研究課題/領域番号 |
19K02756
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
杉崎 哲子 静岡大学, 教育学部, 教授 (30609277)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 書字支援 / 手書き / ICTの活用 / 書表現 / 電子黒板 / 文字文化 / 書字活動 / 書写 / 書道 / 板書 / ICT / 国語 / 書字 / 日本語学習 / グローバル化 / アルゴリズム / 国語力 / 書写書道 / 筆圧 |
研究開始時の研究の概要 |
グローバル化に伴い英語力の向上が求められる一方で、今まで以上に国語力が重要になる。筆者は、既に「手書き」の有効性を確認している。しかし昨今の国語の授業は、交流活動で「話す・聞く」時間が長くなり、ICTの活用によっても「手書き」場面は減少している。 そこで本研究では、まず学習者の観察と学びの成果の検証により「手書き」が有効な場面とICTを活用できる場面とを精査する。次に教員の経験に基づき、主に定番教材の有効な授業展開の情報を収集する。それらを基に、書字支援ツール及びICTを活用した効果的な授業展開を確立する。AI化の将来を見据えて、人にしかできない書写・書道等の表現活動についても検証していく。
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研究実績の概要 |
快適な書字を保障する書字支援ツールの成型にあたり、掌中薬指側になる円錐部分の中心軸と、ペン軸上部とペン先、それぞれの指との接触位置を結んだ線との角度を再検討した。前年度は、型取り後の修正はデータ上でしかできなかったが、今回は粉末樹脂を固めた型を作成してツール自体を切断し角度を変えながら実際に把持して調整することができたため、理想的な形状を導き出すことができた。それを70パーセントに縮小した児童用も成型し、手の大きさに対応できるようフェルト製のツールも制作した。また、左手書字用も作成した。 書字活動の意義については、高齢者を対象にした短歌作りの交流や高校生のキャリア教育に関連した自分探しの為の書字活動を通して、書字が情動を揺さぶる「生きたことば」の醸成に繋がることを確認した。「書表現」については、表現の意図や印象を言語化、文字化することの効果を検証した。近年では、漢字仮名交じり書や可読性の高い文字を題材にした書が「読める書」として奨励されているが、「書を読む」とは、書かれている文字の意味が分かることだけでなく、運筆の遅速緩急や墨の潤渇などで生まれる毛筆の多彩な線質と、点画の結構や気脈の貫通などによる字形の妙味などを感じることである。その際、表現経験の有無と言語化された表現の意図が関係して、表現と鑑賞とが相乗効果を生み出す。 国語の授業におけるICTの活用については、授業展開の中での電子黒板の使い方を具体的に検討して、効果的な活用のポイントを明らかにした。留学生に対しては、コロナ禍で来日できなかった間は書写の「手書き」実技指導をオンラインで行い、来日後には対面で授業を行った。ICTの活用が「手書き」軽視に結びつくことを懸念する声もあったが、決してそうではない。ICTを効果的に活用して手書きの意義を生かしてこそ、グローバル社会における国語力を育成できるということを再認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
海外を含む教育現場の協力を得て実践研究を進める予定だったが、コロナの感染防止策に伴って困難になったため、大学内でできることの一つとして、書字支援ツールの成型を完了させた。ツールの円錐部分と突起部分との接合の角度調整を徹底的に行い、理想的な形状を導き出してシリコンで成型し、その縮小版も完成させた。ただ児童の手の大きさには個人差があることから、フェルト製のツールが有効であると考えた。それを手作りできるよう型紙を考案できたのは想定を超えた進展であった。 机上の空論にならないよう意識して研究を進めているが、広く実践研究を進めることを優先すると内容が浅くなる。今回は複数校での授業実践はできなかったが、継続的に担当している附属校の「探究」の授業実践について深く検証できた。また協力校(高校)では、キャリア教育と関連させた実践を行うことができた。この二校での実践の検証は、本質的な国語力という視点から文字化することの意味を考察できて意義深かった。 地域貢献事業として展開した高齢者対象の短歌作りの交流は、二年間、それぞれ「文字化」して歌集を上梓した。それ自体は本研究の助成対象ではないものの、これを総括して捉え、本研究では、これらの地域貢献活動でも「手書き」が「生きたことば」の醸成に繋がることを確認した。書表現に関しても、書の特質のうちの「文字性」を特に掘り下げて探る方向性を見出だすことができた。 コロナ禍中、書写の実技指導にもオンラインを導入したところ、便利に使える場面がある一方で、対面でしかできない指導内容が明確になった。身をもって、ICTの活用のメリット・デメリットを体験し、グローバル社会における国語力とは、手書きの意義を生かしてこそ育成できると実感した。このように、状況が許さなかったために期日的にはやや遅れて研究期間を延長することになったが、内容的には想定以上の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を開始した当初は、広く声掛けし、教育現場の教員を交えた研究会を開催して検証したいと考えていた。しかし、教育現場はコロナ対応等に追われて協力を求めるのは難しく、予定を変更せざるを得ない状況になった。無理のない形で進めてきた令和4年度の研究とは、外部の協力者に頼ることなく、しかしながら、深く検証し考察することを主軸にして、着実に進めていったといえる。今後も、この堅実な方法を継続して着実に歩みを続け、本研究のまとめとしていく。 書字支援ツールに関しては、既に左手書字用も成型は終えているが、その時期には調査協力者を集められなかったため、これから左手書字者対象の調査を行っていく。左手書字用についても、縮小版とフェルト製のツール、それを手作りできる型紙を考案する。さらに、子ども達に「ツールの使い方」を伝える動画を作成する。筆記具の持ち方の指導は、幼児期に限らず、成人、特に非漢字文化圏の外国人に対しても有効である。したがって、この動画の提示も、ICTの効果的な活用ということができる。 本質的な国語力という視点からの文字化については既に検証を終え、ICTの活用のメリット・デメリットも体験的に捉えている。今後も、協力校を限定して授業実践を行い、深く検証していく。また、書表現についても、モニター調査やアンケートなどの意識調査ではなく、筆圧や運筆の速度を調査して科学的な分析を行い、3Dプリンターで提示するなどの方法で進める。「印象」や「表現の意図」といった感覚的な要素を捉えるだけでは、それらに各自の生活経験や文化的な慣習などが影響するため、一般化が困難だからである。このように、様々な角度からのアプローチを考えICT機器を効果的に活用して「手書き」を生かし、グローバル社会における国語力の育成に寄与できるような指導法を構築していきたい。
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