研究課題/領域番号 |
19K03371
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
金沢 創 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (80337691)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 乳児 / 視覚 / 顔認知 / 認知 / 文化差 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究計画では、前景と背景の知覚スタイルの違いが、発達初期の段階ですでに生じているとの仮説に基づき、1歳以下の乳児にも西洋と東洋ではすでに文化差があるのではないかとの作業仮説を設定し、認知スタイルの文化差獲得過程を明らかにしていく。具体的には、風景画像に対する乳児の知覚実験及び眼球運動の測定から文化差を明らかにしていく。
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研究実績の概要 |
本研究計画では、知覚認知の発達認知科学的な情報処理が、どのような発達過程を経てどのように成熟していくかを検討することが最大の目的である。乳児の認知神経科学的な過程を検討することは、成人の認知情報処理過程を結果として明らかにすることとなる。昨年度も引き続き、この観点から乳児の行動実験、並びに生理的指標を用いた実験を検討し、当初の計画とは若干異なってはいるものの、乳児の視覚情報処理を扱う検討を行ったので、そのいくつかを紹介する。 最も重要な成果は、我々成人には「誤って」情報が統合されてしまうmisbindingという錯視について、6か月以下の乳児ではそれが起こらず、逆に物理的に正確な情報を見ることができる、というものである(Tsurumi et al.,2023)。この結果は、従来より行ってきたより幼い乳児は、大人が見えていないものを逆にみることができる、という意味での成果であり、乳児の視覚発達を明らかにする重要な研究となっている。また、自人種(この場合はアジア人の顔)と多人種(この場合は白人の顔)の顔画像に対する瞳孔反応を5か月から8か月の乳児で検討した研究も行った。実験の結果、5か月から6か月の幼い乳児においては、7か月以上の乳児みられた、顔画像に対する反転効果が観察されなかった。このことは、乳児の顔認知が、文化圏において見えている顔刺激によって調整され、学習が成立することを意味している。本研究は、文化による社会的な認知が、生理的な反射のレベルですでに異なっていることを示す研究であると評価できるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍は、ようやく昨年度に本格的な収束を見せ、結果として昨年は順調に実験できることとなった。具体的には、中央大学八王子キャンパスにおいて順調に被験者を募集し実験を遂行できることとなり、結果として2023年4月から2024年3月までに、査読付き国際誌へ5本の研究成果を報告することができた。具体的には、乳児を対象とした行動実験の論文が4本、瞳孔反応を用いた生理的指標の論文が1本、NIRSを用いた脳科学的な反応の論文が1本である。中でも行動指標を用いたmetaxontrast maskingの論文、ならびにmisbinding を用いた知覚統合過程の検討については、発達における抑制過程の重要性を明らかにした。また、瞳孔反応を指標として用いた顔認知の人種効果の実験では、5~6か月児において、反転効果が成立しておらず、文化による顔認知の学習過程が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、通常の乳児行動実験、ならびに生理学的指標を手掛かりとした脳科学的な実験も実施できる状況にあり、引き続き被験者を募集し実験を実施していく。そのための実験的方法については、選好注視法および馴化法など、注視時間の計測をベースとした行動実験が発達過程を検討する最も適当な方法となる。また生理学的指標としては、まずは無意識的な反射過程を反映する瞳孔反応の計測がある。この手法は昨年度も成果をあげており、引き続き検討を行っていく予定である。また、NIRSを用いた脳科学的な検討についても、本計画を実施するための引き続き重要な方法であるが、あわせて脳の電気的な活動をとらえずEEGについても、これを乳児に適用する環境が整備されており、本計画を進めるための新しい手法として期待できる。 欧州の研究グループとの連携については、国際学会での検討はもちろんであるが、実際に欧州の学生が日本に来ることで実験を検討できる見通しもあるため、これらの交流を通じて文化の違いによる発達的な検討も可能になってくるものと考えられる。
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