研究課題/領域番号 |
19K02806
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
松浦 執 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70238955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 情意表現 / 理科教育 / 生成AI / 問い / 批判的思考 / 共感性 / 共生 / ヒューマノイド・ロボット / 初等教育 / ChatGPT / 会話生成 / 情意 / 人間ー機械共生 / 知能機械 / ヒューマノイド |
研究開始時の研究の概要 |
将来の社会においては,人間の知的生活と知能機械との共生関係が求められる。この観点の初等教育における課題として,知能機械との情意的相互作用が重要である。本研究では,知能機械との共生を促進する教育材としてコミュニケーション・ロボットを導入し,児童との学習・生活上の会話を可能にする。これを通じて,児童の人工物に対しての共感性の涵養を目指す。このために,ロボット会話に人への情意表現を導入し,その効果を測定する。検証方法は,ロボットが認識する音声のテキストデータのマイニング,ロボットビジョン映像における児童の身振り表情の深層学習による分析,児童への意識調査アンケートの3つによる情意表現検出である。
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研究実績の概要 |
本研究では初中等教育の課題として、知能機械との共生的関係において人間が機械にもつ情意的関係に着目する。近年では、学びに参加する上でSelf-compassion, Empathy などの情意の重要性が指摘される。一方、自然言語生成AIであるChatGPTの教育現場での利活用が数々工夫されている。 まず小学校理科での批判的思考(CT)を発揮させるための生成 CTモデルを用いた授業構成で、児童の相互討論をChatGPTとの対話に置き換える試みをした。その結果、児童の相互討論体験の有無により、ChatGPTとの対話の内容の具体性や求める内容に差が生じることを見出した。 また、大学の講義時自由記述課題の解答への個別フィードバックをChatGPTで生成した。学生の初期評価で、フィードバックの適切さは評価するが、機械的印象が指摘された。そこで、創造的アイデア提示を付け加え、情緒的表現を加えChatGPTに加えさせることにより、フィードバックが親しめる人間的印象に転換できることがわかった。 さらに中学校理科でChatGPTにより自ら問うことを促す理科授業構築を探索した。ChatGPTの功罪を実体験するリテラシー・セッションに続き、実験操作とChatGPTとの対話を並行する体験セッションを実施した。最後に、生徒の問いに対する、情意表現と新規提案をChatGPTがフィードバックするリフレクション・セッションを行った。多くの生徒が単回送信のweb検索的利用をしていたが少数の生徒は複数回の対話反復の過程で、現象とその理由などについて科学的探究に結びつく対話をした。自ら問いたくなる理由として、対話により自分が問いたい内容や言葉が明らかになることだった。以上から、生徒の問いに個別に答える生成AIは、生徒が問うことを誘発し得ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初はVstone製コミュニケーションロホットのSotaを用いて自然言語処理の深層学習モデルの活用を進め、学級での児童とのインタラクションを進める予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により、学校でも臨時休校、分散登校、校舎内の徹底的な消毒、オンライン学習の推進、給食の黙食化、各種行事の規模縮小、行事での来賓や保護者参加の制限など、外部者が教室に入ることが望ましくなくなった。このような社会的状況のため、2020年度からは代替的な措置として、ウイークリー・オンラインクイズをヒューマノイド・ロボットNAOがプレゼンテーションすることでロボットの存在を準日常化し、クイズ内容や話しかたの構成での情意的コミュニケーションを試みた。 2020~23年度はコロナ感染拡大に校務の増大も加わり、研究の遅滞が著しかった。一方、技術的には2020年11月に最初に公開された大規模言語モデル(LLM)の生成AI(GAI)であるOpen.AI社のChatGPTの高機能な言語対話が世界に衝撃を与えると共に、教育現場での活用可能性にも大きな期待と問題提起がなされている。予想外の新しい状況であるが、研究内容としては大きく重なるので、大規模言語モデルの活用を技術的ベースとして再検討した。知能機械との共生的関係には、機械の情意表出の要素とともに、人が知能機械に共生する時、依存関係に陥らないためにはCT態度の要素も考慮すべきである。これらの要素の効果にについて検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、小学校児童を対象として、当初は児童自身の言語活動を資源とし、機械との言語活動により人と知能機械との共生関係へのより良いあり方を探ることを構想していた。しかし、LLMが高いレベルの実用性で公開され、学習や仕事の仕方に大きな影響をもたらし始めている現在、LLMのGAIの成果とそれがもたらす状況においてでなければ実践的な有意義性に不足が生じる。CTの育成を基盤とした知能機械との共生という側面と、文化的な情意性を伴うことで得られる共感性に基づく共生の側面の両面からのアプローチが必要になったと考える。また、ネットワークデバイス上でChatGPTを扱うことと、キャラクタを持ったロボットの発話として子どもと交流する場合とを分けて考えたい。本研究は最終年度に入り、重点もコミュニケーション・ロボットからLLMのGAIへと移ってきたが、その背景を含めてGAIの実践的研究の意義を検討してまとめたい。
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