研究課題
基盤研究(C)
〈環境法の基本原則〉のひとつである予防原則は、科学的不確実性を伴うリスクの法的規律を許容する考え方である。同原則をめぐっては、その下にあっても「純粋に仮定的なリスク」は規律対象から除かれると説かれるが、この点の理論的解明は現段階では十分とはいいがたい。本研究は、アメリカ環境法においてみられる、科学的不確実性を伴うリスクの管理を目的とした行政決定の根拠からの〈「憶測」の排除〉という考え方に着目する。関連する裁判例と学説との整理・分析を通じて、そこでいわれる「憶測」とは何か、また「憶測」の排除はいかなる根拠に基づきなされるかなどを明らかにし、予防原則をめぐる上記の問いに接近する糸口を得る。
環境法の基本原則の1つである予防原則は、科学的不確実性を伴うリスクを法的に規律することを許容/要求する考えである。だがこれは、「純粋に仮定的なリスク」ないし「憶測」に基づくリスクまでをも法的規律の対象とするものではない。では、予防原則の適用が認められない「憶測」に基づくリスクとは何か。アメリカ環境法の裁判例の分析によれば、これには(1)根拠となる科学的な知見が全く存在しないリスクと、(2)リスク管理措置を根拠づける科学的根拠または法規範の解釈によってそのように判断されるリスクとがあると解される。ここでは、連邦行政手続法の専断的・恣意的基準に基づき「憶測」に基づいた行政決定が違法とされている。
予防原則は、科学的にまだ解明されていない(より早期の)段階において、人の健康リスクや生態リスクを管理することを許容ないし要求する考えであり、わが国では、環境基本計画や生物多様性基本法などにおいて採用される、環境政策上の重要な原則の1つに位置づけられる。だが、それがいかなる場合には適用されるべきでないのかについては、従来の議論では十分に明らかにされておらず、このことが同原則に対する過度の警戒を招いているものと思われる。本研究は、アメリカ環境法を参照して、予防原則が適用されるべきではない場合とはいかなる状況をいうのかにつき検討するにあたっての出発点を提供する点で、環境法・環境政策上の意義を有する。
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バイオインダストリー
巻: 37(9) ページ: 69-79