研究課題/領域番号 |
19K01466
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
中村 正志 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター, 主任調査研究員 (90450494)
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研究分担者 |
熊谷 聡 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センター 経済地理研究グループ, 研究グループ長 (20450504)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | マレーシア / 民主化 / 競争的権威主義 / 政治経済学 / 中所得国の罠 |
研究開始時の研究の概要 |
マレーシアでは1969年総選挙の直後に暴動が発生し、以降、権威主義体制が続いていたが、2018年5月の総選挙で初めて政権交代が生じた。競争的権威主義からの「選挙による民主化」は、なぜ、いかにして生じたのか。権威主義体制下の選挙は民主化の阻害要因にも促進要因にもなりうるもので、どちらに転ぶかを決める条件は解明されていない。選挙による権威主義化と民主化の双方を経験したマレーシアは、この問題を考えるうえで格好の事例である。本研究では、選挙を介した市民と政党との相互作用の長期的な展開と、その背景をなす社会経済環境の漸進的変化とを総合的に把握することを通じて、マレーシアの事例分析から理論的含意を導く。
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研究実績の概要 |
本研究事業の成果として、研究代表者の中村正志と研究分担者の熊谷聡との共著の書籍『マレーシアに学ぶ発展戦略――「中所得国の罠」を克服するヒント』を2023年10月に作品社より刊行した。幸いなことに本書は高い評価を得て、第40回大平正芳記念賞の受賞作品に選出された。
本書の刊行に至るまでには紆余曲折があった。そもそも本研究事業は、2018年5月にマレーシアで生じた政権交代を受けて、同国を競争的権威主義から民主化した事例と位置づけ、そのプロセスを政治経済学的観点から分析するものとしてスタートした。ところが2020年2月に政変が生じ、権威主義体制下の政権党「統一マレー人国民組織」(UMNO)が連立与党入りを果たすなど、マレーシアが民主化したという研究計画の前提を揺るがす事態が生じてしまった。このような情勢変化を受けて、当初は本研究におけるサブ・プロジェクトの位置づけであった「経済に対する政治の影響を分析する」という作業を優先的に行うこととなった。その成果をまとめたものが前掲書である。
マレーシアは四半世紀にわたり上位中所得国に留まっており、しばしば「中所得国の罠」に嵌まっている国の典型例のようにいわれる。しかしマレーシア経済は停滞しているわけではなく、むしろ長期にわたり安定成長を続け、高所得国入りが目前に迫っている。本書ではマレーシアの経済発展の軌跡を振り返り、政治と経済の両面からその成長の要因を分析した。政治面でとくに重要なのは、(1)競争性の高い選挙、(2)幅広い支持層をもつ与党連合、の2点である。マレーシアでは競争性の高い選挙が定期的に実施され、その結果有権者の選考が政策に反映されてきた。また、生産性向上に必要な制度の拡充を主導する「高度化のための連合」として与党連合が一定程度機能してきた。本書では、これらについて経済・社会政策の長期的な展開を踏まえて詳述している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年2月以降、マレーシアの政治情勢がめまぐるしく変化するなかで、この変化をフォローし分析することが本研究プロジェクトの重要課題の一つになっている。この課題については、なるべくタイムリーにその時点での研究成果を発表するのが肝要であり、所属機関のウェブマガジン等を通じてこれを継続的に行ってきた。2022年11月に発足したアンワル政権は年明けから活動を本格化させており、2023年度はその動きをフォローした。長らく野党側の顔役として活動し「改革派」として知られるアンワルであったが、首相就任後は権力政治に邁進している。ムヒディン元首相ら下野した政治家を汚職容疑で逮捕・起訴する一方、2018年の政権交代後に汚職容疑で起訴されたアフマド・ザヒド・ハミディ副首相(UMNO総裁)については不可解なプロセスを経て2023年9月に起訴取り下げとなった。こうした動きは「選択的訴追」と呼ばれ批判されており、マレーシアが本当に民主化したといえるのか疑問符がつく状況はまだ解消されていない。
こうした状況をうけて、本研究事業では2020年度以降、マレーシアにおける政治的連携関係と社会経済的条件との相互作用を総合的に検討するという方針で作業を進めてきた。その成果をまとめたものが、研究代表者の中村正志と研究分担者の熊谷聡との共著の書籍『マレーシアに学ぶ発展戦略――「中所得国の罠」を克服するヒント』(作品社、2023年11月刊行)である。マレーシアの政治情勢が流動化するなかで、本研究事業提案時のテーマをそのまま追求するのはむずかしくなったものの、早めに軌道修正を図ったことにより成果をまとめて刊行できたため、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進んでいる」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究事業の成果のひとつとして2023年11月に作品社から刊行した『マレーシアに学ぶ発展戦略――「中所得国の罠」を克服するヒント』(研究代表者の中村正志と研究分担者の熊谷聡との共著)は幸いなことに好評を博している。そこで英語版の出版をめざし、2024年度は英訳の作業を行う予定である。
また、研究代表者の中村は、前掲書の関心を広げるかたちでマレーシアとタイを比較し、政治体制が経済成長に与える影響とそのメカニズムに関する研究を行っている。その成果が2024年度中に刊行される見込みである。
これらとは別に、「結局マレーシアは民主化したのか」という問題を明らかにするための作業も継続する予定である。2018年の政権交代以降のマレーシアの政治体制には、競争的権威主義と見なされていたそれ以前の政治体制と同様の問題ある制度・慣行が存続している一方、議会活性化の制度改革など、民主化のための政治改革が進展した分野もある。本研究事業では、2018年以降の政治制度・慣行とそれ以前とを比較する作業を行ってきたが、今後もそれを継続して成果をまとめる予定である。
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