研究実績の概要 |
昨年度に引き続いて,多変量時系列として観測された実データとして,Qiuらによる4連装ベアリングの実験装置から得られたもの(文献1,IMS Bearing Dataset;8変量×約4415万行からなる時系列データ)を題材とし,複数のベアリングが相互に作用して生じると考えられる,依存故障発生の予兆の推定方法について数理・統計的なモデルの検討を行った.特に今年度はコピュラによる依存性の抽出モデルのみならず,タケンスの埋め込み定理を背景としてもつ,カオス的時系列データの分析法(文献2)の適用について検討した.この手法は古典的な手法の一つとして知られているが,現在においてはあまり適用例を見ることがない手法とも言え,試す価値があるものと考えた.この手法には外生的に与えるべきパラメータ値の種類が複数あり,それらの値の選び方などにさらなる検討が必要である.しかしながら,「いつベアリングに異常が起こったのか」という本研究の基本的課題については,一定の役割を果たしうることが分かった.今後は依存故障,連鎖故障の予兆の推定について検討を進める.
(文献1) Qiu, H., Lee, J., Lin, J. and Yu, G.“Wavelet filter-based weak signature detection method and its application on rolling element bearing prognostics,” Journal of Sound and Vibration, Vol. 289, 1066-1090 (2006). (文献2) 大鋳 史男:“時系列データを判別するカオス的手法について,”日本応用数理学会論文誌, Vol.12, No.1, 67-78 (2002).
また,上記の他,コピュラに関する本研究に関連する研究成果として,非対称な二変量データに関するモデリングに関するものがあり,これについては共同研究者との成果発表を行った.
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