研究課題/領域番号 |
19K01379
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大場 浩之 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (10386534)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 物権債権峻別論 / 不動産公示制度 / 物権変動 / ドイツ法 / 仮登記 / ius ad rem / 物権法定主義 / 制限物権 / ローマ法 / 法制史 / 物権行為 / ドイツ法制史 / 登記 / 民法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、物権債権峻別論について、日本法とドイツ法を比較しながら批判的な考察を行うものである。日本の民法典は、ドイツの民法典にならって、物を対象とする権利である物権と、人の行為を対象とする権利である債権とを峻別している、とよくいわれる。 しかし、日本法においてもドイツ法においても、物権と債権のそれぞれの特徴を有する権利が多くみられる。このため、物権と債権の区別はあくまで相対的なものにすぎない。そこで、本研究においては、物権債権峻別論の歴史的生成過程、現代法における位置づけ、および、今後の解釈論や立法論への提言に焦点を絞りつつ、物権債権峻別論の再構成を目的とした批判的検討を行う。
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研究実績の概要 |
2022年度においては、ドイツ法上の制限物権について、おもに物権法定主義の観点から分析を行った。具体的な分析結果は以下のとおりである。 まず、ドイツ法は、BGB(ドイツ民法典)の成立により、物権債権峻別論を採用することを明確に標榜した。典型的な物権として、絶対性を有する所有権を物権法体系の中心にすえた上で、所有権以外の物権を制限物権として配置し、かつ、物権の種類を制限した。 物権法定主義に基づいて、BGBに定められている制限物権は、下記の通りである。すなわち、役権としてまとめられる地役権・制限的人役権・用益権、そして、先買権、物的負担、さらには、担保権としてまとめられる抵当権・土地債務・定期土地債務である。これらのうち用益権以外は、いずれも土地のみを目的物とする。そして、動産を目的物とすることのできる制限物権は、用益権と質権のみである。質権は、土地を対象とすることはできない。 これら制限物権にくわえて、特別法に定められている地上権と、物権とは明確に位置づけられてはいないけれどもBGBに規定されている期待権・処分制限とを、物権に類似した権利として、分析の対象とした。とりわけ、BGBにも特別法にも物権として定められていないにもかかわらず、解釈論あるいは実務において絶対性が認められている諸権利は、物権債権峻別論との緊張関係を生み出す契機となる 。 物権債権峻別論を徹底しようとするBGBの立法当初の態度と比較して、実際には今日、BGBにおいてもさまざまな物権類似の権利が散見される。しかも、それら諸権利は解釈論上も絶対性を有する権利として認められている。このため、ドイツ現行法においてはたして物権債権峻別論が徹底されていると評価することができるのか、疑問が残る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度も新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受けたため、ドイツに赴いて資料収集をしたり現地の研究者に対面でインタビューをすることはできなかった。このため、本研究はやや遅れており、研究期間の延長を再度申請した。現在の進捗状況は以下のとおりである。 まず、物権概念の独立性の観点から物権債権峻別論を検討するという目的にてらして、ローマ法をみてみると、所有権概念がかなりのレベルで明確に理解されていたことがわかる。さらに、所有権の移転方法についても、traditio(引渡し)を中心とした理論構成を通じて、売買契約と所有権移転との異同が意識されるとともに、実務慣行との関連性も重視しつつ、柔軟な理解がなされていたのである。 そして、ゲルマン法における物権概念を理解するためには、Gewere(ゲヴェーレ)の分析が不可欠である。Gewereは、物権そのものであり、かつ、物権の公示でもあった。その内容は、現代における所有権と同視することができる場合もあれば、制限物権にすぎない場合もあった。つまり、Gewereは、場面に応じて多義的な概念であった。 その後、ローマ法が継受されたことにより、物権債権峻別論の基礎がさらに固められ、物権法定主義の内容がさらに深められた。この点において、ローマ法の継受によってもたらされた法制史上の意義は大きい。 さらに、ゲルマン法がローマ法の継受によって一定の修正を施され、その際に重要な役割をはたしたのが、自然法であった。自然法における体系的思考と公示の重要性は、物権と債権の概念にも影響を与えた。というのは、権利概念の体系的整理がなされるにあたって、公示することのできる権利すべてに絶対性を有する道が開かれるからである。すなわち、物権か債権かといったかたちにとらわれることなく、公示することが可能かどうかが決定的な基準となった 。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、本研究の最終年度となる。幸にして新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もだいぶなくなってきたため、今年度中にドイツに赴き、資料収集と現地研究者へのインタビューを行うことができる運びとなった。その上で、具体的には、本研究の総仕上げとして、以下の観点に基づいて分析を行う予定である。 まず、物権の典型例である所有権は、物権の性質とされる直接性・絶対性・排他性を有するとされるが、あらゆる所有権にこれらがすべて認められるわけではない。物権債権峻別論におけるその判断基準は、はたして明確であろうか。物権と債権を分ける判断基準を批判的に分析する作業が不可欠である。 たとえば、物権であるにもかかわらず相対性しかもたない権利として、対抗力を有しない物権がある。具体例として、登記を備えていない不動産所有権や、引渡しを受けていない動産所有権をあげることができる。また、絶対性を有する債権として、ius ad remをあげることができる。すなわち、仮登記された請求権、債権者代位権・債権者取消権が行使されたケース、対抗要件を備えた賃借権、および、第三者による債権侵害のケースである。 これらそれぞれのケースにおいて、物権と債権の区別は明確な基準に基づいて判断されているのだろうか。あるいは、物権であるにもかかわらずその性質を制限し、債権であるにもかかわらずその効果を拡張する際の、それぞれの判断基準はなにか。はたして、そこに統一的基準を析出することはできるのだろうか。 物権は直接性をもち、債権は間接性しか有しない、ということは明らかであるけれども、物権であるからといって排他性や絶対性を有するとは限らないし、債権であるからといって排他性や絶対性を有しないとは限らない。つまり、物権と債権を区別することのできる基準は、物権が対物権であること、債権が対人権であること、のみなのではないか。
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