研究課題/領域番号 |
19K03696
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022) 東京工業大学 (2019-2021) |
研究代表者 |
萱沼 洋輔 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 客員研究員 (80124569)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 量子経路干渉効果 / 2連パルス制御 / Volterra型積分方程式法 / 動的局在 / 超高速分光 / Berry位相 / 強磁性ドメイン壁 / 非エルミートハミルトニアン / 偏光相関分光法 / 強光電場効果 / Volterra積分方程式 / 強レーザー駆動 / 量子経路干渉 / 強光子場駆動 |
研究開始時の研究の概要 |
強光子場パルスで励起され駆動された電子系のダイナミクスと、電子励起状態における様々な量子経路干渉効果の本質を理論的に明らかにする。その際の計算手法としては、本研究者が提案している時間依存シュレーディンガー方程式をVolterra型の積分方程式に書き直して解く方法を用いる。この方法では、基底状態を含む少数の離散状態のみを含む連立方程式の数値処理に問題を簡単化できる。具体的な問題としては2連パルスポンプによる誘導ラマン散乱、閾値以下の光子場によるイオン化と分子内の分布反転、固体における短パルス励起による高次高調波発生のメカニズム解明などを扱う。
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研究実績の概要 |
重ね合わせ原理と干渉効果は量子力学のエッセンスであるが、この研究課題では時間依存問題における「遷移経路間の干渉効果」に着目して理論研究を行った。 この研究の一部は固体結晶中における光パルス照射下でのコヒーレントフォノン生成に関する実験的研究に密着して、その解析と理論的予言を行ったものである。実験的には、二つの超短パルスをアト秒の精度で制御された遅延時間をかけて、GaAs結晶に照射し、二つのパルスによって生成された電子励起状態とフォノン状態の干渉によるフォノン生成確率の特異な遅延時間依存性を観測している。この干渉縞の形状が、フォノン生成のメカニズムを如実に反映していることを、理論的に明らかにした。 一方、広い意味の時間依存問題としてトンネル効果を含む散乱問題がある。ここでは、電子に固有のマイナス電荷と1/2のスピン角運動量に着目して、1個の電子が場所によって徐々に向きを回転させる局在磁場を持つ細線中を透過する際のスピン・磁場相互作用の効果を調べた。とくに細線がループを作っているとき(Berry ring)にスピンの持つ波動関数の位相成分が、右回りと左回りの経路間で干渉を起こす様を理論的に調べた。これも経路干渉効果の一つである。 この時、Berryの位相と呼ばれる位相が経路干渉効果に大きな影響を与えることを見出した。Berry ringの透過確率には位相干渉により磁場の強さの関数として、完全反射状態が周期的に現れることを予言した。Berry ringは二つの逆向き磁場を持つ強磁性体金属のドメイン間を逆向きに磁場が回転するドメイン壁でつなぐことによって実現可能であり、スピントロニクスの新しい原理として期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究期間中の2022年に3篇、2023年1月に1篇、計4編の論文を国際的な有力誌に公表した。うち2編は本研究者が研究協力をしている実験研究グループとの共同研究である。これは超高速2連パルス励起によるコヒーレントフォノン生成における経路干渉効果に関するものである。2連パルスの遅延時間の関数として、フォノンの生成効率に激しい振動構造が現れる。その特徴的な構造が、共鳴誘導ラマン散乱における遷移経路間の干渉効果として見事に再現されることを示した。 他の2編は理論的興味に端を発するものである。その一つは超高速分光におけるLandau-Zener効果に起因する経路干渉を論じたものである。ここでは2準位系に高強度の短パルスが照射されたときの励起状態への遷移確率を非摂動論的に明らかにした。とくにパルス励起にも関わらず、周期的振動外場に適用されるFloquet理論をLandau-Zener公式とともに適用し、励起確率を調べ数値計算とのよい一致を見出した。このモデルは実際に空中の窒素分子のパルスレーザー励起による分布反転の実験事実と整合的であり、今後有用な計算手段となりうるものである。 他の1篇は、スピントロニクスの分野における新しい経路干渉効果の存在を予言をしたもので、海外の若手理論家との共同研究である。この論文ではスピンを持つ粒子の局在スピン磁場中における透過・反射を調べ、Berry位相に起因する興味深い経路干渉効果を予言している。これはスピントロニクスの分野に有意義な予言を与えるものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の所期の目的は、順調に達成されている。とくに高強度の超短パルスレーザー励起の実験は、分子・固体の双方で急展開を見せており、本研究で行っている非摂動論的な動力学研究は有用性を増している。 例えば固体におけるレーザー励起下での高次高調波発生は急展開を見せており、理論的研究の推進が期待されている。このためには、本研究課題で確立された計算手法や新概念をさらに展開しなければならない。例えば、強レーザー場で駆動された結晶格子中の電子の運動状態を明らかにする必要がある。その最も顕著な現れは強い振動的外場中での「動的局在」である。動的局在の実態は、有限の広がりの中で電子が激しく振動している状態であり、高次高調波発生と密接に関連している。本研究者は動的局在の重要性を学会発表や英文の解説記事で述べてきたが、その論文取りまとめを行う予定である。 また、スピントロニクス分野における経路干渉効果も重要である。発表論文では、有効質量近似に基づく連続体モデルで計算をおこなったが、tight-bindingモデルによる解析を急いでいる。tight-bindingモデルでは、Berry ringの外部(リード部分)とBerry ringとの接続部の扱いが連続体モデルとやや異なり、トポロジカル接合による非エルミートハミルトニアンが現れる。これらの問題を現在、継続して研究中である。
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