研究課題/領域番号 |
19K02018
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 国士舘大学 (2021-2023) 秀明大学 (2019-2020) |
研究代表者 |
山下 修平 国士舘大学, 経営学部, 教授 (80635920)
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研究分担者 |
荒井 弘毅 共立女子大学, ビジネス学部, 教授 (30362594)
本間 正人 秀明大学, 総合経営学部, 准教授 (10895006)
山口 直樹 秀明大学, 総合経営学部, 講師 (70805423)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2019年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 会計史 / 経理統制 / 王子製紙 / 減価償却 / 勘定科目 / 計理士 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、王子製紙工場決算報告書と、王子製紙の傍系会社である在外製紙会社の決算報告書との比較分析により、会計実務の植民地への展開を明らかにする。戦時期日本の経理統制下における会計実務が、どのように植民地に展開したのかを検討する。会計実務の中でも、勘定科目の標準化の過程を明らかにすること、減価償却の運用状況を明らかにすることの2点に焦点を当てて分析を行う。会計実務の植民地下における会社への展開を明らかにすることにより、植民地経営に対する会計の果たした役割に言及していきたい。本研究は、植民地経営にも関わる分野であり、会計史分野のみならず、経営史分野などの広い分野への貢献を目指すものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、戦時期における王子製紙決算報告書史料群を用いて、会計実務の満洲への展開を明らかにすることが目的である。関連する史料収集調査と分析作業の実施により、①減価償却実務の解明と、②勘定科目の標準化の過程の解明に重点を置き研究を進めてきた。史料収集については、王子製紙決算報告書史料群が収蔵されている「紙の博物館」を中心に進めてきた。これまでに、複数の王子製紙工場や、満洲のおける王子製紙の傍系会社の決算報告書データを収集し、分析を進めてきた。さらに、古書店等から王子製紙の考課状を入手し、①を補強する史料として活用している。また、戦時期の計理士に関する史料収集を行い、当時の職業会計人の視点から、当時の会計実務を明らかにしようと試みた。 これまでの研究により、①王子製紙各工場や満洲の傍系会社において、1941年から1942年にかけて、減価償却の実務に変化が生じていること、②王子製紙の各工場のみならず、満洲の傍系会社を含め、総勘定元帳残高表における勘定科目の標準化が進んでいることを明らかにした。2022年度から2023年度にかけては、王子製紙の考課状を用いることにより、1941 年以降における減価償却の実務の変化が全社的に生じていることを明らかにし、①を補強する成果を示すことができた。さらに、戦時期における減価償却を扱った文献調査により、王子製紙の事例がどのように位置づけられるのか検討を行った。また、職業会計人の実務に着目し、戦時期における計理士団体主催の講演記録から、計理士が経理統制に関連する諸法令を推進する役割を担った実態を指摘した。さらに、計理士が内部監査に活用されていた可能性に言及した。戦時期に会計実務が変化を遂げたことを明らかにした本研究の成果から、あらたに「戦時期における職業会計人の実務とその役割の解明」という課題が見えてきたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始以来、一次史料の収集と、これらの分析作業はおおむね順調に進展してきた。これまでに、「紙の博物館」(東京都北区)に所蔵されている王子製紙工場や、王子製紙の傍系会社の決算報告書のデータの収集(写真撮影)を進めてきた。さらに各地の大学図書館等において、計理士団体に係る史料の調査を進めたほか、古書店等を利用して王子製紙考課状を入手している。 これまでの史料の収集調査と分析作業から、①「減価償却実務を明らかにすること」、②「勘定科目の標準化の過程を明らかにすること」に重点を置き研究を進めてきた。さらに①②を補完する視点として、③「戦時期の職業会計人である計理士の経理統制への役割」を明らかにすることを試みた。 ①については、王子製紙工場(苫小牧工場、伏木工場)と、在外の傍系企業(鴨緑江製紙、六合製紙、安東造紙)について、固定資産に係る会計諸表、とくに勘定明細を用いることにより、減価償却に係る実務の一端を明らかにし、論文として成果をまとめることができた。 ②については、国内の王子製紙4工場(苫小牧工場、神崎工場、熊野工場、八代工場)と、在外(満州)の傍系企業3社(鴨緑江製紙、六合製紙、安東造紙)に着目し、分析を進めた。国内の4工場については、総勘定元帳残高表を用いて、勘定科目の変化を把握し、その標準化の過程 を明らかにした。学会においても一定の評価を得ることができた(日本簿記学会 令和3年度奨励賞:「戦時期日本の経理統制下における勘定科目の標準化―大規模製紙業を事例に-」、『簿記研究』第3巻第2号)。また、日本本土における標準化は、満洲への展開に影響を与えたことを指摘した。③については、計理士会 主催の講演記録を用いることにより、当時の計理士の活動の一端を明らかにした。戦時期の計理士が、国の方針に従い、経理統制を広める一翼を担っていた側面があることを指摘した。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始以来、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響はあったものの、これまでおおむね順調に史料の整理・分析と、論文執筆を進めてきた。2023年度までに、戦時期に おける会計実務の変化の一端を明らかにしてきた。具体的には、日本本土における王子製紙の各工場と、満洲に所在していた傍系会社3社について、減価償却の運用状況の一端を明らかにした。さらに、日本本土で見られた勘定科目の標準化は、その一部が満洲の企業においても展開していることを指摘した。2023年度までに、研究成果の一部について論文や学会報告の形で示すことができたが、今後は、より多角度からの分析を進める必要がある。減価償却実務については、全容を明らかにするためには、収集したデータのさらなる分析が必要である。データの分量は膨大であり、地道な作業を続けている必要がある。さらに、これまでの成果から、あらたな課題が浮き彫りとなった。戦時期の実務の展開を支えたであろうと考えられる、当時の職業会計人の役割を明らかにすることである。この課題を明らかにするために、適切な史料の収集を進め、分析・考察と論文執筆の作業を続けていきたい。
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