研究課題/領域番号 |
19K01727
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07050:公共経済および労働経済関連
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
菅原 宏太 京都産業大学, 経済学部, 教授 (90367946)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 費用最小化行動 / 転位効果 / 基準財政需要 / 地域間参照行動 / 確率フロンティア分析 / ソフトな予算制約 / 地方交付税 / 因果関係分析 / 漸増主義的行動 / 転移効果 / 財政競争 / 漸増主義 / 構造方程式推定 |
研究開始時の研究の概要 |
1993年の「地方分権の推進に関する決議」を皮切りに,日本での地方分権改革は20年以上続けられてきた。地方分権化による地方政府の裁量性の向上は,一方で住民ニーズに合った行政サービス供給を可能にすることで社会厚生を高めると考えられてきた。しかしながら他方で,国-地方という垂直関係,地方間という水平関係において,裁量を得た地方政府が戦略的な行動を取ることによって,地方分権化がかえって社会厚生を低めるといった弊害も幾多の理論的研究によって指摘されてきた。 本研究は,既存研究では用いられていない分析アプローチを取り入れ,新たな視点から日本の地方自治体は戦略的な行動を取っているのかどうかを検証する。
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研究実績の概要 |
本年度の研究業績は次のとおりである。 1.井田知也・小野宏・菅原宏太・倉本宜史(2023;「10.研究発表」に記載)では、都市スプロール化指標および都市スポンジ化指標を含めた水道事業の支出関数を推定することで、スプロール化やスポンジ化が深刻な団体において水道事業の供給費用が高くなっていること、更に水道事業の供給費用のスプロール化弾力性は先行研究で計測された地方公共サービスの供給費用総計のそれよりも大きいことを明らかにした。 2.塩津ゆりか・菅原宏太・柳原光芳(2022;「10.研究発表」に記載)では、公営企業の民営化理論に基づいた費用関数の確率フロンティア分析より、「公営度」の代理指標である熟練技術職員割合が高い事業者においてより強い費用非効率性が見られることを明らかにした。また、民間委託の指標として用いた第三者委託ダミー変数と給水工事委託割合では、前者についてのみ費用非効率性が見られ、民間委託方式の違いによって非効率性が異なることを確認した。 3.日本地方財政学会第30回大会において、「公教育をめぐる政府間の共有責任と戦略的相互依存」(田中宏樹・篠崎剛)に対する討論を行った。政治的な垂直的外部性(政府階層間の共有責任)と水平的外部性(ヤードスティック競争)の大小関係が、地方公共サービス(少人数学級の推進)に与える影響について意見交換を行った。 4.地方財政計画歳出総額の転位効果の可能性と、基準財政需要額による一般財源充当対象経常経費のプッシュアップ効果の可能性について、京都産業大学経済学部地方財政研究セミナー「中央政府および地方自治体の相互連関を通じた政策決定」(2022/11/12)で研究報告し、地方財政計画の策定プロセスにおける歳出額の積算および概算の方法と、国(総務省)による国の政策方針の伝達とそれに対する地方自治体の反応と予算決定について、研究会参加者と意見交換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020・2021年度に行ってきた日本の地方交付税制度のインセンティブ問題に関する実証分析は、雑誌投稿時の査読者との議論を通じて、分析で用いた変数間の因果関係の制度的解釈と、その根拠として援用した理論モデルとの整合性に根本的な問題があるとの認識に至り、本年度は理論モデルの再構築から進めた。また、中井(2007)の対比係数について、その構成要素の年次的な相関関係を精査した結果、特に交付税比率の高い県において、基準財政需要額が一般財源充当対象経常経費をプッシュアップすることで当該団体の経常収支比率を悪化させている可能性が考えられた。これについて、研究会参加者との意見交換により、基準財政需要額も独立変数でない可能性があり、各県の地域変数が基準財政需要額と一般財源充当対象経常経費に与える影響をコントロールした上で分析する必要が生じた。都道府県の基準財政需要額算定は、地方財政計画の歳出総額の決定に影響されることが知られているが、試算的な分析からは、不況及びその後の景気回復過程において歳出総額に転位効果の可能性が疑われた。 中央政府の財政移転に対する地方自治体の反応と戦略的行動を把握するために具体事例研究として進めてきた水道事業研究(井田ほか(2023)や塩津ほか(2022))では、試算分析段階において、都市スプロール化や民間委託の形態が水道事業費用を悪化させるプロセスにおいて、財政移転の影響が疑われるケースが見つかった。ただし、それは地方交付税や一般会計繰入金ではなく、国庫支出金と関連した長期前受金戻入であったため、研究発表には含められていない。 本来であれば、これらを検証するために、地方自治体等へのインタビュー調査を通じて定性的に分析することが必要である。しかしながら、新型コロナウイルス感染症対策での多忙により行政側が対応困難であったため、本年度には行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度から取り組んでいる地方交付税制度のインセンティブ問題に関する実証分析については、第1に、今まで用いていた中央政府と地方自治体の手番関係のあり方に焦点を当てた理論モデルではなく、一般補助金による地域間再分配政策の効果を見るモデルに変更することで、実証結果の制度的解釈と理論モデルとの整合性を高める。第2に、実証分析に用いる地方自治体の政策変数として歳出総額だけでなく、裁量的決定の余地の有無に応じた個別費目を分析対象に含める。これらの比較を通じて、歳出と地方交付税交付額との因果関係および漸増主義的行動を検証する。第3に、中井(2007)の対比係数を用いた経常収支比率悪化に関する分析において、人口と1人あたり県民所得額の変化が、一般財源充当対象経常経費および基準財政需要額の変化に与える影響を分析する。これらの分析結果に加えて、総務省および都道府県の関連部署へのインタビュー調査を通じて、国が策定する地方財政計画と地方自治体の予算編成プロセスとの連関および地方自治体内での予算配分決定の実態ついての定性的な分析に取り組む。 水道事業を対象とした具体事例研究については、次の2つの拡張を考えている。第1に、民間活用の取組みに対して、国庫支出金も含めた複数ルートでの財源措置の影響を含めた理論モデルの適用を検討する。これは、公営企業会計への財源措置を包括的に捉え、それらが経費削減インセンティブの喪失と民間委託の進捗状況に影響を与えている可能性を検証するためである。第2に、スプロール化とスポンジ化の状況を含めた費用関数の推定による水道事業の規模の経済性の検証である。こうした都市構造を考慮することで、平成の市町村合併による水道事業統合の効果や、現在進められている広域水道事業団化において望ましい統合のあり方を検討する。併せて、国からの財源措置が事業統合に与えた影響についても検証する。
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