研究課題/領域番号 |
19K03721
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
菅 誠一郎 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (40206389)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | キタエフモデル / 異方的相互作用 / 歪み歪み誘起擬ベクトルポテンシャル / マヨラナ粒子 / ランダウ準位 / 拡張キタエフモデル / ホールドープ / カイラルp波超伝導 / ハイゼンベルク・Γモデル / 蜂の巣格子 / クラスター展開 / 数値厳密対角化 / 基底状態相図 / キタエフ-ガンマモデル / 4d, 5d遷移金属化合物 / 超伝導 |
研究開始時の研究の概要 |
磁性原子が蜂の巣格子を形成する一群の4d、5d遷移金属磁性体には、幻の粒子と呼ばれるマヨラナ粒子が現れる可能性が約10年前に理論的に指摘された。その後、新奇な実験結果が次々と観測され、それらがマヨラナ粒子に由来するかどうかに注目が集まっている。本研究では、以下のテーマを理論的に調べる。1)候補物質に磁場をかけた場合に観測された興味深い実験結果が、マヨラナ粒子に起因するかどうかを調べる。2)候補物質にキャリアをドープした場合、従来の超伝導とは異なる特徴を持つ超伝導状態が現れるかどうかを明らかにする。以上の研究で得られる成果は、物質科学の基礎、および量子コンピュータの基礎としての意義がある。
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研究実績の概要 |
今年度は、主として以下の2つの研究を行った。 1.異方的相互作用をする蜂の巣格子上のキタエフモデルに歪を加えた系での低エネルギー状態を数値計算と解析計算により調べた。歪みの効果は擬ベクトルポテンシャルと見做すことが出来る。歪み誘起擬ベクトルポテンシャルは、電荷を持たないマヨラナ粒子にも作用するので、観測や制御が困難なマヨラナ粒子を外部から制御する可能性を持つ。歪みがない場合にエネルギーギャップが現れない相互作用のパラメータ領域で、エネルギー固有値と局所状態密度を数値計算した結果、a)低エネルギー領域には量子化された状態が現れ、その量子数依存性はディラック・フェルミ粒子のランダウ準位に等しい、b)エネルギーゼロの量子化準位は、系が時間反転対称性を持つことを反映して、2種類の副格子の片方にだけ現れる事を明らかにした。以上より、蜂の巣格子上のキタエフモデルに歪を加えた系では、相互作用に異方性があっても、遍歴マヨラナ粒子はランダウ準位に量子化されることを明らかにした。この結果は、等方的相互作用をするキタエフモデルでは歪み誘起マヨラナ・ランダウ準位が現れる事を示した先行研究を拡張する結果である。更に、解析計算によっても、この系では歪み誘起マヨラナ・ランダウ準位が現れる事を示した。 2.ハイゼンベルグ相互作用、および対称非対角相互作用を含む蜂の巣格子上の拡張キタエフモデルにホールをドープした系の基底状態を繰り込み平均場理論に基づき調べた。得られた結果は以下の通りである。a)低ドープ領域ではカイラルp波超伝導状態が実現している。この結果は先行研究で得られたU(1)スレーブボソン平均場理論による結果と矛盾しない。b)低ドープ領域のエネルギーはホール濃度に関して上に凸の依存性を示し、この事は空間的に非一様な超伝導状態である事を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は計画していた研究の中から、まず、昨年度の研究成果を論文にまとめ、専門誌に掲載された(T. Suzuki, T. Yamada, and S. Suga, Phys. Rev. B 103, 224425 (10 pages) (2021))。「研究業績の概要」に書いた「研究1」は、本研究課題を進めているうちに、その重要性から新たなテーマとして取り上げた物で、研究成果は日本物理学会や研究会などで発表している。更に今年の夏にHFM2022やLT2022でも発表する予定である。さらに現在、会議録や本論文にまとめる準備をしている。「研究2」は研究計画に書いた内容であるが、適切な計算方法を確立するのに試行錯誤を重ね、今年度になって信頼できる結果が出始めた。結果は既にISS2021や春の物理学会で発表しており、今年の夏にSCES2022やLT2022で発表する予定である。 代表的なキタエフ候補物質である\alpha-RuCl3の単層膜を作成する研究の報告が春の物理学会で行われた(田中等 15pGB32-8)。また、キタエフ候補物質にホールをドープする研究も行われている。これらの研究は、それぞれ、上述の歪み誘起マヨラナ・ランダウ準位やカイラルp波超伝導状態の実験研究へと繋がる事が期待される。コロナの影響で研究期間を延長した次年度は、実験との対応を考えながら、これら二つのテーマをさらに発展させる予定である。 このように、計画した研究はもちろん、新たなテーマを取り入れながら研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
以下の研究を行うとともに、最終年度として研究の総括を行う。 1.相互作用の異方的が強い蜂の巣格子上のキタエフモデルに三軸歪を加えた場合の低エネルギー状態を調べる。相互作用の異方性が強くなり、歪みがない場合にエネルギーギャップが生じる相互作用の領域における低エネルギー状態を数値計算と解析計算の両方で調べ、マヨラナ・ランダウ準位が現れるかどうかを明らかにする。その相互作用領域では、励起連続帯が低エネルギー領域にシフトして、マヨラナ・ランダウ準位が現れる領域が低エネルギーの狭い範囲に限定される可能性がある。そのため、系のサイズを大きくして計算精度を上げる必要がある。 2.マヨラナ・ランダウ準位の観測可能量を計算し、実験に先立つ物性予測を行う。具体的には、走査型トンネル顕微鏡を念頭に置いた局所状態密度の計算、およびラマン散乱スペクトルの計算を行う。 3.蜂の巣格子上の拡張キタエフモデルにホールをドープした系の基底状態を繰り込み平均場理論に基づき調べる。3種類の相互作用とドープ量を系統的に変える事で、カイラルp波超伝導だけでなく、それ以外の超伝導状態や秩序状態が現れるかどうかを明らかにし、相図を決定する。 4.キタエフ候補物質のバンド構造を密度汎関数法などで計算し、その結果を基に揺らぎ交換近似でキャリア間有効相互作用を計算する。そしてエリアシュベルグ方程式を解くことで、超伝導状態のペア対称性を調べる。得られた結果を3の結果と比較し、現れる超伝導状態のペア対称性を議論する。
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