研究課題/領域番号 |
19K02101
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 (2022) 一橋大学 (2019-2021) |
研究代表者 |
馬場 幸栄 独立行政法人国立科学博物館, 理工学研究部, 研究員 (10757363)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 緯度観測所 / 天文学史 / 科学技術史 / 女性史 / 地域研究 |
研究開始時の研究の概要 |
国立天文台の前身組織のひとつである「緯度観測所」は地球の緯度変化を観測する目的で明治32年に岩手県に設置された文部省直轄の研究機関である。初代所長・木村栄に代表される緯度観測所の研究者・技術者たちは数々の世界的業績を残し、近代科学史にその名を刻んできた。近年の研究によって、この緯度観測所には大正時代から多数の女性所員が「計算係」として勤務していたことが判ってきた。彼女たちはどのように計算を行い、それは緯度観測所の活動にどう貢献していたのか。本研究は、当時の文書・写真等の文献調査および元所員らへの聴き取り調査を通して、緯度観測所の女性所員たちが果たした歴史上の役割に光を当てるものである。
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研究実績の概要 |
緯度観測所が大勢の女性を計算係として採用したことについて、海外の事例と比較するため、グリニッジ天文台とハーバード天文台の女性計算係について文献調査を行った。すると、グリニッジ天文台は18世紀後半に天体暦計算を専門とする計算係の雇用を開始したものの、当初は男性のみが雇用され、女性計算係の誕生は偶発的なものだったことがわかった(男性計算係のひとりが妻に計算作業をさせていたことが後に判明し、その男性が死亡した際にその妻が計算係として正式に雇用された)。いっぽう、ハーバード天文台は19世紀後半に女性を計算係として積極的に採用し始めたが、彼女たちの主な業務は天体の分光学的分析・分類であり、「計算係」という職位は女性たちを安い賃金で雇用するための方便として使われていたことがわかった。 また、緯度観測所で戦前に計算係として勤務していた女性1名、および、戦後に計算係として雇用された女性2名について、ご家族に聴き取り調査を行った。その結果、戦前に勤務していた女性は算盤・計算尺・手回し計算器を使用して計算作業を行っていたという証言が得られた。戦後に勤務し始めた2名は、多くの女性が非常勤職員として緯度観測所で勤務するなか、数少ない女性常勤職員だったことが判明した。さらに、うち1名は結婚を機に緯度観測所を退職したが、もう1名は緯度観測所に初めて導入された大型計算機の管理に携わったほか、独身のまま定年まで勤務したことが明らかになった。 本研究の成果を広く発信するため、国際学会と国内学会で研究発表を行ったほか、東京都内の博物館において大学生向けの講義と一般市民向けの講演を行った。さらに、雑誌『国立天文台ニュース』で一部の緯度観測所女性所員の写真と経歴を紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染者数が最も多い東京都からでは聴取調査・資料調査のために地方へ移動することが難しい状況が続いていため、令和4年度4月に、研究室を東京都から茨城県へと移した。しかし、その後も日本全体の感染者数が増加したほか、オミクロン株対応ワクチンが全国に普及するまでに多くの時間を要したため、岩手県での聴取調査・資料調査の再開は令和5年1月まで延期せざるをえなかった。 岩手県内での調査を再開したことにより、国立天文台水沢VLBI観測所において緯度観測所時代のアルバムを閲覧したり、緯度観測所元所員のご家族に対して聴き取り調査を行ったりすることができた。しかし、国立天文台水沢VLBI観測所の図書室・資料庫において大規模なカビ被害が発生していることが判明したため、その他の資料については閲覧がかなり制限されてしまった。また、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、高齢者用施設では親族であっても入居者との面会が禁止されるという状況が続いていた。そのため、高齢者施設に入居されている緯度観測所元所員ご本人への聴取調査は実施できなかった。個人宅にお住まいの元所員の方々についても、基礎疾患をお持ちの場合は、感染症対策の観点から対面での聴取調査を控えなければならなかった。 海外の天文台に関する調査については、予定していたハーバード天文台だけでなくグリニッジ天文台についても文献を収集することができた。結果、天文台の女性計算係について、英米日での比較を行うことがことができた。 研究成果の発信は、国内外の学会および雑誌『国立天文台ニュース』での発表だけでなく、国立科学博物館(東京都)において大学生向けオンライン講座や市民向け講演を行うことで、より幅広い層に成果を還元することができた。ただし、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、岩手県内における成果の展示や講演は断念せざるをえなかった。
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今後の研究の推進方策 |
戦後に緯度観測所で計算係として採用された女性所員たちを中心に、その経歴や職務内容についてより詳細な情報を収集するため、緯度観測所元所員やそのご家族に対して聴取調査を実施する。また、国立天文台水沢VLBI観測所および緯度観測所元所員の個人宅等に保管されている緯度観測所関連資料の収集・収縮・閲覧を行う。 さらに、その調査結果を大正から戦中にかけて雇用された女性所員たちのデータと比較することで、緯度観測所における女性所員の雇用条件や業務内容が時代とともにどのように変化していったのかを、より長期的な視点で考察する。 また、海外の天文台が緯度観測所の女性雇用に与えた影響の有無について調査するため、緯度観測所と海外の天文台との交流を示す資料を国立天文台水沢VLBI観測所等において探索する。加えて、欧米の女性計算係について研究を行っている海外の研究者とも情報交換を行う。 研究成果は、学会・研究会等で発表する。また、地域の人々にも研究成果を還元するため、岩手県内でも新型ウイルス感染症の影響を受けにくい地方紙等のメディアを活用して、緯度観測所の女性所員たちに関する情報を発信してゆく。さらに、もし感染症関連の状況が許せば、岩手県内において研究成果に関する講演・展示を行う。
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