研究課題/領域番号 |
19K01420
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
池田 秀敏 信州大学, 経法学部, 特任教授 (10422700)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2020年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2019年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | デジタル遺品 / デジタル遺産 / インターネット / サービス規約 / 感情的価値の相続 / SNS |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、いわゆる「デジタル遺品」、すなわち死亡した者が遺した電子メールや文書、写真等の電子ファイルなどを対象とする研究である。アメリカにおいては、遺言執行者等を経由した相続人へのデータ提供を認めた立法例“Fiduciary Act to Digital Assets and Digital Accounts”(2014年) がある。本研究では、その規律や法案の立案過程における議論を踏まえ、わが国のインターネット事業者等における実務の現状に対する法的評価を行う。そのうえで、わが国において、いかなる手法によれば「デジタル遺品」は相続人への承継がなされるのか、その可能性と限界を明らかにする。
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研究実績の概要 |
従来通り、デジタル遺品を巡る生前対策やネット関連事業者におけるサービス規約を中心とした実務の動向を調査した。 近年ブームとなっていたメタバース上のコンテンツ取引に対する取り扱いの発展を期待していたところであるが、2022年度はその経済的な価値の下落とともに、有名企業による撤退もしくはその噂が話題となるなど、失速感が強まってしまった。一般的な規約策定に向けたガイドラインが提言されるなどの活動がみられるものの、その関心の中心にあるのはユーザーの行為規範であり、誹謗中傷行為や知的財産権侵害といった行為を規制するところに議論が集中している。事業者における規定においても、ユーザーの知的財産権の帰属が整理されている程度であり、財産としての保全や相続承継を規律する議論の方向性はまだ抽象的なものに留まっている。また、メタバース上のコンテンツまたはアカウントが活発に取引されているオンラインゲームのような事例でも、ゲームメーカー側がアカウントの譲渡を禁止しているなど、従前通りの保守的な対応がなされていることもわかってきた。現在のことろ、相続承継の可能性という観点からみると、サービス規約に沿った承継が困難なままであることがわかった。 そのほか、アメリカの統一州法委員会が起草した"REVISED UNIFORM FIDUCIARY ACCESS TO DIGITAL ASSETS ACT "(RUFADAA)については、近年発表された論考などを参考に、条文の和訳について再検討するとともに、わが国におけるわが国の物権法、相続法の下で、同法における開示制度が機能し得る可能性などを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
デジタル遺品に対する現行法の適用関係やRUFADAAを巡る議論が明らかになったものの、その後の発展的な研究が遅れている状況である。 経済的な価値を有するデジタル遺品については、ステーブルコインの瞬間的な大暴落やメタバースのブーム失速現象のように、財産的な価値の不安定さが露呈しつつも、保有者を保護するための規約等の発展がみられなかった。そのため、わが国の有体物所有権を中核とする物権法や知的財産法を前提とした場合、個別の事業者による規律では相続承継を実現するのは困難という結論にたどり着きつつある。デジタル遺品の内容が多様化しつつも、研究の素材となるサービス規約に大きな変化がみられないこともあり、研究が予想したほど進展しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、デジタルデータの「引き渡し」請求を巡る判例の研究を導入したい。インヴォイス制度が10月に始まるところ、インヴォイスをデジタルデータで保存することを義務づける電子帳簿保存法の適用とあいまって、経理部門における請求書等のデジタルデータの取得・移転・保存が必須となってくる。課税取引のある当事者間では、インヴォイスとなるデジタルデータの交付が必要であり、交付がなされなければ「引き渡し」請求が問題となる。これは相続に伴う被相続人あるいは事業者から相続人へのデータ移転と類似性をもつ論点でもあり、判例における規範を明らかにしておく意義があると考えられる。 また、引き続き実務の動向を調査し、RUFADAAを巡る議論を追いながら、デジタル遺品の相続承継の可能性を検討したい。
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