研究課題/領域番号 |
19K01362
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
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研究機関 | 一橋大学 (2022) 東北大学 (2019-2021) |
研究代表者 |
得津 晶 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (30376389)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 法令遵守義務 / 会社法 / 取締役の責任 / イノベーション / 取締役の義務 / 内的視点 / コンプライアンス / 法と経済学 / 債務不履行責任 / 金融法 |
研究開始時の研究の概要 |
現在におけるイノベーションは法令違反と隣り合わせであり、イノベーションの創出のためには、取締役に一定の範囲で法令違反の行為をした場合であっても責任を否定することが必要である。取締役の法令遵守義務の根拠(帰責原理)は、法である以上守るのが当然であるとすることで、紛争解決の場で法による解決に説得力を持たせる機能を維持する点に求められる。他方で、法は社会のニーズから完全に断絶されては、説得力を失う。法は、社会のニーズをそのまま受けることはできないがインテグリティを保った形で社会のニーズにある程度応じて変容することも必要である。かかる議論を取締役の責任の場面に応用する。
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研究実績の概要 |
2022年度は、当初は、日本企業をめぐる社会的問題の中心が従来の相次ぐ企業不祥事対応に端を発するコンプライアンスから、近時の稼ぐ力の欠如を嘆くイノベーション不足へとシフトしたことが、前年度まで検討した法令遵守義務違反の根拠としての法のインテグリティないし法の内的視点の表れというアイディアにどのような影響を与えるのかを検討する予定であった。だが、研究計画当初と比較して、ESGやSDGsなどの流れの中でColin Mayer教授のCorporate Purpose論が隆盛となっており、株式の残余権者性から株主の支配権ひいては株主利益最大化原則の正当化根拠を論じたOliver Hart教授を含むOliver Hart and Luigi Zingales, Companies Should Maximize Shareholder Welfare Not Market Valueによる金銭的利益以外の利益の増進を唱える議論が隆盛となった。そこで、このような文脈を正面に据えて、株主利益最大化原則とステークホルダー理論との対比の中で、法令遵守義務に特殊な地位を見出すRevisiting Shareholder Primacy vs Stakeholder Primacy in Japan: Discordance between Hard Law and Soft Lawという論稿を執筆し、中国清華大学の21st Century Commercial Law Forumのブリーフィングで公表、報告を行った。その成果は「世紀東急工業株主代表訴訟事件の検討」資料版商事法務 460号、「地面師詐欺被害への取締役の対会社責任」法学教室511号でも生かされている。 その中で、Elizabeth Pollman, Corporate Disobedienceの議論を参考に、①取締役が当該法令違反行為が社会の利益になると信じていたこと(「合理的な理由があること」まで要求すると厳格になってしまう)と②法令違反行為が(社会にも投資家にも)Openであることの2つの要件を基準に法令遵守義務違反でも免責されうるという発想で議論を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目的では、2022年度は取締役の法令遵守義務違反の責任についての判断基準を確立すること、そして、その基準について、日本以外の国との意見交換をすべく国際的カンファレンスで報告することであった。 このうち、前者については、Elizabeth Pollman, Corporate Disobedienceの議論を参考に、システムとしての法(法的空間)があり、そのシステムに従うことは合理的であるという信念(フィクション)が比較不能な価値の迷路にある現代社会において統治の知恵として重要であるという点に根拠があるという発想(内的視点)と、当該法が社会的に合理的であるか否かという外的視点とを両方考慮して、①取締役が当該法令違反行為が社会の利益になると信じていたこと(「合理的な理由があること」まで要求すると厳格になってしまう)と②法令違反行為が(社会にも投資家にも)Openであることの2つの要件を基準に法令遵守義務違反でも免責されうるという発想で議論を進めた。 この成果については、中国清華大学の21st Century Commercial Law Forum のブリーフィング及び報告でRevisiting Shareholder Primacy vs Stakeholder Primacy in Japan: Discordance between Hard Law and Soft Lawと題する成果を示した。 これに対して、国際的なカンファレンスでの意見交換については、予定していた海外出張が新型コロナ感染症の関係で実現せず、前述した21st Century Commercial Law Forumはオンライン開催ということもあり、中国の研究者との意見交換にとどまり、より多くの国の研究者との意見交換がまだ済んでいない。このため、予定より進捗が遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
取締役の法令遵守義務違反の責任について、法が法である以上守らねばならないという法の内的視点と、当該法内容が社会的に合理的であるか否かという外的視点とを止揚するものとして、Elizabeth Pollman, Corporate Disobedienceの議論を参考に、①取締役が当該法令違反行為が社会の利益になると信じていたことと②法令違反行為が(社会にも投資家にも)Openであることの2つの要件を基準に法令遵守義務違反でも免責されうるという基準の方向性を提示した。だが、その背景として、研究計画当初に予定していた、「稼ぐ力」のためのコーポレート・ガバナンス論から、研究期間中に、ESGやSDGsの世界的な潮流の淵源の1つであるColin Mayer教授のCorporate Purposeの議論、Oliver Hart教授およびLuigi Zingales教授の株式市場価値ではなくShareholder Welfare最大化の議論といった世界のコーポレートガバナンスの議論のトレンドの変容が生じている。本研究成果は、このような世界のコーポレート・ガバナンスのトレンドの変化に耐えうる議論を提示したと信じているばかりか、むしろ、上記基準のもとで、現在、国家が立法・作成している法ルールを超えて「新たなルール」の提案をも可能とするものとして、より高く評価されるものであると考えている。だが、現状、「時代遅れとなっている規制を撤廃させる」という意味での規制緩和の場面を想定しており、新たに規制を追加することを提言する規制強化の場面にどこまで妥当するのか、議論が提示できていない。そのような反対方向のモメントもしっかり論証できることで本研究を一歩先に進めたい。 また、国際学会で本研究成果をプレゼンテーションしていきたい。
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