研究課題/領域番号 |
19K03759
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野嵜 龍介 北海道大学, 理学研究院, 名誉教授 (00180729)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | ガラス転移 / 過冷却液体 / α緩和過程 / 広帯域誘電分光 / 複雑液体物理学 / アフファ緩和過程 |
研究開始時の研究の概要 |
液体が結晶化せずに固化するガラス転移現象は、ほとんどすべての物質に普遍的にみられる現象であるが、その分子論的メカニズムは未解明であり、物性物理学における最重要課題の一つになっている。一般的な解釈は「液体の分子運動のスローイングダウン」である。この場合、分子運動の速さに対応する誘電α過程(構造緩和)の緩和周波数の温度依存性は、ガラス転移に伴う緩和効果を取り除いた測定を行えば、高温から低温ガラス転移温度付近まで単調な関数で表すことができる。しかし、関数形に変化があれば、低温における遅い分子運動を伴う物質の状態が高温の液体・過冷却液体状態と異なり、ガラスは新しい状態として定義できる可能性がある。
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研究実績の概要 |
昨年度までに、熱測定ガラス転移温度より低い温度までα緩和過程の観測が可能と分かったソルビトールについて、熱履歴を考慮した超広帯域誘電分光測定を行い、特に超低周波領域の誘電緩和時間の温度依存性について詳しく検討した。 炭素数Nc=6のソルビトールは(熱的ガラス転移温度~269K)、研究代表者をはじめ世界的に多くの研究者により過冷却・ガラス転移の研究において標準物質の一つとして用いられ、その分子ダイナミクスは様々な角度から研究されている。しかし、ガラス転移現象がかかえる強い緩和効果(熱履歴依存性)のために、熱的ガラス転移温度を含んだ温度領域におけるα緩和を検討した研究は大変少ない。準安定過冷却液体状態を維持した実験を行うには、前年度までの研究から遅い冷却が必要である。今年度は、265K~343Kの広い温度領域における過冷却ソルビトールのα緩和の緩和周波数の温度依存性を得ることができた。解析の結果、全温度領域でα緩和周波数は~1/(T-To)(VFT)的な温度依存性を示した。 詳しい解析の結果、熱的ガラス転移温度を境に、高温側と低温側で温度依存性を表す関数形に違いが見いだされた。α緩和周波数は、低温度側では高温側が与えるVFT関数からずれ、より2K低いToのVFT関数を与える。また、低温側の振る舞いがアレニウス則を満たすという以前の研究結果とは異なる。この違いは、以前の研究における熱履歴の考慮が不完全であったことを示している。 これらから、ガラス転移現象は緩和効果により現れた見かけの現象ではなく、温度低下とともに過冷却液体が質的に異なる「過冷却液体」への転移であることが示唆される。今回得られた実験結果は、緩和効果を取り去った際に見ることができる真のガラス転移の前兆なのかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソルビトールにおいて熱的ガラス転移温度より低い温度における過冷却液体状態を維持したときのα緩和過程の温度依存性に関して、十分に信頼性があるデータを得ることができた。そのため、ガラス転移現象の本質を物理学的に考察する糸口を与えることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画(4年間)からの大きな変更は予定していない。ソルビトールに関して、信頼できる過冷却液体状態のα緩和周波数が熱的ガラス転移温度以下の温度領域まで得られたので、今後はガラス転移現象の本質について詳しい考察を行う。今年度は、研究代表者の健康的理由により国際会議における招待講演をキャンセルしたので、可能であれば当該分野において権威がある国際会議であらためて研究発表を行う予定である。
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