研究課題/領域番号 |
19K01441
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿毛 利枝子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10362807)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 司法政治 / 比較政治学 / 行政訴訟 / 司法改革 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、わが国の行政訴訟制度の特徴を他の先進各国との比較において位置づけた上で、その形成要因を政治学的に分析することである。従来、わが国の行政訴訟制度は原告適格の要件の厳しさや出訴期間の短さなどから、他の先進諸国と比べると原告に不利であるとされてきた。行政が市民による異議申し立てを制限しようとするのは当然であるが、その制限の仕方や程度には国によって差がある。ではわが国の行政訴訟制度はどのような点で、どこまで制限的なのか。そのような制度が成立した政治的な要因は何か。また2000年代以降、行政訴訟をむしろ促進する改革が続いているのはなぜか。本研究は、これらの問いに答えようとするものである。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、わが国の行政訴訟制度の特徴を他の先進各国との比較において位置づけた上で、その形成要因を政治学的に分析することである。従来、わが国の行政訴訟制度は原告適格の要件の厳しさや、出訴期間の短さなどから、他の先進諸国として原告にとって不利であるといわれており、このため他の先進諸国と比べて行政訴訟の件数も少なく、また原告の勝訴率も低いといわれてきた。しかし2000年代前半、一連の司法改革の一環として行政事件訴訟法が改正(2004年)され、原告適格が拡大され、救済範囲が拡大されるとともに、出訴期間も延長され、また2014年には行政不服審査法が改正されるなど、訴訟の提起をしやすくする改正が続いている。 行政が自らに対する異議申し立てを制限しようとするのは当然であるが、その制限の仕方や程度には国によって差異がある。わが国の行政訴訟制度はどのよう な点において、どこまで制限的なのか。そのような制度が成立した政治的な要因は何か。本研究は、これらの問いに対して比較政治学的な分析を行い、仮説を提示しようとするものである。 研究3年目の2022年度は、大きく三つの作業を行った。第一に、前年度に引き続き、わが国を含め先進諸国の行政訴訟制度の制度設計やその変化を決定づけた要因を、国際比較の観点から分析する作業を行った。他の先進諸国の行政訴訟制度も見据えつつ、とりわけ台湾と韓国の戦後の行政訴訟制度について文献調査を行った。歴史的な経緯から、戦後当初の両国の制度は、日本の制度と似ている点が多いため、比較分析に格好の事例を提供する。第二に、前年度に引き続き、わが国の不服審査制度について、とりわけ2016年の大改正を中心に分析を行った。第三に、行政訴訟改革の重要性を論じる上では、改革が及ぼした効果についても実証的に検証する必要があるため、前年度に引き続き、判例のデータベースの構築と計量分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題においては、わが国の行政訴訟制度の成立過程を、国際比較の観点から分析する予定であった。しかし2020年度以降、新型コロナウイルスの拡大により、海外の行政訴訟制度をめぐる資料収集の作業が予定よりも難航した。そこで、状況の中で行うことのできる作業を可能な限り進めつつ、二つの作業を行った。 第一に、これまでに行った行政訴訟制度改革と住民訴訟制度改革の事例研究に加え、2021年度より、新たに行政不服制度の改革の事例研究を進め、これまでの二事例と比較分析を行うことで、行政訴訟制度も含めた行政救済制度を形成する政治的な要因のより精緻な解明を試みた。2014年に実現した行政不服制度の改革は、申立審査における第三者の関与を拡大するなど、申立を提起しやすくしつつ、行政訴訟における不服申立前置条項も多く廃止しており、行政訴訟を提起しやすくする側面ももつ。この改革は、同じく行政訴訟の促進を目指した2004年の行政訴訟制度改革の延長線上にありつつ、訴訟を制限する方向の2002年住民訴訟改革とは逆の方向の改革であり、行政訴訟制度を規定する政治的な要因を明らかにする上で格好のコントラストを提供する。2022年度は前年度の作業を受け、不服審査制度の改革が具体的にどのような影響をもたらしたのか、不服審査請求に対する都道府県レベルの結果を計量的に分析し、成果について学会報告を行った。 第二に、行政訴訟改革の重要性を論じる上では、改革が及ぼした効果についても実証的に検証する必要がある。単純に数字の上だけでみれば2004年度の行政訴訟改革の後、訴訟提起件数は増加したように見えるが、実際に改革が訴訟の増加をもたらしたといえるのかについては、より精緻な計量分析を用いた検証が必要である。2022年度は前年度に引き続き、行政訴訟制度改革前後の訴訟動向についてデータベースの構築を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、大きく四つの作業を予定する。第一に、前年度開始したわが国の行政訴訟制度と台湾と韓国との比較分析を本格化させる予定である。様々な点において異なる三か国の制度を比較の視座から位置づけるとともに、その規定要因を探っていきたい。この作業は文献調査が中心となる見込みであるが、行政法や海外の司法政治の専門家の助言も仰ぎつつ、また新型コロナウイルスの状況が許すようであれば、短期間の海外調査も行いながら進めることとしたい。仮説としては、①政党間のダイナミクスを重視する仮説(「政治的アプローチ」)、②官僚の役割を重視する仮説(「行政的アプローチ」)、③政策専門家の役割を重視する仮説(「政策専門家アプローチ」)、の3つの仮説を検討したが、これまで日本国内の比較事例分析を行う中で、新たな仮説として、④経済界の意向を重視する仮説が浮上しており、これらの仮説が国際比較の文脈において、どこまで適用可能か、検証を進める。 第二に、前年度に着手した行政不服審査制度のインパクトをめぐる研究について、引き続き学会などにおいて発表し、フィードバックを得ながら、研究を修正していく予定である。 第三に、行政訴訟制度改革や不服審査制度の改革が実際の訴訟や不服申し立ての件数や認容率に及ぼした影響についての実証研究を継続する。2021年度より行政訴訟判例のデータベースの構築を開始し、既に一部計量分析も開始しているが、引き続き国内外の学会などで研究を報告し、フィードバックを得つつ、修正を重ねていきたい。 第四に、2000年代のわが国の行政訴訟改革は訴訟を提起しやすくすることを一つの主眼としていたが、改革後、訴訟は大きく増えたとはいえない。訴訟はなぜ増えなかったのか。改革当時の政策当事者の認識と、実際の世論の認識はどのような点に相違があったのかを探るため、今年度秋までに世論調査を行い、分析を行う予定である。
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