研究課題/領域番号 |
19K03825
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笹倉 直樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (80301232)
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研究分担者 |
佐藤 勇貴 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (70714161)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | テンソル模型 / 時空の創発 / 相転移 / テンソルの固有値方程式 / 量子重力 / 古典時空 / 正準テンソル模型 / リー群対称性の創発 / 行列模型 / 波動関数 / エアリ関数 / リー群 / データ解析 |
研究開始時の研究の概要 |
一般相対性理論と量子力学を一貫した理論体系に組み込む量子重力理論の構築は、基礎理論物理学における最も重要な課題の一つである。本研究計画で扱うのは、そのようなアプローチの一つである「正準形式によるテンソル模型」である。本研究計画の主な目的は、これまでに我々がデータ解析の数学的手法を使って導いた「テンソルと時空との対応関係」を更に発展させ、テンソルと一般相対論における様々な時空的概念との対応関係を明らかにし、正準テンソル模型の古典的および量子論的ダイナミクスを時空のダイナミクスとして記述することである。さらに、現実の時空と比較し、正準テンソル模型の検討も行う。
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研究実績の概要 |
重力を量子力学と無矛盾に定式化すること(量子重力の構築)は理論物理における長年の最重要課題あるが,方向性として,時空間は基本的なものではなく,より基本的な自由度から創発されるという考えがある.その考えに基づく離散的な理論としてテンソル模型がある.正準形式に基づくテンソル模型においては,波動関数の性質を調べることにより,時空の創発現象を調べることができる. 本年度の研究では,時空の創発現象を理解する上で重要な成果があった.一つは,波動関数の実部の理解が進んだことである.実部はテンソルを外部パラメータとし複数のベクトルを自由度とする統計系であるが,テンソルのランク分解におけるコスト関数とも解釈でき.データ解析の応用数学の観点からも興味深い系である.前年度までの研究により,この系においてGross-Witten-Wadia相転移に似た現象により量子相から古典層への転移を経て,時空の創発現象が生じることが数値計算により示唆された.本年度の研究では,あるラージN極限を取る事によりこの相転移現象を厳密に計算し,この相転移現象が複数の1次相転移であることを示した.またいくつかのテンソルの例について,この相転移を経て時空がどのように創発されるのかを具体的に見ることができた. もう一つ成果は,運動量表示での正準テンソル模型の波動関数に関する成果である.運動量表示における波動関数の評価の一つの方法として,鞍点法による評価がある.この鞍点方程式は,テンソルの固有値方程式として知られているもので,データ解析の応用数学の観点からも興味深い.しかし,行列の場合と異なり,テンソルの固有値方程式は非線形であり,その性質の理解は容易でない.本年度の研究では,テンソルが正規分布する場合の固有値の分布が0次元の場の理論により表現されることを示し,固有値分布を計算した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は正準テンソル模型において巨視的な時空が創発されていることを示し,その時空の運動方程式が一般相対論で記述されることを示すことである.前者については,あるラージNの極限とはいえ,時空間の生成が厳密に1次相転移現象として記述されることが今年度の研究によって明らかになったことは非常に大きな成果であると考えている.その一方で,いくつかのまだ不明な点を明らかにする必要がある.一つは,波動関数の全体像が良くわかっていないことが挙げられる.ピークの存在する場所と配位の持つリー群的対称性が深く関連していることが示されているものの,そのピークが波動関数の全体から見て十分に大きくて支配的かどうかはわかっていない.それが明にされないと,そのようなリー群対称性を持つ空間が支配的になるということをいうことを示すことができない.また,波動関数はある数のベクトルについての積分で表されているが,その数は正準テンソル模型のハミルトニアンのエルミート性と結びついているため,変更することはできない.一方で,その数はラージN極限においてNの二乗で振る舞い巨大である.今年度の研究では,技術的な理由により,この数を有限にとった場合のラージN極限しか取られておらず,技術的な克服が必要である.また,一般相対論との関係については,古典時空が生じたと仮定すると一般相対論が導かれるという結果が得られている.この以前の結果を,今年度の研究で得られた具体的な創発された時空に対してどのように当てはめるのかを明らかにする必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により波動関数の実部の理解はかなり進んだが,波動関数は一般に複素数であり,虚部も含めた評価が必要である.実だけの場合と異なり,波動関数が干渉する効果の計算が必要となる.一般に,符号問題と呼ばれる問題を含んでいるため数値計算も困難である.なるべく正確な解析的な評価が必要である.困難ではあるものの,実部に関する理解を拡張する事により,虚部を含めた解析が進行中である.実は,波動関数の実部だけを評価した場合には,空間が小さいものの方が波動関数の値が大きく,空間が潰れる方が確率的に好まれるという結果になる.一方,暫定的な結果ではあるが,虚部の効果を入れると空間が巨視的に残るところに波動関数のピークが存在するという結果が得られている.今後の研究によって,この結果を確立したい. また,この波動関数の形は,スピンガラスの模型で知られている p-spin spherical model と呼ばれているものと酷似している.この模型では,流体相とガラス相が存在する.まだ非常に暫定的なレベルではあるが,上記の波動関数のピークは,この流体相とガラス相の丁度境目に存在しているように見える.もしこのことが正しければ,我々の時空は流体とガラスの丁度真ん中の性質を持つものという大胆な仮説が成立する.この仮説がどこまで正しいのか,またその物理的意味を追求したい. また,固有値分布の計算を0次元の場の理論に書き換えて計算を行うという手法は,テンソルの固有値問題だけでなく,実部の計算に自然に現れるテンソルのランク分解の分布問題など,様々な拡張が可能である.場の理論による計算手法の拡張を推し進める事により,波動関数の評価に対する理解を深めたいと考えている.
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