすることができている。また、同控訴院判決の各個別意見間の共通点と相違点を析出しつつあるとともに、その問題点を特定できつつある。さらに、本件における控訴院、貴族院及び控訴院評釈の立場を部分的に比較検討することにより、非典型的宗教的実践規制の合憲性を判断するアプローチに関する分析は深まりつつある。よって日本の判例法理や学説を再考する視座を得る作業は順調に進みつつあるといえる。そして、同貴族院判決の要約については一論考としてまとめることができている。このような研究の進捗状況からすれば、信教の自由考察の出発点構築という目標達成に着実に近づきつつあると評価できる。 もっとも、2021年度と同様に、同貴族院判決や同控訴院判決の背景を成すストラスブール先例を十分に検討するには至らなかった。また、差別禁止法の構造調査や信教の自由領域におけるその適用状況の分析についても同様の状態にある。これらに加え、適法性の原則を解明したり、宗教学等の知見を踏まえて保障根拠を再考したりするには至らなかった。けれども、コロナウイルス禍における体調不良に悩まされ研究に十分に時間を割くことができなかったため、これらの課題に対応できなかったのはやむを得ないものと思われる。 以上より、研究は当初の計画通りに進んではいないものの、イギリスにおける信教の自由考察の出発点を築くという目標に着実に近づきつつあることから、研究の進み具合に問題があるとはいえないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、主に三本目の論文執筆の下準備及び執筆を行う予定である。 第一に、2022年度におけるWilliamson貴族院判決あるいは同控訴院判決の各個別意見の要約及び分析を基にして、同事件における貴族院及び控訴院の立場を析出し、その上で、非典型的宗教的実践の自由に対する規制の合憲性を判断する複数のアプローチを抽出する。これにより日本の判例法理や学説を再考する視座を得たい。第二に、Begum事件諸判決に関する諸文献を収集及び調査し、それぞれの判決の全体像を把握することとしたい。このような作業を経ることにより、後々にWilliamson貴族院判決を相対化する視座を得ることができるだろう。第三に、Begum判決と並び重要な判決として位置づけられるJFS最高裁判決では差別禁止法理が問題となっているため、差別禁止法構成の一般的な判断構造等を調査することとしたい。第四に、敬譲理論とは何か、その理論的根拠は何か、それが1998年人権法といかなる関係に立つかを考究することで、信教の自由制限の正当化判断構造の分析を深めたい。 以上に加えて余裕があれば、イギリスにおける信教の自由の保障史を辿り、信教の自由の保障の位置する文脈を明らかにするとともに、宗教学・宗教哲学の文献を読む等して保障根拠論を再構成したい。
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