研究課題/領域番号 |
19K03205
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
石井 宏典 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (90272103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 地域コミュニティ / 共同性 / 伝統行事 / 場所 / コモンズ / 世代間継承 / 神人(かみんちゅ) / 沖縄 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、地域の根ともいえるような場所で執り行われる伝統行事の継承実践に注目する。沖縄島本部町内で実施してきたこれまでのフィールド研究の成果をふまえ、伝統行事の現況に関してタイプの異なる6つの集落を選定する。参与観察とインタビューによる実態把握と相互比較の作業をとおして、現在まで受け継がれてきた行事を後世につなげようとする諸活動が個人やコミュニティレベルに及ぼす影響について考察する。また、地域コミュニティの再生という今日的課題に取り組む際に、地域共用の場所(コモンズ)での住民参加の取り組みが地域の共同性を育むという観点が重要なことを示す。
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研究実績の概要 |
本研究は、地域の根ともいえるような場所で執り行われる伝統行事の継承実践に注目する。沖縄島本部町内で実施してきたこれまでのフィールド研究の成果をふまえ、伝統行事(年中祭祀)の現況に関してタイプの異なる6つ程度の集落を選定した。参与観察とインタビューによる実態把握と相互比較の作業をとおして、現在まで受け継がれてきた行事を後世につなげようとする諸活動が個人やコミュニティレベルに及ぼす影響について考察する。また、地域コミュニティの再生という今日的課題に取り組む際に、地域共用の場所(コモンズ)での住民参加の取り組みが地域の共同性を育むという観点が重要なことを示したい。なお、本研究ではとくに、地域の豊作豊漁や住民の安寧を祈願するための聖なる場所に着目する。 2023年度は、新型コロナウィルス流行の影響により研究期間の延長が認められ、5年目となった。過去3年間は現地調査が制限されたことにより、これまでの研究実績を最も活かすことのできる備瀬集落に絞って行事場面の参与観察と聞きとりを継続してきた。本年度もこの方針を踏襲した。4年ぶりに再開されたシニグ行事において、従来から中心的役目を担ってきた地元住民だけでなく、老年期に帰郷した人たちおよび新住民が重要な役目を担っていた。研究期間の再延長が認められたため、引き続き、これら三者関係の動態に注目しながら参与観察を進めたい。 なお、備瀬集落の出身者を対象にした長期的調査研究の成果として昨年度刊行した『都市で故郷を編む―沖縄・シマからの移動と回帰』(東京大学出版会)が、日本社会心理学会賞出版賞に選定された。本書は、近年の伝統行事の動向をふまえており、本研究課題の成果が大いに活用されている。また、本書刊行を受けて、九州大学人間環境学府にて開催されたブックラウンチ(シンポジウム)に執筆者として招かれるとともに、沖縄民俗学会においても招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、地域の聖なる場所で進められる行事への参与観察と中心的担い手を対象とした聞きとりによる実態把握をとおして、地域の共同性が生成・再生する過程(または衰退する過程)を考察することにある。調査地域である沖縄島本部町は、18世紀初頭以降の本部間切時代に起源をもつ集落(区や字と呼ぶ)が15ある。年中祭祀の現状を把握するための予備調査の成果を受けて、以下の3タイプに分類した。Ⅰ. 神人主導型:神人が祭祀を主導(7集落)、Ⅱ. 区長・書記代行型:神人不在のために区長や書記が代行(4集落)、Ⅲ. 住民輪番型:住民が輪番で執行(3集落)、その他に行事の現況が未確認の1集落がある。これら3つの類型ごとに対象集落を選定し、4年間の研究期間において現地調査を重ねたうえで相互比較を行う計画を立てた。 しかし2020~22年度にかけては、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、現地調査が著しく制限されたため、備瀬集落に絞ることで調査をつないできた。2023年度においてもこの方針を踏襲し、4年ぶりにウシデーク(神前舞踊)が再開されたシニグをはじめとして、行事への参与観察を4度(四月大御願、シニグ、ミャーラ御願、初御願)重ねた。 なお、備瀬集落の出身者を対象にした成果として昨年度に刊行した『都市で故郷を編む―沖縄・シマからの移動と回帰』が、日本社会心理学会賞出版賞を受賞した。近代の変動期に出郷した人びとは、シマ(集落)のつながりを頼りにしながら移動先の状況に応じてあらたな共同のかたちを編み出しながら生活を立ててきた。本書では、その過程を個々人のライフサイクルと時代史を交叉させながら記述し、共同性の生成という観点から考察している。近年の伝統行事は、沖縄島中南部都市圏に出郷した人たちの参加によって支えられてきた面に焦点をあてるなど、本研究課題の成果が大いに活用された内容となっている。
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今後の研究の推進方策 |
地域の人びとによって持続的に手入れ活用されてきた場所をコモンズと定義する。本研究でとくに着目するコモンズは、地域の豊穣や住民の安寧を祈願する聖なる場所(当該地域では、御嶽(うたき)と呼ばれる聖なる森やアサギと呼ばれるお宮など)である。既述の3類型ごとに、つぎのような推進方策で臨む。ただし、コロナ禍の影響で現地調査が予定どおり展開できなかったことをふまえ、備瀬集落での調査を中軸に据えることとし、他集落の動向との比較を可能な限り行うことにする。 Ⅰ. 神人主導型集落:備瀬集落を中心に、伊豆味集落および渡久地集落を補助的に位置づけて調査を進める。備瀬では、2人の高齢神人の実践、また彼女たちを支え後継する動きに注目しながら参与観察を重ねる。他方、伊豆味で行事を背負う1名の神人への聞きとりを再開する。彼女はムラの神人であると同時にユタとしての巫業(客に依頼されての禍厄抜除、病気の平癒祈願等)も行う。彼女の独特の世界観に近づくための参与観察と聞きとりを継続する。渡久地では、多くの住民が参加する供物の準備過程にも着目する。 Ⅱ. 区長・書記代行型集落:浜元および伊野波両集落での調査を再開する。浜元では、豊作祈願・感謝のための行事のいくつかが生活環境の変化を受けて廃止された。また、伊野波でも同様の措置が検討されていた。区長および書記など中心的担い手への聞きとりによりこれら行事の再編過程を把握し、各行事への参与観察を行う。 Ⅲ. 住民輪番型:浦崎集落に絞って調査を遂行する。当集落においては、おもに中老年期の人たちが担った集落単位の郷土誌が完成した。この編纂事業は、急激に生活環境が変化するなかで地域のルーツを刻み後世に伝えようとする営みといえる。その内容を精査しながら、郷土誌の構成立案、資料収集、執筆・編集という、完成までの過程を把握し、「地域の共同性の生成」という観点からの考察を進める。
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