研究課題
基盤研究(C)
磁性酸化層に特有の90度磁気結合を用いて、特異な磁気構造をもつ“擬似反強磁性層”を創製し、スピントルクによりサブTHzまで磁化発振を目指す。3d強磁性体は発振周波数GHzでスピントルク発振が実証されているが、反強磁性体は周波数THzと期待されるものの課題がありスピントルク発振は実証されていない。本提案の擬似反強磁性層は、隣り合う磁区の磁化が反平行で、反強磁性体のように磁化がゼロの物質である。ただし磁区の中は強磁性体であることから、強磁性体と反強磁性体の中間に相当する。この独自の擬似反強磁性層で、反強磁性体では実証の難しいスピントルク発振を実証する。
一般的な3d遷移金属では数GHzであるスピントルク周波数が高くなることを期待し、特異な90度結合を利用して擬似反強磁性層を作製した。静的な評価から得られた物性値に基づく数値計算により、動的な特性を見積もったところ、スピントルク発振周波数が最大で15GHzであることを導いた。さらに周波数を上げるために、磁化配列の設計を行った。その結果、2層の磁化が垂直と面内磁気異方性を持つとき、90度磁気結合を導入すると、スピントルク周波数が50GHzまで増加した。
磁性薄膜におけるスピントルクは、1996年の理論提唱、2001年の実験実証されて以降、精力的に研究され続け相応の時間が経っているが、明確な応用には結実していない。当初は汎用的な強磁性薄膜で研究され、近年は新たに反強磁性体で新たな物理を見出す研究が盛んである。これに対し、自然界には存在しない擬似反強磁性体を創成し、その物性を実験と計算の両面から明らかにし、周波数の観点では汎用元素を用いつつも50GHzまで増加できたことは、今後の応用先拡大と学理の深耕に結び付くものである。
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