研究課題/領域番号 |
19K02811
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
齋藤 知也 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (70781110)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 国語科教育 / 文学教育 / 語り / 他者 / 主体 / 中等国語科教育 / 語り手 / 「語り手」「語り」 / 「他者」 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、中等国語科文学教育において、「語り手」という概念や「他者」という問題が、学習者が身につけるべき資質・能力にいかに寄与するのか、またそれが効果的に機能するためにはどのような教材研究や授業実践が求められるのか、策定するものである。A:「語り手」をどのように学習者に意識させるかという導入段階、B:「語り手」と登場人物の相関を問題にすることで、学習者に既存の認識や理解の枠組みを超える「他者」の問題をいかに意識させていくかという展開段階、C:「語り」や「他者」の問題を、他教科の学習に生かしたり、生活認識・世界認識・自己認識する力にどう繋げていくかという発展段階について、明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、中等国語科教育における文学教育が、生徒に必要な資質・能力にいかに寄与するかを明らかにすることを目的として開始したものである。特に、求められる資質・能力の育成に、文学教育が寄与するためには、どのような教材研究や授業実践並びに教師の構えが要請されるのかを解明することを目標とした。 計画では、「語り手」という概念を生徒が意識していく導入段階、登場人物のメタレベルに立つ「語り手」を生徒が意識することで、登場人物の既存の認識や理解の枠組みを超える「他者」の問題を発見し、それを自己の認識や理解のありように反転していく展開段階、その発見を他教科等の学習や生活認識、世界認識、自己認識する力にも繋げていく発展段階として分け、系統的な研究を構想した。しかし研究を進めるなかで、過程を段階的に考えるよりも、一体のものとして捉える方が現実的であることが明らかになった。関連して、この問題を中等教育だけではなく、初等教育においても考察する必要性も浮上した。また小説だけではなく、「言葉とは何か」「対象を捉えるとはどういうことか」を考えさせる小説以外の教材を生かし、小説を教材とした授業と連動させるという観点も得た。更に、教育哲学の領域において、「他者」からの呼びかけに対する応答責任や応答可能性のなかに、新たな主体が立ち上がると考える問題提起があることを発見し、本研究の問題意識との関係を考察するようになった。 2023年度は、特に、教育哲学の領域における、「他者」からの呼びかけに対する応答責任や応答可能性のなかに主体の問題を考えようとする問題提起と、文学教育で「他者」及び「語り」という概念を用いて、生徒の既存の認識を更新し続けていくことをはかる本研究との関係について焦点化し、考察を行った。そのなかで、文学教育において価値相対主義を克服することと読みの複数性の問題との関係について、探究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、教育哲学の領域において、「他者」からの呼びかけに対する応答責任や応答可能性のなかに新たな主体が立ち上がると捉える問題提起があることに着目し、文学教育において、「他者」や「語り」という概念を生かして、生徒の既存の認識を問い直し続けていくことを目指す本研究の問題意識との関係について、探究した。また、そのなかで、本研究が課題としている、相対主義の克服というベクトルと読むことにおける複数性との関係をどのように捉えるかについて、考察した。これらの点については、一定の成果をあげることができたと考えている。しかし以下の二つの理由のため、当初の計画より、やや遅れている。 第一に、教育現場においては、本来概念装置でなければならないはずの「他者」が実体化されて捉えられてしまう傾向があり、その問題を解決する必要がある。具体的には、あらかじめ想定された一つの読みに収斂させるためのものになってしまうのではないかという誤解が残存しており、それに対する分かりやすい説明が求められている。2023年度に執筆した読みの複数性と相対主義の克服の関係についての論文は、そのためのものでもあったが、引き続き、教育哲学の領域における議論も視野にいれながら、教育実践のためのより緻密な理論を構築し、具体的な教材、授業を対象にした研究に繋げるための時間を必要としている。 第二に、研究開始初年度の終わりから2022年度くらいまで、新型コロナウイルス感染症の問題が学校教育現場に大きな影響を与え続けたため、当初の計画を変更せざるを得なくなったということがある。 以上の理由により、計画について必要な修正を加えつつ、研究を継続しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に、「他者」と「語り」に着目する文学教育は、相対主義の克服と読みの複数性との関係をどう捉えるかということについて、教育哲学における研究成果を視野に入れた原理的な考察を行うことができたので、それをふまえて具体的な文学教材を対象にした研究を行っていきたい。その際、自身が現職教員として勤務していたときの授業実践について当時の同僚の協力を得て考察することが有効と思われるため、それについても継続する予定である。高等学校においては、文学国語の教科書に掲載された教材や学習の手引きについての検討を行っていきたい。
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