研究課題/領域番号 |
19K03672
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
福本 康秀 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (30192727)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 電磁流体 / 南部括弧 / クロス・ヘリシティ / カシミール不変量 / 等磁気循環摂動 / 波のエネルギー / 境界層乱流 / 渦クラスタリング法 / ネーターの第2定理 / 一般化されたビアンキ恒等式 / らせん渦管 / 風車後流 / 層流火炎速度 / 重力 / バルク熱損失 / クロスヘリシティ / 南部力学 / 予混合燃焼 / 圧縮性 / ダリウス・ランダウ不安定性 / 浅水流 / 体積的熱損失 / ケルビン・ ヘルムホルツ不安定性 / リチャーズ方程式 / 陽的差分法 / ダリウス・ランダウ不安定 / ケルヴィン・ヘルムホルツ不安定 / バロクリニック効果 / ハミルトン力学系 |
研究開始時の研究の概要 |
流体では、薄い層状領域で速度や密度などが大きく変化する流れ現象がひろく存在し、しかも、その層状領域が流れ全体を支配することが多い。燃焼の火炎においては、密度と横切る気体の速度が、河川の急流においては、流速が狭い領域(剪断層)で急変化する。これらを厚さゼロの界面と数理的にモデル化することによって、界面の波状変形が成長するかどうかを微分方程式の解析と数値計算によって調べる。本研究では、火炎面のゆらぎの成長に対する音波、急流の剪断層のゆらぎの成長に対する水面波の効果をそれぞれ解き明かす。
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研究実績の概要 |
粘性と熱伝導を無視すると、中性流体や電磁流体の運動は無限自由度ハミルトン力学系をなす。発展方程式は縮退したハミルトニアン構造をもつリー・ポアソン方程式であり、トポロジカル不変量であるカシミール不変量の存在を許す。解軌道は流体力学的変数の空間全体を経巡るのではなく、カシミール不変量の定数値によって指定されるシンプレクティックリーフ上に制限される。南部括弧はこの構造を可視化する。電磁流体方程式のカシミール不変量がクロス・ヘリシティ、総質量、総エントロピー、および磁気ヘリシティで尽くされることを証明し、この4個の不変量をすべて用いて南部括弧表現を構築したが、この表現には冗長性がある。クロス・ヘリシティ、総エントロピー、磁気ヘリシティの3個だけでよりコンパクトな南部括弧表現を導いた。 アーノルドの定理によれば、非圧縮理想中性流体の定常解は、等循環(渦無し)摂動に関する運動エネルギーの極値状態である。この性質のおかげで、定常流に立つ波のエネルギーが、線形摂動だけで計算できる。この枠組みを理想電磁流体に適用するため、等循環攪乱を等磁気循環摂動に拡張した。このためにラグランジュ変位以外にベクトル場がもう一つ必要である。第2のベクトル場の発展方程式をイオン・電子流体からなる二流体モデルから導出した。この2個のベクトル場を用いて、定常電磁流に立つ波のエネルギーの新しい公式を導出した。 乱流においては、階層構造をなす大小さまざまな渦が絡み合って、時間的・空間的に複雑な挙動を示す。ナビェ・ストークス方程式にもとづく境界層乱流の直接数値シミュレーションで得られた流れ場から、比較的強い渦度を有する渦体積領域を抽出し、個別渦グループに分けて自動的に追跡する「階層的渦クラスタリング法」を提案した。データ階層性(包含関係性)で結びつけられた渦領域点集合の瞬時空間分布を可視化し、その動きの追跡を可能にする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理想中性/電磁流体に対する南部括弧表現を4個のカシミール不変量すべてを用いて書き下せたが、これには不必要な項が複数含まれていた。3個のカシミール不変量だけを用いて南部括弧表現のスリム化に成功した。おそらく、これが南部括弧表現の最終形であろうと考えている。 圧縮性流体中の速度不連続面のケルビン・ヘルムホルツ不安定性(KHI)をハミルトン力学系の視点から解明するための鍵を握るのが攪乱のエネルギーの符号である。電磁流体のエネルギー公式を導く過程で、圧縮性流体に対する等循環摂動を担うラグランジュ変位ベクトルやスカラー場の発展方程式を深めることができた。これにより、圧縮性流体の定常解に加えられた攪乱のエネルギーを計算する準備は整った。 非圧縮性の場合と異なり、圧縮性KHIでは3次元性が卓越すると予想している。KHIの攪乱が非線形的に成長し乱流化する過程は、一つには渦構造によって捉えられる。直接数値シミュレーションのデータから複雑な渦構造を抽出し、分析するためのクラスタリング法を編み出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
4年間にわたり南部力学の形式を援用してトポロジカル渦度ダイナミックスを深めてきたが、中性/電磁流体方程式の南部括弧表現を完成させて、さらに、トポロジカル渦度力学とオイラー流体力学の関係を深めていく。それをもとに、圧縮性渦運動の安定性解析に進む。 圧縮性電磁流体方程式のリー・ポアソン括弧に対して、最低限必要なカシミールのみを用いて、最もスリムな定数係数南部括弧表現を導く。南部括弧から等磁気循環摂動を構成し、これを用いて波のエネルギー、波の相互作用によって誘起される平均流などを計算するスキームを構築する。このため、電磁流体に対するFrieman-Rotenberg方程式の構造化を行う。その後、拡張された電磁流体力学(ホール効果、電子慣性の効果)に進む。 ハミルトン力学系のKreinの理論によると、異符号のエネルギーをもつ2個の攪乱モードの固有値が衝突することによって、定常状態の不安定化が起こる。圧縮性流体中の渦層(=接線速度不連続面)の3次元線形安定性解析を行い、攪乱のエネルギーの計算を行って、その符号から「なぜ3次元性が卓越するのか?」という問いに答えを出す。渦層をはさんで密度が異なる場合に拡張し、圧縮性レイリー・テイラー不安定性の3次元解析を行う。不連続面を正則化した有限幅の剪断層に対しても3次元線形安定性解析を行い、遷移層内部に現れる新たな不安定性を捉え、マッハ数が2.8を超えたときに遷移層外部で起きるKHIの消失との関連を解明する。さらに、剪断層の攪乱の非線形発達の数値シミュレーションに進み、渦構造を自動抽出するクラスター方法によって、乱流遷移のメカニズムを解き明かす。 圧縮性があると、圧力を介して熱伝導方程式に重力効果が結合する。これを用いて、予混合燃焼の層流火炎速度に対する重力効果を計算し、重力効果による層流火炎速度の低下と重力による消炎条件を定量的に導く。
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