研究課題/領域番号 |
19K02066
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小松 丈晃 東北大学, 文学研究科, 教授 (90302067)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2019年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 無知 / リスク / 社会システム / 想定外 / 社会システム理論 / リスクの社会的増幅・減衰論 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題の目的は、東日本大震災後の新しい社会学的課題として、「想定外」や「無知」に関する社会学的分析に取り組む必要がある、との問題意識に基づいて、社会学的無知学(sociological agnotology)の理論的枠組みを確立すること、である。そのために、まず、(1)社会学の学説史を繙きつつ、無知研究の展開状況を整理すると同時に、(2)リスクの社会的増幅・減衰論と、(3)社会システム論および新制度派組織論を援用して、現在の無知研究の欠を補う。以上の3つのステップの作業により、いまだ十分に開拓されていない「無知」に関する研究を、社会学的に展開していくための筋道を見いだす。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、東日本大震災以後の新しい社会学的課題としての無知、あるいは想定外を社会学的に分析していくための理論的枠組みの構築を目指すものであった。公刊した雑誌論文においては、東日本大震災における原発事故被害に焦点を当て、政府が帰還政策を進める中で、被害が「自己責任」化し不可視化(および個人化)されていく筋道を確認し、社会学的なリスク論の観点から、とくにルーマンの枠組みを援用しながら、「無知」の構造的な産出に抗うための方向性の一つを探った。リスクと危険の定義変更(ルーマンが言う意味での「危険」の「リスク」への定義変更)をもたらす(事故対応に責任をもつ側もしくは加害者側が設定した)区別の設定とその解除についてまず取り上げた。その例として、第一に、緊急時から現在にいたるまで複雑に再編が繰り返されてきた被災地の空間的な「区域」の設定と、その解除をめぐる動きを挙げることができる。また、こうした空間的な境界線の設定の前提である「基準値」そのものも、「危険」を「リスク」へと定義変更する仕組みの一つである。問題の基本にあるのは、「リスク」概念によって何が意味されているのか、というリスクの定義の問題であり、不可視の個人化もこれによってもたらされているとみることができる。その意味で、この論文では、「社会的」要素も加味したリスク概念、あるいは、それと親和的なリスクガバナンスの枠組みが必要であることを主張している。それを踏まえて最後に、「無知」の社会学の視点に基づく探求の必要性について指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究実績の概要で触れたとおり、公刊論文によって、リスク社会の大きな特徴の一つである「個人化」が不可視化する様相を、東日本大震災後の被災地を念頭に明らかにしたことによって、無知の社会学的研究のための大きな手がかりの一つを得ることができた。ただし、無知研究(ignorance studies)の展開状況の整理は十分になされたとまでは言えないため、「おおむね順調に進展」との評価が妥当である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、昨年度まで不十分なままに残されていた(社会学的な)無知研究の展開状況の整理を可能なかぎり広範に行い、この研究動向の今後の展開可能性を探る。それをふまえつつ、リスクの社会的増幅・減衰フレームワーク(SARF)の、とりわけ「減衰」のメカニズムを明らかにし、ここまでの研究成果と総合させることで、社会学的無知学のための理論的枠組みを提示する。
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