研究課題/領域番号 |
19K01937
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07090:商学関連
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
谷地 弘安 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (10293169)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2020年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2019年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 要求抽出 / 要求獲得 / 要求工学 / システム開発 / マーケティングリサーチ / 産業財マーケティング / ソフトウェア工学 / マーケティング / 情報システム |
研究開始時の研究の概要 |
情報システム開発の超上流工程では,「要求抽出」という重要な工程がある。しかし,この工程での欠陥が原因で,後続の開発工程で手戻りや遅延,担当者間の紛争,ひいては企業間の紛争が発生する。 一方,研究面では,要求抽出に関して,要求工学の分野ではかねてから技法開発が行われてきている。しかし,そこには技法間の相互関係,適切な技法を選定するための要因,選定方法の整理が十分になされておらず,またそれらは実際の開発現場で利活用されているわけではない。 本研究はこれら問題を裏返し,実務で利活用ができうる要求抽出技法選定メカニズムを実証的に明らかにしようと試みるものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、システム開発におけるクライアント企業に注目することで、そこでの要求抽出・要件定義能力の実態を明らかにし、そのあり方を検討するものである。これまでの研究は、システムの売り手にあたるSIerのようなシステム開発企業に焦点を合わせ、要求抽出・要件定義能力のあり方を検討してきた。その際、クライアント企業の内部組織における実態をいかに掌握し、要求抽出を遺漏なく行い、ひいては要件定義書に落とし込むか、そのための方法やノウハウが検討されてきた。本プロジェクトでも、このような視点からシステム開発企業の要求抽出技法を検討対象とし、数ある抽出技法が目下、並立・並列的に提示されているに留まり、どの技法がどのような状況で有効になるのか、相対的な優位性条件と、コンティンジェンシー条件の整理を試みてきた。 本年度はSIer、およびそのクライアントの両者に対するヒアリング調査を実施した。その結果、2つのことがわかった。1つに、我々がヒアリングした企業では、要求抽出の方法としてはヒアリングとそれに類するコミュニケーションベースの抽出技法が採用されており、これまでの研究で挙げられてきたほかの技法が使われていることはなかった。2つめに、クライアントに対する調査を通じて明らかになったのが、クライアント側の要求抽出・要件定義の能力に組織間で格差があることであった。 2つめの発見は、本研究の方向性に対して大きな影響を及ぼすものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでの研究は、システムの売り手にあたるSIerのようなシステム開発企業に焦点を合わせ、要求抽出・要件定義能力のあり方を検討してきた。本研究もその視点で検討を進めてきた。一方で、システム開発企業だけではなく、顧客であるクライアント企業(システム発注企業)についても定性的調査を実施したところ、システムの開発プロセス品質(手戻りが少ないこと、納期が遵守されること、オーバーコスト発生が抑制されていること)、完成品質(顧客から見たシステムの品質満足度が高いこと)というものが、システム開発企業の要求・要件定義能力だけに規定されるのではなく、クライアント企業の方であらかじめ要求抽出・要件定義が自発的になされているか、およびその品質によっても規定される側面があることが発見された。 我々はこの点を重要視した。すなわち、「商品の品質は、顧客サイドのニーズ掌握力に規定される」という作業仮説が生まれてきた。従来の研究では、システムに対する要求・要件を掌握することが、クライアント(顧客)自身も難しいことも前提とされていた。ゆえに、SIerの要求抽出能力が重要となり、システムの完成品質もSIerの能力に規定されるのが前提であった。 しかし、クライアントにおける要求抽出、ひいては要件定義能力に焦点を合わせることは、従来のシステム工学における要求抽出の研究だけではなく、マーケティング研究でもなかったものであることから、この点にフォーカスを合わせた調査が引き続き実施されるべきであると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
以降、継続して要求抽出に関わるステークホルダへのヒアリングを行う。その際、この領域では顧客となる「クライアント企業」について、粒度を細かくする必要があると認識している。クライアント企業には①当該システムを実際に利用する部門(ユーザー部門)、②当該システムの開発にあって、発注先となるシステム開発企業とのやりとりを行う部門(情報システム部門)がある。この2つを峻別しておく必要がある。ただし、①と②が同じ部門になっているケースもある。これを③とすると、これまでの研究では③のケースで要求抽出、要件定義からシステム実開発をめぐる時間的効率性、品質が高い傾向を確認したことになる。今後はここに注目する。 そのうえで、本研究は比較の条件を可能な限り整備することで、要因と結果との関係に光をあてていきたい。まず、クライアント企業として、1つの企業体に調査対象を固定する。そのうえで、同じ企業における、さらには同じ部門における複数の情報システム開発事案を取り上げる。複数事案には、①システム開発企業が主導で要求抽出を進めた事案、②クライアント企業の情報システム部門が主導で要求抽出を進めた事案、③クライアント企業におけるシステムユーザー(部門)が主導で要求抽出を進めた事案の3つを含めることとする。これら3つの事案それぞれでの要求抽出プロセス、その後の要件定義から開発、ひいてはシステムローンチに至るプロセスおよび成果に対する評価の有り様を調べ、比較する。また、可能であればローンチ以降のトラブルおよび仕様変更の発生度合いについても調査する。 これまでの研究は、①を対象に、システム開発企業の要求抽出能力を問うてきた。また、これまでの研究では②における要求抽出能力も取り沙汰されてきた。一方で、今回注目するのは③であり、クライアント企業における「ユーザー」の要求抽出能力を問うていくことにする。
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