研究課題/領域番号 |
19K03674
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
香取 眞理 中央大学, 理工学部, 教授 (60202016)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | ランダム行列 / 多重シュラム・レヴナー発展 / ガウス自由場 / 非エルミート行列値ブラン運動 / 固有ベクトル・オーバーラップ過程 / 行列式点過程 / 確率解析 / ガウス解析関数 / 共形共変性 / リーマン多様体 / バーガーズ方程式 / 自由確率論 / ガウス型ランダム解析関数 / パーマネント点過程 / ヤコビ・テータ関数 / 多粒子確率過程 / 超一様性 / 双対性 / 極限定理 / ランダム行列理論 / 確率場 / 統計力学 / フェルミオン点過程 / 共形場理論 / SLE |
研究開始時の研究の概要 |
ランダム行列理論は線上や平面上のランダムな点集合であるフェルミオン点過程の確率理論を与え,平面上の臨界統計力学模型とフラクタル模型のスケーリング連続極限を表現するシュラム・レヴナー発展(SLE)は共形変換不変な確率測度をもつランダムな曲線の時間発展理論である。本研究ではこれら点や曲線に対する確率理論の研究を深め,それらで特徴づけられる確率場に対して総合的理論を構築する。高次元リーマン多様体上のフェルミオン点過程の一般論を展開し,1成分あるいは2成分プラズマ模型を経由して自由ガウス場,さらにそのリウビル量子重力場への変換を明らかにする。局所的な場の接続を分類し,多重SLEでコントロールする。
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研究実績の概要 |
(1) 動的なランダム行列理論において中心的な役割を果たす確率過程であるダイソン・ブラウン運動で駆動される多重 Schramm-Loewner 発展(SLE)について、ガウス自由場との結合という観点から、越田真史氏(フィンランド、Aalto 大)と共同共同で行ってきた。その成果を、2022年8月1日-13日にドイツ、Bielefeld 大の ZIF 研究所で開催された Summer School `Randomness in Physics and Mathematics, From Integrable Probability to Disordered Systems' において講義した。世界各地から参加した大学院生やポスドクからなる聴講生たちと活発な議論を行い、また、他の講師や Bilelefeld 大の主催者(G. Akemann, F. Goetzeら)と研究打ち合わせを行った。 (2)非エルミートな行列に値を持つブラウン運動の固有値と固有ベクトルの時間発展系について研究を行った。エルミートな行列に値をもつブラウン運動の場合、その固有値過程は固有ベクトル過程と独立に議論することが出来る。これがダイソン・ブラウン運動である。これに対して、非エルミートな場合には、固有ベクトルの汎関数である overlap 行列の時間発展と固有値過程とが結合する。非エルミート行列値ブラウン運動に対して定義される 正規化された Fuglede-Kadison (FK)行列式の時間発展に対して伊藤解析を適用した。FK 行列式の対数微分から、固有値や overlap 行列の対角成分の重みをもった固有値の経験分布の時間発展系を導出した。また、それらの平均値に対して偏微分方程式系を導出した。これらの結果は、Burda ら(2015)が物理学の文献で議論していたものを数学的に正当化するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非エルミート行列に値をとるブラウン運動に対して、研究を進めている。Burda らの2015年の論文のように、物理学の文献において、数学的な正当化が難しいと思われる議論がなされている。当初は、大学院生の田中雄也氏、森本早織氏、江添綾七氏らとの共同研究により、数値シミュレーションを行い、物理の文献での予想が正しそうであることを確認してきた。また、予想に基づいた考察をさらに進めることを行った。これらの準備的な研究の後、非エルミート行列値ブラウン運動に対して定義される正規化された Fuglede-Kadison (FK)行列式の時間発展に対して伊藤の確率解析を適用した計算を行った。その結果、複素2次元(実4次元)空間内の確率微分方程式を導出することができた。これまで、上述の物理学の文献において報告されてきた予想は、Grassmann 変数に値を持つ汎関数積分(経路積分)のよる計算と self-averaging 性の仮定の末に得られたものであり、その数学的な正当化は極めて困難と思われるものであった。今回の我々の結果は、Burda らの物理の文献における予想を、揺らぎの効果を加えることによりさらに拡張した結果であり、それを数学的に導出したことは重要な成果であると考えられる。 また、この非エルミート行列値ブラウン運動の固有値過程と overlap 過程に対して直接的に伊藤の確率解析を適用するという江崎翔太氏(福岡大)と薮奥哲史氏(北九州高専)と議論をすることにより、彼らの結果と合わせて包括的な理解を目指している。 Burda ら(2015)の物理学における予想の数学的な正当化が出来たため、当初に大学院生たちと行っていた数値シミュレーションに対しても、その意義づけが出来たことになる。数値的な研究もさらに進めている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)非エルミート行列値ブラウン運動について、江添氏、薮奥氏と系統的な研究を進め、共著論文を作成する予定である。また、その結果を、非エルミート行列値ブラウン運動とエルミート行列値ブラウン運動の内挿であるプロセスに拡張することにより、包括的な理解を目指す。この内挿モデルは、Girko アンサンブルとよばれるランダム行列の統計集団模型の動的拡張であり、近年、薮奥氏によって導入されたものである。 (2)多重SLEとガウス自由場の間に結合状態が成立するための必要十分条件として、多重SLEの駆動過程がダイソン・ブラウン運動であることを、複素上半平面上を基準空間とした共形不変な系に対して証明した。この結果を、単位円板を基準空間とした系に対して拡張したい。前者のSLEは複素上半平面の境界である原点から、同じく境界である無限遠点へ至るランダム曲線を生成するものであるが、後者のSLEは単位円板の境界点から内点である原点に向かうものであり、この拡張は非自明である。この問題を解決することを試みる。 (3)行列式点過程(フェルミオン点過程)の楕円関数拡張について、Springer から学術書を出版した。そこで述べた結果をさらに発展させる。具体的には、可積分系理論、コヒーレント状態とそれに付随する Bargmann 変換の理論、確率微分法的式系での記述、などについてである。
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