研究課題/領域番号 |
19K03190
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
橋本 剛 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60329878)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 社会心理学 / 援助要請 / 援助行動 / ソーシャルサポート / 文化 / 公正感受性 / 道徳基盤 / 社会規範 / 感情 / シャイネス / 自己責任論 / 傍観者効果 |
研究開始時の研究の概要 |
助け合いを活性化するためには、援助要請(困っている人が自ら他者に援助を求めること)を推奨・促進することが有効であると従来は考えられてきた。しかし、援助要請を過度に推奨・促進することで、過剰な援助要請まで促進されたり、日本的な社会文化的規範からの逸脱による悪影響が生じたり、自己責任論の拡張解釈が生じることによって逆に援助授受が抑制される、などの諸問題が副作用的に生じる可能性も考えられる。そこで本研究では一連の実証研究を通じて、これらの論点について検証する。
|
研究実績の概要 |
人々のウェルビーイング促進のために、援助ニーズを有する人々は、自ら積極的に援助要請すべきであるという論調がある。しかし、援助要請の推奨や、援助要請の規範化には、さまざまな副作用や弊害も潜在的に懸念される。たとえば、救急出動の過剰要請などに見られるように、不要不急の安易な援助要請は、援助資源の浪費、逼迫、不適切な分配などを生じさせることがある。また、援助要請の推奨を規範化することは、援助要請できない人々への配慮と齟齬を来す側面もあり、諸事情によって声を上げられない人々をさらに困窮させかねない、という問題にもつながりかねない。さらに、援助要請の規範化は、「援助要請は自己責任」という拡張解釈に繋がり、それが援助要請抑制者への冷淡な態度、自発的援助の抑制、傍観者効果の増幅などに繋がることも懸念される。しかし、これら「援助要請のダークサイド」について、実証的に検討した試みは少なく、特に日本国内ではほぼ皆無である。そこで本研究では、援助要請の推奨やその規範化がもたらす副作用や悪影響の可能性について、多面的に検証することを目的とするものである。 令和5年度は、書籍への寄稿という形で、援助行動の促進要因と一般的に見なされている共感性が、ときに援助授受を抑制しうることを論じたコラムや事典項目を執筆した。また、高齢者の社会的孤立や孤独の一次予防をテーマとした学会の公募シンポジウムに指定討論者として登壇し、人々が繋がらないことのリスクのみならず、繋がることのリスクについても考慮すべきという議論を展開した。さらに援助要請の安易な促進が社会生態学的要因と齟齬をきたしうることに関連する知見として、援助要請スタイルと社会生態学的要因の関連に関する研究発表を複数の学会で実施した。これらはいずれも、本研究のコンセプトである「援助要請のダークサイド」の多面性を示唆するものと言えよう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在までの進捗状況を概観すると、まず令和元年度は、援助要請の推奨が、被推奨者の感情に及ぼす影響に関するシナリオ実験を実施した。その結果、知人からの専門的援助要請推奨が相対的にネガティブになりうることから、専門家への援助要請推奨が、身近な対人関係を損ないうることが示唆された。この研究成果は、コロナ禍の影響で学会発表が遅れ、論文としてまとめられたのは令和4年度となった。 令和2年度はコロナ禍により学会活動が停滞した一方で、複数の研究を実施して、それらの成果の一部は翌令和3年度の学会等で発表された。まず想定外のコロナ禍を逆手にとって、コロナ禍における大学生の援助要請スタイルについての調査を行い、依存型援助要請スタイルの低さが、かえって高ストレッサー時の抑うつが増幅されることを見出した。また、援助要請スタイルと個人規範、社会規範、シャイネス、性役割の関連についての調査も実施した。その結果、援助要請スタイルは心理的適応と直接的にあまり関連せず、積極的な援助要請がポジティブな効果をもたらすわけではないことを見出した。 さらに令和3年度には、それまでの研究からの展開として、道徳基盤や公正感受性を加味した調査研究を実施して、その成果のいくつかは令和4年度に学会発表された。援助要請の抑制が多元的無知として生じる可能性を検証した研究では、多元的無知によって援助要請が抑制されるという仮説は否定されたが、自身は回避的だが他者は依存的と認識する自己抑制的バイアス傾向が見いだされた。また、公正感受性や道徳基盤と援助要請スタイルの関連が、社会階層によって調整されることが見出された。 そして令和5年度は、これらの研究成果を論文としてまとめる想定であったが、諸事情によりまとめるには至らず、年度計画として遅滞が生じているので、進捗状況は「遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続いて本年度も当初計画として想定していなかった事業延長期間となるが、これまでに実施して学会発表などを行った研究の論文執筆を行い、本研究の総括を行うのが主たる課題となる。ただし、その必要性に応じて、補足的な実証研究の実施、学会発表などを行う可能性もある。研究機関の再延長というのは想定外であったが、期間延長によって新たに見いだされた興味深い先行研究費などもあるので、それらも活用しながら、今後の研究につながる新たな論点も含めた議論を展開していきたい。研究計画立案や研究開始の段階では想定していなかった研究期間の延長に伴い、後述する学内外の諸業務との兼ね合いによるエフォートの確保が遂行上の課題となるが、大学教員を取り巻く昨今の諸事情を鑑みるに、有効な対応策などをここで具体的に明記するのは難しいが、状況に応じて柔軟に対応していきたい。
|