研究課題/領域番号 |
19K03904
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
堂谷 忠靖 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (30211410)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | X線連星 / 低質量X線連星系 / 中性子星 / X線バースト / X線パルサー / 状態方程式 / 低質量X線連星 / 核物質 |
研究開始時の研究の概要 |
重い星が一生の最後に超新星爆発を起こすと、そのあとに超高密度の星である中性子星が作られることがある。中性子星は、太陽と同程度の質量を持ちながら半径がわずか10km足らずしかなく、その中心部は地上では実現できない超高密度になっている。そのような超高密度の物質(核物質)がどのような振る舞いを示すのか、観測的に明らかにしようというのが本研究の目的である。それには、中性子星の質量と半径が核物質の性質に大きく依存することを利用し、逆に中性子星の質量と半径を観測から求めれば良い。本研究では、中性子星表面で核反応が爆発的に起きる現象、すなわちX線バーストの精密観測から、質量半径の計測を試みる。
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研究実績の概要 |
今年度は、低質量X線連星EXO0748-676からのX線バースト中に見られた吸収線様の構造の解析を継続した。観測された5つのX線バーストから、ピーク部分や減衰部分等でエネルギースペクトルを作成し、吸収線・吸収端の探索を行なった。そのうちのひとつで5.3 keV付近に吸収線様の構造が検出された。作成したスペクトル数を考慮すると、偶然検出される確率は約10%になり、統計揺らぎの可能性を排除できないことから、更なる解析は行わないこととした。 並行して、低質量X線連星4U1916-058の「すざく」衛星のアーカイブデータの解析を進めた。1週間という長期に渡る観測データが利用できるからである。X線光度に依存して、X線バーストとディップ(連星周期に同期したX線光度の一時的減少)が反相関して出現しており、明るい時にはX線バーストが起き、暗くなるとディップが出現していた。光電離プラズマモデルを使ったスペクトル解析から、ディップ時のみならず明るい時も光電離プラズマによる吸収の影響の存在が判明した。光電離プラズマによる影響を考慮しつつX線バーストのスペクトル解析を進めたものの、有意な吸収線・吸収端構造の検出には至っていない。 昨年度、中性子星の質量半径に制限を加える新たな手法として、X線パルサーの鉄輝線を使った手法を考案し、GX301-2の「すざく」アーカイブデータへの適用を進めた。その結果、鉄輝線の中心エネルギーのパルス周期に同期した変化が非常に小さく、その変化から降着円盤内縁のガスのケプラー運動を抽出することが難しいことが判明した。鉄輝線の成因となる中性ガスが等方的に分布しており、降着円盤内縁からの鉄輝線より桁違いに強いためと考えられる。 以上、低質量X線連星のスペクトル解析の結果、光電離プラズマの性質については理解が進んだものの、中性子星の質量半径の制限に必要な吸収構造の検出には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題については、終了を1年延長せざるを得なかったものの、研究目的の達成に必要な吸収線・吸収端の検出には至っていない。そのため、「やや遅れている」とした。 当初の計画では、X線バースト中のエネルギースペクトルに吸収構造を検出し、重力赤方偏移すなわち中性子星の半径質量比を推定する予定であった。「てんま」衛星等の過去の観測によると、吸収線と思われる構造の検出頻度はあまり高くない。当時使われていたガス蛍光比例計数管と比べ、検出器がX線CCDになりエネルギー分解能がfactor 4程度良くなったものの、「すざく」衛星のアーカイブデータ8天体の解析からは、吸収構造が検出できていない。X線CCDでは検出頻度を大きく向上させることが難しいと考えられる。 NICER等の他衛星のデータについては、IGR J17062-6143のように、吸収線(3.4 keV)の検出報告(Bult et al, 2021, ApJ, 920, 59)がある天体もあるが、吸収線1本の検出に留まっているため、元素の同定ができず、重力赤方偏移の推定には至っていない。これまで検出報告がある吸収線候補の中心エネルギーのばらつきが大きいことと、いずれも吸収線候補の検出が1本のみであることから、検出例を単純に増やすだけでは、重力赤方偏移の推定は難しいと考えられる。 別の手法として、X線パルサーからの鉄輝線を用いる方法を考案し、鉄輝線が最も強いパルサーの一つであるGX301-2の解析を進めた。しかしながら、パルス周期に同期した鉄輝線の中心エネルギーの変化が非常に小さく、目的とする降着円盤内縁からの鉄輝線を分離することができなかった。 このように、研究の進展に伴い様々な知見が得られているものの、研究目的の達成には、質的に異なるデータの解析が必要と考えられる。この点については、「今後の研究の推進方策」で述べる。
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今後の研究の推進方策 |
「すざく」衛星を始めとするシリコン半導体検出器を搭載したX線望遠鏡で取得したデータからは、これまでのところ重力赤方偏移の推定につながるようなスペクトル構造の検出には至っていない。この点を大きく改善する方策として、2023年9月に打ち上げられたXRISM衛星のデータの解析を行う。XRISM搭載のマイクロカロリメータは、X線CCDに比べてfactor 20も良いエネルギー分解能をもつため、微弱な吸収線でも検出可能になる。これは、単純に弱い吸収線の検出能力が上がるだけでなく、連続成分と吸収線の分離が明確になり、広がった吸収線の検出能力向上にもつながると考えられる。XRISMチームメンバの一人として、試験観測期間に取得されるX線バースト天体のデータ(4U1916-053, GX13+1, Cyg X-2, Cir X-1)を解析するとともに、観測提案を行い新たなデータの取得も目指す。XRISMの試験観測は今年の初め頃から行われており、観測データは順次チームメンバに送られ解析が行われ始めている。X線バースト天体も順次チームメンバにデータが届き始めており、年度内には十分解析を終えることが可能である。 並行して、X線パルサーを使った解析手法についても、XRISMデータ(Cen X-3)への適用を行う。鉄輝線としては、中性の鉄、ヘリウム様電離鉄、水素様電離鉄からの輝線が知られており、いずれも強度変動を行うが、XRISMのエネルギー分解能を使えば、これらの輝線パラメータを独立して決定できる。そこで、降着円盤内縁からの鉄輝線を分離し、そのドップラー偏移を決定できれば、中性子星の質量半径への制限となり得る。 以上、2つの解析を行い、当初の目的である中性子星の質量半径への制限を得ることを目指す。
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