研究課題/領域番号 |
19K03217
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
池内 裕美 関西大学, 社会学部, 教授 (50368198)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 苦情 / クレーム / 国際間比較 / 逸脱的消費者行動 / カスタマーハラスメント / 苦情行動傾向 / 苦情対応方略 / 感情労働 / 苦情対応 / カスタマー・ハラスメント / 顧客満足 / 新型コロナウイルス / 身体化認知 / 従業員保護 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、「逸脱的消費者行動」(=購買や消費が個人的、社会的に否定的な結果をもたらす消費者行動)の中でも、特に近年、世の中の関心の高い「苦情行動」に焦点を当てる。そして、苦情行動者を、典型的な発言や態度、行動面などからタイプ別に分類し、各タイプの特徴に応じた適切な対応方略を見出すことを主目的とする。 また、本研究では、今後ますます深刻化することが予想される訪日客からの理不尽な苦情に備えて、海外の苦情行動や苦情対応の現状についても探求する。そして最終的には、「感情労働」(=高度な感情コントロールを要する仕事)従事者としての苦情対応者の保護につながるような研究成果の蓄積を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、逸脱的消費者行動の中の「苦情行動」に焦点を当て、苦情行動者を典型的な発言や態度から類型化し、その類型に応じた適切な対応方略を見出すことを主目的とする。2023年度は「苦情行動類型・苦情対応類型の国際間比較」を中心に行った。計画当初は日米韓で実施する予定であったが、韓国の代わりにNZ(新)を加えて実施した。その理由は、新の研究者に取材する機会があったこと、行政機関として「Consumer Protection」を設置している数少ない国の一つであることなどによる。 具体的には、調査会社のモニターから接客業従事者を対象に、20~70代の男女480名(日・米各200名、新80名)を抽出してweb調査を実施した。スクリーニング調査11,705名(日10,000名、米1,305名、新400名)を含めた主な結果を記すと、カスタマーハラスメント(カスハラ:顧客からの過度な迷惑行為)の被害経験が「ある」と答えた人は、日2142名(46.0%)、米835名(75.5%)、新213名(65.5%)であり、日本は有意に少ないことが認められた。また、暴言等の種類別被害経験率も、日本は12項目すべてにおいて低いことが示された。 本調査の主たる結果を記すと、苦情行動者は次の5タイプからなることが見出された。1)自責皮肉型、2)威嚇・自己顕示型、3)激高・自己正当化型、4)解決志向型、5)権威主義型。また、苦情対応方略においては、1)回避型、2)統合型、3)譲歩型、4)強制型、5)妥協型の5つのスタイルが見出された。いずれの下位尺度得点においても米国が有意に高く、多様なカスハラが生じやすい分、対応も徹底している様相が認められた。その他、日本はマニュアルやサポートの整備が遅れており、サービス業従事者のストレスも高く、カスハラが原因で辞職したいと思った経験のある人の割合が有意に高いことも示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように判断した理由は、調査方法や調査国に変更はあったものの、過年度に予定していた国際間比較の研究がようやく実施できたことによる。これまでは、コロナウイルスの感染拡大や世界情勢の悪化、さらには円安の影響で、現地での調査の実施が困難になったことに加えて、サービス業の在り方自体が計画時と比べて大きく変わったことなどによって滞っていた。しかし、2023年度はニュージーランドに渡航の機会があり、異文化比較研究者のDr.Ian Fookes(Uiversity of Auckland)への面接調査を通して、ニュージーランドにおけるカスハラの実態について情報収集を行うことができた。また、併せて2023年度に英国で出版されたばかりの“The Abusive Customer: Breaking the Silence Around Customers’Aggressive Behavior”を入手し、それらの情報を参考に調査会社を介してであるが、日米新での調査が実現した。 国内調査においても概ね順調で、学会発表や機関誌等への寄稿を通して過去の調査データの再分析結果を紹介する機会があり、学術的貢献も果たせたと考える。一例を挙げると、2022年度に実施した百貨店販売員への調査データを基に、「カスハラの種類×対応方法×成否の関連性」をコレスポンデンス分析にて検討したところ、たとえば暴言や多頻度のクレームに対しては要求の受容が成功に繋がりやすく、権威的態度に対しては謝罪や説明が失敗に繋がりやすいことなどが見出された。 その他、こうした調査結果を講演活動や研修、メディア取材を通して広く現場にフィードバックできた点も功績といえる。特に2024年2月末に東京都からカスハラ条例制定の方針が発表された際には、本研究成果が広く活用された。こうした状況から「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
延長期間2年目となる2024年度は、次の2つの課題を中心に進める予定である。 第一の課題としては、2023年度に実施した国際間比較調査の詳細分析が挙げられる。上述したように、当初計画していた現地調査ではなくweb調査にての実施となったが、カスハラの心理・実態に関する他国との比較データは極めて貴重なものと思われる。事実、暫定的な分析をしただけでも、日本はマニュアルやサポート体制の整備、研修や講習等の実施が遅れており、カスハラ対策後進国であることが示唆された。その背景には、そもそもカスハラ生起率自体が他の2国(米新)に比べて低く、サービス業の現場では、これまでカスハラ自体がそれほど問題視されてこなかった可能性が考えられる。しかし、「特権意識尺度」に関する分析結果をみると、日本には依然としてお客様優位の価値観が浸透していることや、それにより理不尽な請求を行う傾向も示唆されている。したがって、本調査結果がどこまで真実を表しているのか、今一度多面的な視点から分析を行い、慎重に解釈を行う必要がある。また、日本は労働環境が整っていない分、サービス業従事者の苦情対応業務に疲弊する現状が認められ、こうした精神面への対策の検討も重要な課題の一つといえよう。 第二の課題は、いうまでもなく本研究全体の整理と成果報告である。2019年度に着手した本研究は、2020年度以降は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い大幅な計画変更を余儀なくされた。したがって、平常時とは大きく異なる状況下での研究となったが、それでもようやく昨年度、海外比較調査が完了し、これでStep6までの全段階を実施することができた。あとは、2019年度のフィールド実験、2020年度の苦情対応者調査、2021年度の苦情行動者調査、2022年度の流通サービス業従事者調査、2023年度の国際間比較調査を整理し、順次論文にて報告していきたい。
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