研究課題/領域番号 |
19K03863
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 大阪大学 (2022) 京都大学 (2020-2021) 東京大学 (2019) |
研究代表者 |
西岡 辰磨 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (90747445)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 共形場理論 / 量子誤り訂正符号 / 欠損演算子 / 量子エンタングルメント / ホログラフィー原理 / ブラックホール / 量子物質 / ゲージ/重力対応 |
研究開始時の研究の概要 |
量子コンピューティングに代表される次世代技術の実現には物質中の量子力学的効果の制御が極めて重要であるが、量子物質研究は未だ黎明期にあり、量子計算などの技術革新を支える理論的基盤の形成が必須の課題となっている。
本研究では量子物質の背後に潜むエンタングルメント構造に着目することでその理論的枠組みを構成する。特に量子エンタングルメントを横糸として、量子多体系、ホログラフィー原理、量子情報、量子重力理論に渡る学際的なアプローチでその本質に迫る。また量子エンタングルメントを指標とした量子物質の特徴付けと、量子エンタングルメントそのものの新たな定式化を模索する。
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研究実績の概要 |
2022年度は拡がりを持つ演算子(欠損演算子)の存在する共形場理論の定性的性質の研究、および量子誤り訂正符号から構成出来る二次元共形場理論の研究を行った。
大阪大学の嶋守氏、東京大学の奥山氏との共著Phys. Rev. D 106, no.8, L081701 (2022)では電磁気学における鏡像法のように、欠損演算子入りの共形場理論における相関関数が、通常の共形場理論の相関関数として常に書き表せることを示した。また同氏らとの別の共著 JHEP 03, 051 (2023), JHEP 03, 203 (2023)では 4-epsilon 次元における O(N) ベクトル模型において境界および線演算子という欠損が存在する場合を調べ、これらの理論における点演算子の共形次元が3つの物理的に自然な公理系のみを用いて導出した。またこの手法で得られた点演算子の共形次元に対する結果が摂動論を用いて得られたものと一致することを示した。
東京大学の川畑氏と奥田氏との共著arXiv:2212.07089 [hep-th](SciPost Physics Core に受理済)では非二進数上の量子誤り訂正符号から二次元共形場理論を構成する具体的な手法を与えた。この構成法では量子誤り訂正符号を古典誤り訂正符号に対応付けを行い、それを高次元格子に拡張したのち、格子上のベクトルに対して共形場理論の頂点演算子を対応させる。この構成法を CSS 符号と呼ばれるクラスに適用し、対応する共形場理論のアンサンブル平均を調べることでそのホログラフィック双対な重力理論としての解釈を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究では共形場理論における拡がりを持つ演算子の定性的性質およびそれらの定量的性質を調べる手法を大きく発展させることができた。定性的な性質については電磁気学における境界値問題を解く際の鏡像法に類似した手法が、欠損演算子入り共形場理論の相関関数においても適用できることが明らかになった。その結果、境界条件を与える欠損演算子の情報が欠損演算子の無い共形場理論だけで表現できることになった。これにより今後欠損演算子入り共形場理論の理解が大きく進むと期待される。また欠損演算子入り共形場理論の具体例となる 4-epsilon 次元における O(N) ベクトル模型が、従来とは異なる公理的な手法を用いて解析できることが分かった。同様の手法は広く他の理論にも適用できる可能性がある。
量子誤り訂正符号は場の量子論のトポロジカル相やホログラフィー原理との関係が指摘され、近年様々な分野で研究がなされている。今回我々が与えた非二進数上の量子誤り訂正符号から二次元共形場理論を構成する手法により、これまでよりもさらに詳細な場の量子論の相構造の分類が可能となった。また近年示唆されている共形場理論のアンサンブル平均とホログラフィー原理の関係についても、具体的に量子誤り訂正符号の平均を取ることでアンサンブル平均を取った共形場理論と双対な重力理論の間の関係性を定量的に検証できるようになった。これらの発展は場の量子論の持つエンタングルメント構造の理解に大きく役立つと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
場の量子論における量子エンタングルメントはツイスト演算子と呼ばれる欠損演算子の相関関数として与えられることが知られている。今年度おこなった欠損演算子入り共形場理論の研究では鏡像法を適用することで相関関数が欠損演算子の無い共形場理論で書き表せることが分かった。この鏡像法を用いることで通常実行することが非常に難しい量子エンタングルメントの計算を、よりなじみ深いツイスト演算子の無い場の量子論の計算に還元できる可能性がある。今後は比較的簡単な場の量子論を中心に具体的に鏡像法を用いて量子エンタングルメントを計算する手法を発展させたい。また今年度開発した公理的なアプローチも有用か吟味したい。
我々は量子誤り訂正符号から二次元共形場理論を構成する手法を与えたが、量子誤り訂正符号を与えたときに得られる個々の共形場理論がどのような性質を持つかは調べ尽くしてはいない。特に今回の手法では量子誤り訂正符号からボソンのみを含む共形場理論しか構成できない。一方、共形場理論にはボソンだけでなくフェルミオンを含むものも存在する。今後は今年度得られた手法を更に拡張して量子誤り訂正符号からフェルミオンも含む共形場理論を構成できるか調べたい。また量子誤り訂正符号には三次元以上の時空のトポロジカル相と関係するものも存在する。このような特殊なクラスの量子誤り訂正符号から構成した共形場理論が上記のトポロジカル相とどのような関係があるのかも解明していきたい。
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