研究課題/領域番号 |
19K02670
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
石出 和也 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (90552886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2020年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2019年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
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キーワード | 音楽科教育 / 教材 / 学習材 / 音楽教育 / サウンドスケープ / サウンド・エデュケーション |
研究開始時の研究の概要 |
音楽科における教材を,空間性および身体性などの視点から検討する。その際,サウンド・エデュケーション研究の知見を応用することで,子どもにとっての「あらわれ方」とその「うけとめ方」までをも含む概念として音楽科の学習材概念を再整理する。 鑑賞や表現の対象として同一の楽曲が児童生徒に与えられたとしても,一人ひとりの聴き方や五感の働かせ方などは異なる。音楽科授業という場もまた,子どもにとってはサウンドスケープ(音風景)である。実際の授業展開を視野に入れれば,音楽科の教材とは単に楽曲名や楽器名などとして記述される段階に留まるものではなく,それが学習者にとってどう現象するのかまで含めて考える必要がある。
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研究実績の概要 |
今日の音楽科教育には、様々な音や音楽を視野に入れて音楽学習を組織することが求められており、その教育内容や指導方法は多様化している。音楽科の教材概念を整理・再検討することは、多様な音楽科授業を構想・実践・省察・批評するための基盤となる。 楽曲(音楽作品)は音楽科における授業構成の中心を占めており、教材の典型とみなすことができる。一方で、音楽科の教材概念を規定している定義、音楽科の教材概念を説明している言説、学習指導要領、学習指導案などは、それぞれ微妙に異なる性格や強調点を持っている。令和3年度までの本研究では、様々な先行研究の論点を整理し、音楽科の教材概念が持つ文脈依存性(文脈規定性)を確認した。 更に令和4年度は、音楽科授業における「教材の現象性」を追究した。音楽科授業では楽器や楽譜などの「物質的媒体」も使用されるが、学びの中心となる音や音楽は「物質的媒体」とは異なる存在の仕方をしている。小笠原(2014)は、教材を機能的関係概念として捉える立場をとり、教材を「働き」の次元で再定義している(「機能的関係概念としての「教材」-実体から機能的関係へ-」『教材学研究』第25巻掲載論文)。機能的関係概念として再定義された教材には、学習者側の「受けとめ」のプロセスも含まれており、現実の授業に即した定義だと言える。ただし小笠原のいう「受けとめ」は、主に国語科や社会科を中心的な例としながら説明されており、「受けとめ」を支える学習者の感覚的受容は暗黙の前提となっている。文章化された素材など、そこに「ある」対象(すなわち消えずに残る対象)との関わり合いが中心を占める教科に比べて、音楽科は、抽象的かつ不可視であり、瞬間的で流動的な音・音楽についての学びが中心となる。従って、音楽科をモデルとすることで、実体論的な教材観から離れ、関係論的な働きの次元で教材を捉えることの意味が理解しやすくなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度前半期は、実父と実母がともに重病となり、その病気療養生活を支えるため、介護休暇を取得するなど大学業務から一定期間離れることを余儀なくされた。そのため、研究遂行に充てることのできる時間を捻出することが著しく困難な状況となった。後期になって研究内容を発展・深化させることはある程度達成できたものの、研究成果発信を予定通りに進めることは困難であった。従って自己評価を区分(3)とした。研究期間再延長の申請を行い、令和5年度も本研究を継続することから、研究成果の発信に努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に発表した学術論文の内容(音楽科の教材概念にみられる文脈依存性)を基盤としながら、令和4年度の学会発表の内容を更に発展・深化させる予定である。 例えば、音楽科授業で扱われる楽曲(音楽作品)には、現実の音楽文化との関わりにおいて、いくつかの段階が見られる。鑑賞指導のように、既存の音楽文化のなかに存在する音楽作品を「そのままの形」で教材化する場合もあれば、器楽指導や歌唱指導などに多く見られるように、既存の音楽作品を教材用に編曲する場合、あるいは、最初から教材用に作られる場合もある。一方で、音楽づくり/創作のように、児童生徒が楽曲を創り出す学習活動や、楽曲(音楽作品)とは異なる身の周りの音を聴取する学習活動の場合には、何がどのように教材となり得るのか。これらの学習活動を教材論的視点から整理している先行研究は極めて少ないことから、令和5年度の研究対象としたい。 八木・川村(2007)は音楽科の教材概念を「解釈」「構成」「生成」という3つの類型に整理し、こうした捉え方が音楽科の授業構成や授業開発と連動している点を指摘している(「音楽科における教材概念の検討と授業の構成」『教材学研究』第18巻掲載論文)。近年、国語科や生活科では「教材」に代わり「学習材」という概念が一般化しつつある。前述の「生成」という音楽科の教材観は、「学習材」に近接した捉え方であり、音楽づくり/創作や、身の周りの音を聴取する学習活動における教材のありようを分析する視点として応用可能であろう。更に、「学習材」や「生成」などの視点で音楽科授業を把握することによって、【研究実績の概要】で述べた「機能的関係概念としての教材」が提起している、学習者一人ひとりにとっての教材の「あらわれ」と「うけとめ」のプロセスを、音楽科授業に即した形で精緻化することを目指す。
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