研究課題/領域番号 |
19K01771
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07060:金融およびファイナンス関連
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研究機関 | 九州国際大学 |
研究代表者 |
西山 茂 九州国際大学, 現代ビジネス学部, 教授 (20289565)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 信託 / 受動信託 / 能動信託 / プリンシパル=エージェント関係 / 信認関係 / 信託法 / 財産管理制度 / 金融制度 |
研究開始時の研究の概要 |
信託とは受託者(一般に信託銀行や信託会社)が委託者から財産を受託し、受益者のために管理する制度です。これまで信託は専ら法的な観点から考察されてきましたが、財産管理という本質を一層深く解明するうえでも、企業の資金調達、資産流動化、年金資産管理、証券投資ファンドといったその現代的な役割を捉えるうえでも、経済理論・金融理論に基づく考察が不可欠です。経済理論によれば受託者はプリンシパルである受益者の代わりに財産を管理するエージェントと理解されます。本研究課題は両者の関係において財産管理に関する意思決定を誰が担い、財産の運用損益がいかに配分されるかという点に即して、信託の仕組みを経済学的に分析します。
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研究実績の概要 |
信託とは受託者(日本では一般に信託銀行や信託会社などの機関受託者)が設定者(委託者)から財産を受託し、受益者の利益のために管理する制度です。この研究課題の主眼は信託をプリンシパル=エージェント関係(当人と代理人の関係)として捉え、その仕組みと役割を経済学的に分析することにあります。この課題は基礎的な研究(2か年)と応用的な研究(3か年)の二段階で構想され、2023年度は応用的な研究の第三年度であるとともに期間の最終年度に当たり、研究課題のまとめと今後の研究の展開を念頭に置きつつ、これまでの成果を踏まえてプリンシパル=エージェント関係としての信託の全体像を捉える考察を進めています。 まず受託者の信認義務に即した制度的な考察として、この義務が厳格で安定的な法原則でありながら、時間を通して変化する解釈に従う柔軟性を備え、一般的な財産管理に適用される条件の変化やより幅広い社会経済的環境の推移に対応して適切な信託財産管理を実現できる意義を持つことを解明しています。実際、ポートフォリオ理論の発展に基づいて信認義務の基準も更新され、新たな管理原則が立てられています。これは信認義務の高い動態性であり、本年度は最も基本的な信認義務である忠実義務と注意義務に即してその検討を進めました。こうした動態性は信託制度に内在するその最適化の働きであると捉えることができます。 さらにこうした成果を総合する理論的な考察として、受益者への運用益の配当給付を伴う信託財産の蓄積を動学モデルによって定式化し、信託の制度的な独自性である実績配当主義が有する作用を分析しました。ここでは最適な配当政策が信託財産の運用益および信託期間との関係で規定されることを把握しています。配当政策と信託期間は信託行為によって定められることから、信託の制度的な運営と信託財産の蓄積との関連の一端がこの成果によって示されています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全般的な評価として当初の計画に即して順調に研究を進めることができているといえる。この研究課題は信託の基本構造を捉える基礎的な研究(2か年)とプリンシパル=エージェント理論を適用して信託と信託法の経済分析を進める応用的な研究(3か年)の二段階で構想されている。2023年度はこの構想に従って応用的な研究を進めるとともに、研究課題の最終年度として総括的な考察に着手した。応用的な研究は、具体的に①信託法の実体と効果、②他の財産管理制度との比較、③経済における信託の機能、④プリンシパル=エージェント関係としての信託の理論的な一般化、の四つの論点に重点を置いている。 2023年度は前年度までの成果を踏まえて③と④を中心に考察を進め、他の論点を総合する成果を得ることができた。具体的には、受益権と実績配当主義の分析により、信託目的と信託行為の意義を踏まえつつ、信託財産の蓄積に対する信託法の効果の一端を捉えることが前年度までにできているので、その際に示された信託目的・信託行為・受託者の信認義務の三者を統合する分析を受けて、信託制度に内在する最適化の機能を信認義務の動態性に即して捉え直すとともに、さらに受益者への運用益の配当給付を伴う信託財産の蓄積を動学モデルによって定式化し、信託の制度的な独自性である実績配当主義が持つ作用を分析した。これにより信託の制度的な運営と信託財産の蓄積との関連についてその一端を把握できた。 プリンシパル=エージェント関係としての信託について、本年度は以上のように制度的な独自性を一体化した考察を進め、信託に関する理論的な考察をさらに進展するとともに、今後の研究に向けた考察の基礎が得られた。ただし本年度は新型コロナウイルス感染症の影響とロシア・ウクライナ紛争の間接的影響により、研究成果の公表が予定通り進まなかったため、評価は「(2)概ね順調に進展」とした。
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今後の研究の推進方策 |
この研究課題は2023年度が最終年度であるので、本年度の成果に引き続いて構想されている研究上の論点について簡潔に言及しておこう。 これまで管理上の意思決定の主体が異なる信託財産の蓄積を二部門モデルによって定式化できているので、本年度の研究成果である受益者への配当給付を伴う信託財産の蓄積をこれに一体化し、プリンシパル=エージェント関係としての信託の全体像を信託財産の蓄積に即して明らかにしたい。特に信託における意思決定の帰属を規定する信託行為の機能に注目し、これをモデルに組み込むことによって信託の制度的な独自性とプリンシパル=エージェント関係としての独自性を統合した把握と分析が進められるであろう。 この考察に引き続いて、プリンシパル=エージェント関係を実体とする他の財産管理制度と信託との比較分析が想定されている。動学モデルによるプリンシパル=エージェント関係としての信託のトータルな把握を踏まえ、委任・代理制度、信託制度、法人企業制度の三つの財産管理制度について、それぞれの制度のもとでの貨幣資本の蓄積に即して比較分析を進めたい。とりわけ法人企業制度との比較によって財産管理機能としての信託の効率性を理論的に評価することができよう。その際の具体的な論点として投資信託、年金信託、資産流動化信託、土地信託のように、法人企業制度に対する強い優位性を持つ商事信託の分析に重点を置く。とりわけこれらの信託で受動信託が積極的に用いられている点に着目したい。これらの信託における意思決定の帰属とその効果を捉えつつ、信託が有する経済的・金融的意義を一般的に明らかにする。 以上を踏まえ、財産管理制度としての代理・委任制度、信託、法人制度を包括する一般的なプリンシパル=エージェント理論の可能性を探るとともに、プリンシパル=エージェント関係としての信託のさらなる理論的な一般化について検討する。
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